第22話 加護と秘密とマレビトと
第七位階上位
魂の管理におけるほぼ全ての作業を黒霧に任せた為、僕自身の消耗は大した事ない。
黒霧をあんまり消耗させるのも問題なので、これ以上は何もしないと宣誓しておく。
「今日はこれ以上研究したり開発したりしない」
「そうしてください私の主人」
と言う訳で、例によって執務室で確認作業だ。
マレビト招致に向けての建築、整備、生産は全て完了。
住民達や英霊の集いの報告は、概ね良好。
幾らかの改築は黒霧の裁量で勧められ、特に問題なし。
唯一大きな問題は……。
「……ヴェルガノンが加護を掛けた……?」
「オーダムの蹴りを受けても致命打には至らなかった様ですね」
「ふむ……」
たかがレベル100のミノタウルスがレベル500の蹴りを受けても死なない。
オーダムが手加減していたとしても、普通なら致命的なダメージを受ける筈だ。
なにせこのレベル差があれば、なんならデコピンでも相手を消し飛ばせる。
報告を聞く限りだと、どうやら狂戦士化時における戦闘力の向上が著しく、通常形態においても火の眷属を想定の数倍生成したと言う。
これはどう見ても、禍神であるヴェルガノンの性質だ。
おそらく、神懸かりの様な力が付与されたのだろう。
「……ヴェルガノン以外の精霊帝は?」
「それらは特に何も」
……まぁ、ヴェルガノンが出来るなら他の精霊帝も同じ事が出来るだろう。
これは……おそらくだが、使徒を生成、使役する技術が、信徒に加護を与える技術とほぼ同じと言う事なのだろう。
精髄は神気を与える事で使徒を生み出すし、神懸かりや神降ろしは神気を与える事で加護となる。
違いは、吸われるか与えるかでしか無く、吸われた経験で与える技術を身に付けたと考えるのが自然だ。
「……取り敢えず精霊帝達には加護を与えるのを禁止しておいて」
「承りました」
検証したい所だが、それには魔覚が必須であり、見るだけとは言え相応に消耗もあるので、確認は後日だ。
あんまりポンポン使われても、神気が枯渇したら困る……とは言え数値的には精々一回で1桁くらいしか操作出来ないだろうし、枯渇の心配は無いのかもしれないが、禁止しておいた方が良いのは間違いない。
「……と言うか、その報告、今朝出来たでしょ?」
「……出来ましたが?」
「なんでしなかったの?」
「迷宮管理は都市管理の管轄です。よって迷宮内の出来事は黒霧の管轄です」
まぁ、そうなんだけど……。
「報告は出来たよね?」
「……私が解決すべき案件であると判断しました」
「……」
いや……違うな。なんで報告しなかったかではなく、何故今になって報告したのかだ。
それが表す事はつまり…………。
「……黒霧、加護の与え方覚えた?」
「……ちっ。何の事ですか?」
「今舌打ち——」
「——何の事ですか?」
こいつ……何か企んでいるな? 他にも隠してる案件あるだろ。
「……神霊金属の産出量」
「他の鉱脈と比べても極端に少ない様です」
「……上位迷宮の魔物素材」
「ドロップ品の計測をした結果、全体的な素材の品質低下が見られます。原因はエヴァ・ハルモニアの肉剥ぎ、アトラの手狩、シャルロッテの魔石狩だと推測します」
……怪しい。と言うかシャルロッテなにやってるの? 魔石とか、最重要エネルギー器官じゃないか。怖。
それに……今の報告の感じだと……彼女等の行動は本命の隠れ蓑なんじゃないか? うちの知恵者達が結託して何か企んでいるぞ。
まぁ良いか。
「……程々にね」
「……何の事でしょう?」
さて、色々とおかしいが、取り敢えずマレビト招致の案件は良いとして、現在いるプレイヤー達の動きだ。
先ず、タク達は、一部のちびっ子やメィミーを除いて、全員レベル50代。
ボス戦や狩りを通して、トップレベルは55まで上がっている。
対する他のプレイヤー達は、トップクラスが45。最前線プレイヤーのボリュームゾーンは34〜35程で、エンジョイ勢等の一般プレイヤーのレベル帯は25〜30と言ったところ。
四属性迷宮の踏破者が増えた事で、狩場が拡大した為、全体的にレベルアップのスピードが上がった様である。
装備も、属性を持つちょっとした魔法武器や防具が増え、単純な戦闘力だけで見ると、冒険者ランクにしてB-級の力がある。
まぁ、戦闘に耐え得る魔道具なんて持っている人の方が少ないし、あくまでも戦闘力だけはB-。心構えや武器の扱い、立ち回りを考慮すると……D+ってとこかな?
