掌話 紅騎士、参る 六
第七位階下位
金鶏、ヴィゾープニルは、油断ならない大敵だった。
降り注ぐ目眩しの金炎。
迸る本命の閃光。
それらを喰らい、時に躱し、接近すれば、待っていたのは火を宿す爪と嘴。
それらは肉体故か、遠距離攻撃よりも高質な練気で強化されていた。
羽毛や皮膚も、先の攻撃に備えてか、強固な練気を纏わせ、鎧の如く立ちはだかる。
ーー敵と俺はほぼ互角。
だからこそ、戦いは長くは続かない。
何故なら、俺には仲間がいるからだ。
『セラ、行けるか!』
『はいっ、火は十分に集まりました。行けます!』
準備は整った。
振り下ろされた爪の一撃をレティで弾き、空を蹴って金鶏の頭部へ迫る。
チマチマと貯めた練気を、全てレティに注ぎ込み。
致死の一閃を放つべくーー
ーー刹那、ヴィゾープニルは全ての練気を頭部へと掻き集めた。
備えていたのだろう。
この一太刀を防ぐ為に。
その金眼は紅に輝くレティを睨んでいる。
衝撃の一瞬で、更に練気を集約させる為に。
ーーあぁ、誘いが上手く行って良かったよ。
『セラっ!』
『は、あぁぁっっーー!!』
ーー振り下ろしたのはセラ。
放たれたのは高質の炎塊。
金炎を喰らい、俺やレティの残り火を喰らい、戦場に舞う火属性を掻き集め、セラの操魔力で限界まで固められた爆炎。
紅蓮が金鶏を呑み込んだ。
炎に多少巻き込まれながらも、セラを盾に遥か後方へ飛び退る。
『ふぅ……まだ、ですよね?』
『ああ、まだ、だろうよ』
そうと会話している間も、レティに注いだ練気を維持し、更に気を練り力を溜める。
果たして、炎が晴れたそこには、ボロボロのヴィゾープニルが立っていた。
金色の羽毛は見る影もなく、皮膚は灼け爛れ、一部は炭化している。
守られた頭部周辺だけがほぼ無傷だった。
その憎悪に濡れた金眼は、遠くに立つ俺を見ていた。
ーーさぁ、終わらせようか。
練気を纏い、紅く輝くレティを振りかぶる。
それに応える様に、瀕死のヴィゾープニルが口を開いた。
開かれた口腔に集まるのは、頭部を守っていた練気。そして残存魔力のほぼ全て。
放たれるのは閃光だろう。
それが奴の、最後の足掻き。
『レティ、見ていろ』
『う、うんっ』
なんだ、随分と素直になったもんだな。
そんな事を思いつつ、俺は剣を振り下ろした。
ーー閃光。
拮抗はない。
光は真っ二つに切り裂かれ、放たれた刃はヴィゾープニルを両断した。
ヴィゾープニルという強固な壁にぶつかった刃の練気は、ヴィゾープニルの中で荒れ狂いーー爆発。
残心。
◇
ぱちぱちと乾いた音が響く。
振り返ると、直ぐそばにユキがいた。
……気配が全く無かったんだが。
「お見事。良い戦いだったよ」
ユキはニコリと微笑んだ。
その視線は直ぐさまレティに向けられる。
「……レヴァンティンの調子は如何? 途中から随分と静かになったけど」
『ああ、まぁ、ぼちぼちかな』
レティの協力があれば完璧なんだろうがなぁ。
「そうだね。期待したスペックには届いていない、か。ふむ……」
そう言ってユキは少し考えると、手を伸ばした。
「やっぱりレヴァンティンは今夜中に調節しておくよ。セラナトゥスも序でにね」
『『っ』』
びくっとセラとレティの怯えが伝わってきた。
……そりゃ、怖いよなぁ。
『その事なんだが……』
「うん?」
正直言うと、ユキに任せた方が良いんだろう。そうすれば、レティが暴れる事は無くなる筈だ。
ユキなら何でも完璧にこなす。
だが……。
俺は意を決して頭を下げた。
