この復讐うまくいくのか?
1水木怜奈
がたんごとん。がたんごとん。
電車に揺られながら、私はため息をついた。行き先がわからない。もう、駅名も全部把握しているしこの電車がどう周回するのかもわかる。それでも思う。
どこに向かっているんだろう?と。別に目的地と逆の電車に乗ってしまったとかそういうことではなく、私には目的地がない。ただ私という憂鬱をのせて電車はぐるぐるまわっている。私が座っているにも関わらず小汚いおっさんがつめてつめてと言うように座ってくるので、私は立ち上がり、またため息をついた。
なんでそもそも私は、エンジニアになろうと思ったのか。それは将来性を感じたからだ
ITという分野のものに。私は文系で、数学物理なんてなんだったっけ?数1数Aとか、どういう定義でわけてんだっけ?というレベルのものだが、ネットサーバーとかサポートみたいなエンジニアって未経験でもなれるんだよね。
だから志望したんだ。未経験オーケー、安定、将来性。いろいろおいしいものにつられて
会社に入った。そして48連勤の後に私は無事自殺に成功した。
なにが将来性だ。本末転倒もいいとこである。
この電車の速度に惹かれ、轢かれ。そして今いっちゃえば私は幽霊というわけなのだ。
そして、この電車に
とりついているわけだけども。
「はぁあ……なんで死んだのに解放してくれないの」
社畜って自由になりたくて死ぬんでしょ、まさか死んでも社畜は社畜のままなんて思わなかったよ。
会社と家のいったりきたりが電車にとじこめられいったりきたりにかわっただけじゃん。
それに私夜の駅って苦手なんだけど。幽霊でそうで。そういうホラー映画いっぱいみた。
私も幽霊だけど、夜ひんやりと静まった車内は怖くて仕方ない。
幽霊でも恨みつらみのVS戦があり、負けるかもしれないじゃないか。
そしたら私は生きてる間でさえ脆弱だったのだから、死んでからでもたぶん負ける。
ああ、私以外の幽霊が怖い。
『次はー町丘毬駅~』
アナウンスが入る。ここは、私を殺した会社がある駅だ。
ぞろぞろとそこで降りるのも、生気のないサラリーマンたち。まあ、まったく同じ会社にいくわけではないだろうけども。オフィス街だしさ。でも、その度、胸が痛む
きっと、早々に逃げ出し、見事あまり痛みもなくおっちんだ私に比べ彼らはまだ、いろいろな責任にとらわれ、足を引きずって生きている。家、世間、会社、すべての鎖にとらわれながら死んだ方がましだと呪って。死んだほうがましだった私からいうと、ほんと死んだ方がましだ。
それでもやっぱり、くやしさもある。なんで私しんじゃったんだろうって。
だって、しんでも会社は微塵も悪いことととられなかったしそれなら
毎日暴言を飛ばしてきた上司を刺してから死ぬのでもよかったのではないかと
すごく今更に思う。
その時だった。ざわざわと黒い集団に紛れ、そのホームに降りる男性の一人—―……。
あきらか半透明で足がないやつがいた。ええっとこれは
「……あなた、幽霊?」
そう呼びかけると、男はハッと顔をあげる。同時にぷしゅーと扉はしまり、その霊体の男はおりそこねてしまった。
がたんごとんとまた電車がすすむ。ええっと申し訳ないことをしたかな
いくら幽霊とはいえ出社?の邪魔をしてしまった。
でも大して気にした様子もなく男は笑った。
「そう、俺は幽霊だよ 君もだねはじめてみた
何車両目に普段いる?俺ここにとりついてしばらくだけど」
「ええ、確かいつもは三両目ぐらいに」
「通りで、みないわけだ」
目を丸くしてぺらぺら喋る男に、そういやこれがはじめての、霊体になってからの会話では?と思い至り、つい泣きそうになった。
なんだかんだで、通勤や退勤するだけのおっさんの生え際を見る老後ならぬ霊後が寂しかったのだろう。私は。
「てか、君すごいかわいいじゃん?なんで自殺しちゃったのもったいない
会社でいやなことあったって、絶対きみなら男のほうから養うよヘイって言ってもらえたと思うんだけどな」
「いまどきどこも、共働きだし、私迷惑かけていきたくないからさ」
「もしかして専業主婦のこと迷惑っていってる?そんなことないさ
家事代行サービスがあるくらいだよ?立派なビジネスじゃないか。俺はそう思うけどねえ」
男は茶髪で、ぼっさぼさの頭ではあるがなぜか清潔感があった。
それはふけとかついてないし、はね方にも法則があるし、顔だちもそこそこいいからそう思わせるのであろう。
「そういうあなたは、やたらと明るそうにみえるけど、ピアスあけたあとみたいなのもあるし。なんで死んだの?」
「俺は自殺じゃないよ。退職届を意気揚々と出しにいこうとしたら
はさまって死んだんだよね。ホームと扉、結構離れてるじゃん?そんなことない?俺がはさまりやすいだけ?そういや昔っから近所の塀にはさまってたなあ。まあいいや
でもそこで死んだおかげで俺、電車おりて売店のとこまでは移動できるんだよ。
死んだときのあたり判定でランダムで移動できる範囲きまるらしいよこれ」
「そ、そういうシステムなんだ」
でも、それはなんだか羨ましい。わたしもあたる場所考えてから死ねばよかった。
「それにしても、あともう一歩だったのに!次の仕事先きまってたのに
おっしいなあ」
「私はそんな余裕もなかったよ、でもそうだよね後悔あるよね」
「「毬システム会社め……」」
会社名を同時に言い、え?と顔をあわせた。
男と私。
「あなた私と同じ会社だったの?」
「うっそぉ まじか あ、そういや挨拶わすれてたな俺こういうものですどうぞ」
「うっわ名刺交換……しんだのにやると思わなったよ。やっぱ同じ会社だね」
名刺には見知ったマークに、社員とお客様に幸せをなんて腹の立つスローガン
そして秋村和男という名前があった。
秋村は名刺を頂戴します。と胸にかかげた後にため息をつく。
「あのさあ、やっぱあの会社、死人多くだしてんじゃん?なのに問題にならないのっておかしくね?後、俺さあ最近気づいたんだけど、たまに物触れる時あるんだよね
売店の蒸しパンをつつきまくってたら、確かにビニールが指の形にへこんでさ」
「なにやってんの迷惑なんだけど……でも、私いくらつり革殴っても、リアルでは微塵も動いてないみたいよ?」
「君も電車内でなにやってんの。そうかやっぱり、移動範囲も、できることも霊体によって違うのかもしれない。なあ、すこし考えたんだ
俺一人じゃどうもできなかったけど、これ何人か集まったら
いまからでもさ、会社に復讐してやれないかな?」
そういった秋村和男は、へらへらとした顔とは裏腹に、その瞳に確かな闘志を燃やしていた。
まるで、ずっとそうすることを企んでいたかのように。