僕からして見れば、殆どのプレイヤーはレベルこそ高いものの、張子の虎感が強い。
それで経験値だけは旨いのだから、ディアリードがマレビト虐殺計画を考える訳である。
僕もやりたいし。
…………ダンジョンマスタースキルを取得した事により、僕は直接的、間接的問わず、レッドやオレンジになる事は無い。
そこら辺の限界は分からないが、それを利用して上手い事経験値を稼ぐ方法を考えよう。
通常の迷宮で生物が死ぬと、その魂はエネルギーを絞り取られ、殆どがDPとなる。
また、魂魄での活動が出来ない多くの生物は、死亡時に破裂する様にして溜め込まれた余剰エネルギーを拡散させる。
その拡散したエネルギーは、殺された者の意思と殺した者の意思によって縁を辿り、討伐者に吸収される。
即ち、迷宮で生物が死ぬと、先ず余剰エネルギーが拡散して生物を殺した魔物がレベルアップ。続いて迷宮に魂が回収され、魂魄の余白やスキル部分が絞られてDPになる。
そして残った部分はポイされる。
意思が並大抵では無い程に強靭であれば、そこからでも幾らかのスキルや記憶を来世に持っていけるのだが、普通に死ぬよりも強い意思が必要になるだろう。
僕の迷宮では、最初に拡散されるエネルギーを、生命力回収の基本機能によりDPに変換している為、魔物のレベルは上がらない仕様だ。
ただし、この機能では拡散されるエネルギーの全てを回収する事は出来ない。
どうしても幾らかは縁を辿るし、幾らかは外に飛んで行ったり、生命力が劣化して魔力に戻ってしまうのだ。
ここで問題になるのが、マレビトは死んでも魂を残さないと言う点と、討伐時の一番の収入が、神気で形成された肉体の爆発的拡散である点だ。
勿論、生命力回収機能により、その大部分はDPに出来るが、分母が大きい分縁を辿るエネルギーも多く、飛んでったり立ち消えたりするエネルギーも多い。
と言う訳で、この勿体ないエネルギーを回収する方法として、2種類の案を考えた。
1つ目は、黒霧に頑張って貰う案。
本来基本機能として回収している分を、意識的に演算して回収して貰うと言う物だ。
これのデメリットは、黒霧の演算力がその分どうしても消費させられてしまう事と、黒霧がちょろまかしても気付けない事。
2つ目は、死魂結晶の特殊改造版を量産し、迷宮の各所に設置して拡散するエネルギーを回収すると言う物。
デメリットは、うーたん、コトノチャン、四月一日妹、シドウ君等のユニークスキルをシドウ君の力で模倣コピーし、経験値を回収する特殊機構を作る為、大量生産時のコストが天元突破する事だ。
前者が一番簡単で現実的だが、それをすると黒霧の秘密を後押しする事になる。
……だがまぁ、良いや。効率重視だ。多少の摘み食いには目を瞑ろう。
「——と言う事で黒霧、よろしくね」
「回収したエネルギーの貯蓄は如何しますか?」
「ちょうど良いのがあるから、これをちょっと改造しよう」
「……研究開発は?」
「……改造だよ?」
研究開発はシテナイヨ?
そんな事を言いつつ、僕はインベントリから幾つかのアイテムを取り出した。





