閑話 執念深く、密やかに
なんて美しい生物なのだろう。
新たな身体で主人を見た瞬間、そこに生まれた感情は、恥ずかしさだった。
同じ様な姿を持つ事で、本当の意味で主人の美しさに気付いた。
これほど強く、美しく、愛らしい生物がいる事に感動しました。
そして、それを自分だけの物にしたい欲求に気付いたのです。
美しく、愛らしい主人を私だけの物にしたい。
強く、気高い主人の子を生みたい。
しかし、弱く醜い私は主人に釣り合わない。
恥じ入る。
弱さを。
人型を成して尚、主人と比較にならない醜さの己の肢体を。
主人に服を着せて貰った後、頭を撫で回され、天にも登る気持ちで意識が飛びました。
何か、とても幸せな夢を見ていた気がします。
◇
目を覚ますとそこには、主人によく似た体型の美しくも愛らしい少女がいる。
その瞬間、私の直感にビビビッと来る物がありました。
それと同時に、私はまたも恥じ入ります。
この子を襲いたいと言う不思議な欲求、それは主人に対して思いの丈をぶつける事が出来ない為に生まれた、代償行動に違いありません。
それは恥ずべき感情でした。
それでも、私にはその欲求を振り切る事は出来ませんでした。
それから、幾日の時が流れました。
日が経つに連れ、私は自分の恥ずかしい欲求を自己弁護し正当化して、しかし罪悪感に苛まれます。
主人は私の物に出来ない。レイエルは主人の代わり、私の、私だけの物。
……分かっています。レイエルが怯えている事も、私がレイエルに感じた欲求の本当の正体も。
でも、いつしか、私の思い込みは本物に変わっていた。
レイエルを傷付けている。レイエルを苦しめている。私は、私自身の思いを裏切り続けている。嘘を付き続けている。
そんなある日の事でした。
いつも通り、主人が何処からともなく大戦力を連れて来てから間も無く、主人に一目見て分かる程の強大な力を持つ装備を渡された。
「それじゃあ、スルトを倒してみて」
「はい! ……はい?」
主人に構って貰えて嬉しくてつい返事をしてしまったが……スルト? スルトって皆と一緒に倒したあの怪物ですよね? ……ほ、本気ですか……?
私の不安が伝わったのか、主人は仄かに微笑みながら、私の頭を撫でてくださいました。
「よしよし」
「あぅ」
「ニュイゼなら出来るよ」
本当に出来るのかな……? でも、主人が言うなら……。
私は炎の巨人と戦う事を決意しました。
◇
激戦に身を投じ、体を焼かれながらも、どうにか勝利をもぎ取る事が出来ました。
「ニュイゼ、良く頑張ったね」
ボロボロになった身体は主人の魔法が癒し、疲れ切った心を主人の体が癒してくれます。
美しい主人の体に縋り付き……傷付いた身体を癒すと言う名目で主人に絡み付く己を恥じる。
「怖かったかな?」
「……はい」
嘘では無い。
何度斬っても再生する肉体。
津波の様に押し寄せる水を全て蒸発させる炎。
大地を砕き、大気を震わせる力の暴威。
つい頼りがちになる様な強い人達はそこには居らず、自分1人でその脅威と相対し、それを討ち破らなければならない恐怖。
そんな絶望の中、たった一言。
ニュイゼなら出来る。と言う主人のその一言だけで、私はアレを倒せるのだと、希望を持つ事が出来ました。
「よしよし、ニュイゼ。君はまだまだ強くなれるよ」
優しく頭を撫でられて、愛らしい主人の身体により強く絡み付く。
あぁ……やっぱり、私は主人の事を愛しているんだなぁ。
そう、再確認すると同時に、悲しい気持ちが私の中で渦巻きます。
……あぁ、やっぱり……レイエルに対する私の想いは……偽物なんだ……。
◇
それから更に暫くの時が経ち、私に心境の変化がありました。
誰とは言いませんが、別の蛙が私のレイエルにちょっかいを出し、そこで私は気付いてしまったのです。
勿論、私は主人の事を愛しています。
でも、レイエルの事も愛しているのです。
2人を愛してしまう自分に恥じ入るばかりですが……主人は私達に常々言っています。
君は強くなれると。
……それに、もう一つ気付いた事があります。
私は主人の体型や顔の造形が最も美しく愛らしいと感じますが、一般的には私の顔や体型も美しいの範疇であると言う事です。
私は強くなれるし、醜い訳でもありません。
それなら……いつかレイエルは勿論、主人も……な、なんてっ、えへへ。




