第1話 主観は人の数だけある
第七位階上位
朝日に照らされる縁側で、食後のまったりタイムを満喫する。
僕の膝にはアヤの頭が乗せられ、反対にはリナが僕にくっ付いている。
南から涼やかな風が吹き、青々とした香りを運んできた。
僕はゆっくりとお茶を飲み、一言。
「……暑くない?」
「「まったく」」
ダウト。汗かいてるの見えてるぞー。嘘付きはいけない事なんだぞ。
訝しむ様に2人を見る。
「嘘はついてないよー」
「……そう、暑さ、寒さは人の感覚次第。よって私達は暑くない」
「成る程」
意味合いとしては確かにそれも正しい。そう、僕は言い方を間違えたのだ。
正しくはこうである。
「僕が暑いんだけど」
「おにぇちゃんは妹の言う事を聞くものです」
「……姉の言う事は聞くものよ」
「板挟みだ」
抵抗の余地が無い。
まぁ、神事の間は概ね真面目モードで、2人も疲れているのだ。
これは毎年の事である。
片付けで僕等がやる事は無いし、キリカやリンカちゃん含む他何名かはちょっとだけ後処理で忙しい。
それ以外の皆はアナザーやってるし、今日から始めるシキナとチアキと他数名は、ビデオ通話で僕の情報を元にした迷宮攻略作戦会議をしている。
参加予定者は、お仕事中のキリカとその妹カオル。シキナと妹シオリ。それからチアキとマシロだ。
残念ながら、チアキの弟チヒロは中学最後の夏、部活に精を出しており不参加。
妹のチエは十中八九拳姫のヨウだし、マヒルはテルマなので既にゲームを始めている。
そしてマヒルの弟のマヨイはまだ低学年のお子様なので不参加。
と言う訳で、スタートダッシュを決めるのは、ちょうどパーティーの上限人数である6人である。
マレビト招致まではまだ時間があるが、そろそろログインしよう。
「そろそろアナザーやろうか」
「はーい」
「……仕方ない」
はーいと言いつつ僕にしがみ付くアヤと、名残惜しそうに離れるリナ。
そして離れないアヤに気付いて離れるのをやめるリナ。
……取り敢えずキメとく?
◇
《《【探索クエスト】『浅瀬に光る牙』を『カイト』がクリアしました》》
謎物質ユキミンをバシッとキメさせてアナザーにログインすると、真っ先にそのメッセージが流れた。
タクメッセージによると……どうやら王都東の海域が開放されたらしい。
僕もカイト何某の情報は少し掴んでいる。
リスティアのモンスターカードショップでサメとイルカを購入して、リスティアの人が少ない海鮮エリアで荒稼ぎして行った人だ。
荒稼ぎと言っても、水中戦闘が人のレベル内で上手く、水中系スキルに特化して鍛えているらしいと言う程度なので……まぁ、ソロにしては大分稼いでいる方と言ったくらいだ。
だが、それらの稼ぎと素材で自分用の道具を一式揃えた後は、ひたすらにサメとイルカに資金を投入していた。
カイト氏は現状僕とタク達を除いて、全プレイヤーの中で最も水中戦が強いプレイヤーだ。
……もしかすると、水中と言う限られた環境で配下のモンスターも使えば、装備を除いたタク達にすら勝ち得るかもしれない。
ともあれ、これでルベリオン王国王都東の海の幾らかが開放された。
元々およそ300メートルくらいは進めたが、黒霧の報告によると、今は陸から4キロ前後まで開放された模様。
これにより、東の海をちょっと行った所にある小さな島や岩に行ける様になったらしい。
折角だから何かクエストとか設置しておこう。
例えば……海の攻略を進めてくれそうなカイト氏の為に、幽霊船ならぬ幽霊小舟をゲット出来るクエストとか?
小島や岩以外では……開放された王都東のクレーター型をした海の中央に、ボスと思わしきちょっと強めな巻貝の魔物を発見したくらいだ。
情報によると、年齢がおよそ300歳くらいの貝で、レベルは低く32。
鉱物食の力を備え、殻は非常に堅固。水の魔法を使う他、外敵には毒針を飛ばして来る様だ。
レベル32と言うと、同レベルでも陸上型では碌な勝負にならない筈だ、攻略までは時間が掛かる事だろう。
因みにモンスターカードで売り出しているポイズンシェルの特殊進化個体である。
素材を持って来たら特別な進化を施してやっても良いよ?
それにしても……レベル32って言うのは僕からしたら雑魚だが……今のルベリオン王国にとっては大敵だ。その情報が一切無いと言うのは……。
まぁ、貝自身中央から全く動かず砂食べて生きてる様だし、気付かなかったのだろう。
はっきりと言えるのは、その貝は巨大イカに踏まれても生きてるくらい堅固な殻を持っていると言う事だけである。
……頑張れカイト、君なら出来る! ポイズンシェルを買って囮に使うんだ!
さて、海とカイト君に関してはここまでとして、次はマレビト招致方面の問題点が無いかをざっと確認しよう。
とは言え、問題がない事は既に昨日の時点で確認済みだ。
報告書を流し読むに、生産方面でも特に問題はなく順調に進んでいる。
王都周辺の空では浮遊都市がステルスでその時を待っているし、都市発着場やインヴェルノも待機中。
マレビト招致に関しては、後は待つだけだ。
シキナ達がログインすれば、即座にサーチを行い、発見し次第路地裏に誘って転移させる予定である。
見落としが無いかの再三に渡る確認を済まし、次……配下達の装備開発に移る。