『……レティの教育は俺とセラに任せてくれないだろうかっ』
『『っ!?』』
「……ほう?」
レティとセラは驚いた様に震え、ユキは首を傾げてその蒼い瞳を光らせた。
『迷惑は掛けない。失敗しても必ず働きで返す。だから頼む……!』
「ふむふむ……レティにセラ、か……ふむむ……これは……」
俺が必死に頼み込んでいるのを聞いているのかいないのか、ユキはレティとセラを文字通り目を光らせて見て、珍しく長考している。
「……うーん、神霊金属だから? いや、性質が……」
『えぇと、ユキ?』
「ああ……良いよ。うん……むしろ一緒にいてあげて欲しいな」
『あ、ああ。ありがとう』
「でも定期メンテナンスは受けて貰うよ? 場合によっては改造もするから。勿論レティとセラが嫌な事はしないから安心してね」
『お、おう。それなら……』
「じゃあ僕はちょっと忙しいから先に行くよ。……3人とも、しっかり休むこと。良いね?」
ユキはそう言うとニコッと俺たちに微笑み、飛んで行ってしまった。
『わ、分かった』
妙に嬉しそうなユキに、俺の声が聞こえたかは知らないが。取り敢えず疲れたから休もうか。
◇
敵がいなくなった神木を降り、迷宮の出入り口に向かう。
ヴィゾープニルが倒されても、神木は仄かな明かりを纏い、夜の暗闇を跳ね除けていた。
『……創造主様の意に反して、良かったのですか?』
『そ、そうだぜ……後で怒られたりしない……?』
唐突に先程まで黙っていたセラが話し掛けて来た。続くのは、抜き身のままのレティ。
随分と大人しくなった……いや、力の使い過ぎで疲れてんのかね?
『大丈夫だよ。お前達はユキの事を誤解し過ぎだ』
『で、でも……俺様達の事、調節するって……』
『まぁ、そこはな……レティが暴走するのが原因、ってか……随分と大人しくなったよな、レティ』
一応探りを入れてみる。すると、レティは剣身から火を噴いた。
『な、ななな、何言ってやがるっ。べ、べべべべつにお前の事っ、認めた訳じゃ無いんだからなっ!!』
『へいへい、悪かったよ』
『わ、悪いとは……お、俺様はレヴァンティン様だぞっ!』
レヴァンティン様はやはり大人しくなったと言う訳ではなさそうだ。
だがまぁ、疲れてる内に聞いておこうか。
『……で、俺はどうだった? お前の炎、少しでも見せてやれてたか?』
『……そ、それは……か、かっこ…………ま、まぁまぁだったなっ!』
『そうかい、それじゃあこれからも、レティに認められる様にもっと頑張らないとな!』
『……ま、まぁまぁだったけど……でも、つ、使われてやるよっ。お、俺様を使わせてやるんだからっ、光栄に思えよなっ!!』
『そうか……ありがとう』
どうやらレティは暫くは様子見してくれるらしい。
レティが協力してくれるってんなら機神とも戦えそうだな。
後はセラだが……。
『セラはどうだ? 俺と一緒に、戦ってくれるか?』
『……それは愚問ですよ、アルフ。貴方が私を必要とする限り、私は貴方と共にあります』
『そうか、助かるよ。セラがいれば安心だ』
『……そ、それは、ありがとうございーー』
『ーーお、おい、なんか俺様と扱いが違うぞ! もっと俺様にも……た、助かるとか、安心とか言え!』
『ああ、頼りにしてるぞ、レティ』
『……ふ、ふふん。そ、それで良いんだ……ふへへ』
そんなこんなで2人の相棒と交流し、封印せずにレティをセラに収めて、休息をとった。
明日も多分、機神戦だろう。
それまでしっかり休んで力を溜めておこう。
掌話 紅騎士、参る 完




