表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

金魚、ハチ。

作者: 佐々木 遊音



月明かりに照らされるは金魚鉢。


丸いガラスのなか、泳ぐオレンジ色の魚。


ずっとわたしも、そこにいる。




(金魚 少女 鉢)









 水面を泳ぐお月さまはきらきらと揺れ、水中を泳ぐオレンジのヒレもゆらゆらと揺れる。揺れるお月さまと、彼女のオレンジを、ずうっと見ていた。


いつからここにいるのだろう。いつからわたしは、ここにいるのだろう。ここから見える景色は全てゆらゆらと揺れ、そこから覗く人々の瞳もぎょろぎょろと揺れる。はじめこそ不気味だったそれにも、また今日も来たのだな、と呆れに変わってしまった。


わたしがいるこの鉢は、夜になると月の光が真っ直ぐに差し込む。わたしは毎度その光を見つめては、まるで見せ物にされているようだと不快に感じていた。いつか連れ出してくれる一筋の光なのではないかと、そう思っていたのは、いつのことだったか。


ぎょろぎょろと揺れる瞳の奥に、いつも決まった席に座った少年がいた。眉根を寄せて、鉢の中のわたしや彼女を見つめている。彼は、何を考えてこちらを見つめるのだろうか。わたしたちが嫌いなのだろうか、むしろ、心配してくれているのだろうか。なんて都合のいい解釈をしてみたが、どちらに転んだところで、わたしがここにいることは永遠に変わらず、明日もこの瞳と、光と、彼の視線に晒されるのだろう。


嗚呼、なんて退屈な。


退屈な。



わたしはどうして、ここにいるのだろう。


眠ってしまえたらいいのに、と目を伏せた時、ガタリと大きな音がする。その音の方向に視線をやると、その少年が勢いよくこちらへ駆け出していた。ぎょろぎょろな目を押しのけて一気に鉢の前へと立つ。驚いたわたしは動くことも出来ず、目の前に現れた少年を見つめるしかなかった。彼の眉根は、寄ったままだった。


彼の手が伸び、






鉢を掴み、










持ち上げられたそれは、

















急速に床へと落下した。




わたしの視界には、もう寄せられた眉は映っていない。

代わりに在るのは、ほっとしたような少年の笑み。

それと、わたしのものか彼女のものなのか分からない、オレンジのそれ。




嗚呼、なんだ。




-----きみが光か。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