第6話 ホショクシャ
エルヨの胃石。
それは青白く大きな結晶体。
スルトの橈骨片から作られたレティが強力な意思を持っていたのと同様に、エルヨの胃石にも強大な力と未だ定まらないながらも強力な意思の片鱗を感じた。
この素材、武器にすべきか防具にすべきか……僕は少し悩んだ。
防具にするなら全身鎧。形質は魔導鎧にするべきだ。
武器にするならば、大剣や鎚、斧等の大きな得物が良いだろう。
ちょっと悩んで、武装に加工するのを辞めた。
そして、カナデのユニークスキルを覚醒させた。
——エルヨの胃石を混ぜ込んで。
……カナデのユニークスキルを強化すれば、異空間が拡大される。
そこに、捕食系スキルと同系統の力を盛り込んだエルヨの胃石改め、バアルを入れた。
そして、神代化処理を進め、バアルの魂魄とカナデの魂魄を接続し、完成。
出来上がった物は、所謂二重人格型のスキルだ。
バアルはカナデの体内に存在し、肉体的に接続されている上、魂魄とも接続されている。
即ち、バアルはカナデの身体の一部となっているのだ。
まぁ、肉体的、魂魄的な繋がりは今は置いておいて、重要なのはスキルの効果だ。
強化したのは以下の3点。
物質的にも魔力的にも貯蓄可能な胃袋。
耐性や攻撃と同義の分解能力。
摂取した因子の回収と定着の能力。
これらを、それぞれ別のユニークスキルに分解して強化の方向性を明確にした。
胃袋を拡張する『捕食者』。
対象を分解する『捕喰者』。
因子を回収する『捕蝕者』。
改造の協力者は、魂の合一と共振を行う四月一日兄妹。道標を示すコトノ。神力を操作するうーたん。スキルの強奪と模倣と付与の力を持ったシドウ。便利なロッテ。演算協力の黒霧。
バアルとカナデの魂をくっ付けたり、道標を示して神力を誘導したり、劣化コピーした強奪の力を付与したりと、今までで一番難易度の高い大手術だった。
……こんな危険で繊細な加工に踏み切った理由は……バアルとカナデの性質にある。
簡単に言えば、カナデは優秀な人材で、スキルの方向性が凡ゆる力を受け止めるのに適しており、尚且つバアルとカナデの性質が非常に似通っていた為だ。
もっと簡単に言えば、カナデとバアルはウマが合い、能力柄凡ゆる問題がクリアされていたからだ。
……まぁ、バアルの性質に限って言えば、少しは誘導したが。
カナデの名前も、クローネ・B・ザラニアに改名し、カナデとバアルの性質が交わり易くしたが。
これにより、バアルの強大な意思はカナデをリスペクト。
共存共栄の選択肢が産まれた訳である。
では、完成したカナデはどの程度強いのかと言うと……現時点では、大手術の割に対して強くない。
肉体はレベル50から毛が生えた程度でしか無く、溜め込んだ力を解放しようにも、バアルはともかくカナデが保たない。
実際の戦闘能力は、大体200後半と言った所か。
まぁ、そもそもカナデの力は食べて分解して因子を獲得する事に特化した非戦闘系ユニークスキルなので、そこら辺は仕方ない。
また、特殊な攻撃手段の一つとして、カナデはスライム状の触手を出せる様になった。
この触手は、バアルの補助の元カナデの任意で操作可能。捕喰者の分解能力を持ち、獲得したエネルギーを即座に回収可能だ。
ただし、触手は分解能力に特化しており、主に生命力や魔力を回収するのに優れている為、スキルの因子は僅かしか回収出来ない。
ゆっくり時間を掛けて溶かせばその限りではないが……触手はあくまでも攻撃手段なのだ。
触手の操作に慣れれば、ブロウスライムやポーションスライム等の多種のスライムと同じ事が出来る様になるだろう。
ポテンシャルは高いのだから、ゆっくりしっかり強くなって欲しい。
カナデの加工をした序でに、余った精神力を使ってアラン用の厨房を作った。
ヒヒイロカネ製の鍵を捻ると、異空間への扉が開き、アランの厨房に移動出来る仕様だ。
中には、多数の調理器具や食器等があり……その中でも特に高価な物は、アダマンタイト製のフラインパンである。
……いや、長く使えてどんな素材にも対応出来る調理器具を作ろうとしたんだよ。
…………アダマンタイトって熱も遮断するんだよね。
僕とした事が、大失敗である。
鋳直しても良いが、加工で眠くなってきたのでやめた。
「それじゃあカナデ、アランが戻って来たら渡してあげて」
「うん〜、任せてねぇ」
変わらず間延びした声で、カナデはニヤニヤと笑いながら、鈍器を華麗なフォームで振るっていた。
……僕だって、失敗する事くらいはあるんだからな。
「よーし、できたー……試運転」
ユキさん、何か凄い力を持つらしい? 金属を使って、フライパンを作ったみたい〜?
火に掛けてお肉のカケラを焼き始めた。
『バアル〜、おにくぅ、食べられるぅ?』
『欠片ですよクローネ。欠片じゃ全然満たされませんよクローネ』
『そこはぁ……焼いて貰う〜? 頼んだらやってくれるしぃ』
『流石クローネです。焼いて貰いましょう。一杯焼いて貰いましょうクローネ』
『うんうん〜。一杯食べようねぇ』
バアルとお話しして? ちょっと時間経ったんだけどぉ……お肉、全然焼けてない〜? 火ぃ付いてるのぉ?
「…………はっ!?」
「うん?」
「……熱が伝わってない…………」
why? ちょっと失礼してぇ。
強火に掛かるフライパンに、勇気を出して指先で触れてみる。
「……ほんとだぁ。熱くないねぇ……すご〜い、無意味ぃ。鈍器?」
「……もういいや、鈍器で」
ユキさんもぉ、間違えるんだねぇ? 可愛いなぁ。
「ふふふ」
「むぅ……」




