金魚、ハチ。
月明かりに照らされるは金魚鉢。
丸いガラスのなか、泳ぐオレンジ色の魚。
ずっとわたしも、そこにいる。
(金魚 少女 鉢)
水面を泳ぐお月さまはきらきらと揺れ、水中を泳ぐオレンジのヒレもゆらゆらと揺れる。揺れるお月さまと、彼女のオレンジを、ずうっと見ていた。
いつからここにいるのだろう。いつからわたしは、ここにいるのだろう。ここから見える景色は全てゆらゆらと揺れ、そこから覗く人々の瞳もぎょろぎょろと揺れる。はじめこそ不気味だったそれにも、また今日も来たのだな、と呆れに変わってしまった。
わたしがいるこの鉢は、夜になると月の光が真っ直ぐに差し込む。わたしは毎度その光を見つめては、まるで見せ物にされているようだと不快に感じていた。いつか連れ出してくれる一筋の光なのではないかと、そう思っていたのは、いつのことだったか。
ぎょろぎょろと揺れる瞳の奥に、いつも決まった席に座った少年がいた。眉根を寄せて、鉢の中のわたしや彼女を見つめている。彼は、何を考えてこちらを見つめるのだろうか。わたしたちが嫌いなのだろうか、むしろ、心配してくれているのだろうか。なんて都合のいい解釈をしてみたが、どちらに転んだところで、わたしがここにいることは永遠に変わらず、明日もこの瞳と、光と、彼の視線に晒されるのだろう。
嗚呼、なんて退屈な。
退屈な。
わたしはどうして、ここにいるのだろう。
眠ってしまえたらいいのに、と目を伏せた時、ガタリと大きな音がする。その音の方向に視線をやると、その少年が勢いよくこちらへ駆け出していた。ぎょろぎょろな目を押しのけて一気に鉢の前へと立つ。驚いたわたしは動くことも出来ず、目の前に現れた少年を見つめるしかなかった。彼の眉根は、寄ったままだった。
彼の手が伸び、
鉢を掴み、
持ち上げられたそれは、
急速に床へと落下した。
わたしの視界には、もう寄せられた眉は映っていない。
代わりに在るのは、ほっとしたような少年の笑み。
それと、わたしのものか彼女のものなのか分からない、オレンジのそれ。
嗚呼、なんだ。
-----きみが光か。