掌話 紅騎士、参る 四
第七位階下位
神木。
天を突く程に巨大な一本の木。
それそのものが一つの迷宮となっている其処は、大樹から溢れ出る生命力と聖属性で満たされた世界だった。
時刻は夜中。
だと言うのに、この世界は明るく照らされている。
理由はそう、今目の前にいる、巨大な金鶏。
『KEeeeeeennnn‼︎‼︎』
神木中に響き渡る様な大声を上げ、金鶏は空を舞っている。
対するは、爆炎の化身。
『はぁぁっっ!! くそぉっ! ……卑怯だぞぉ……ぐすっ……なんで燃えないんだよぉ……うっ……ばーか……うぇぇ……』
ーーガチ泣き寸前であった。
金鶏が金色の炎を発生させ、レティの化身へ爆撃を見舞う。
金の炎は落下と同時に肥大化し、膨れ上がった金炎が化身へと降り注ぐ。
レティは馬鹿正直に爆炎とぶつかり合い、そこそこの消耗をしながら、上空の金鶏へ向けて紅蓮の炎を放った。
レティの放った爆炎の大玉は、ムスペルの幻影なら大打撃を与えられる程の威力だ。
しかし、上空へ打ち上がる毎に徐々に勢いが衰え、小さく、弱くなり、金鶏へ届く頃には上級魔法くらいの威力になってしまっていた。
『お、俺様っ、がっ……さい、ぐすっ、最強なのにっ……俺様の、炎が、最強なのに……うぇ……』
レティがガチ泣き寸前なのは……どんな意図があっての事だろうか?
後方で此方を見ているであろうユキの思惑を想像しつつも、そろそろ動き出す事にした。
そもそも、何故レティが泣いているのかと言うと……先ず攻撃が殆ど届かないからだ。
卑怯との発言はこれを指しての事だろう。
原因は、金鶏、ヴィゾープニルの鼻先に留まる小さな鳥、ヴェズルフェルニル。
奴が風を操り、火勢を増したり逆に弱めたりしている。
解決方法は、接近してヴェズルフェルニルから潰す事。
幸いにして、それはおそらく難しくない。
全力の一太刀を浴びせ掛ければ、奴のサイズと属性の相性から、ヴェズルフェルニルの幻影くらいならどうとでも出来る筈だ。
幻影ではなく本物だったら……多分格が違い過ぎて不可能なんだろうがな。
んで、レティが泣いている1番の理由は……初撃と次撃、それからヴィゾープニルの初撃と次撃にある事は間違いない。
先ず、ユキの指示でセラが《渋々》レティを解放。
レティは解放されるや否や爆発し、目の前にいたヴィゾープニルに、おそらく全力と思われる一撃をお見舞いした。
そして、もろに紅の炎を受けたヴィゾープニルは、多少のダメージを負いながらも平然と金炎を放ち、発生しかけていたレティの化身が吹き飛ばされた。
ほんの数瞬呆然としていたレティは、次の瞬間にブチ切れ、ヴィゾープニルへ全力の炎撃を放ち、それを平然と受けたヴィゾープニルが平気な顔で飛び立ちつつ金炎を放ち……レティの化身がまたぶっ飛ばされた。
……二度やって駄目だったから駄目だと理解し、レティのプライドはズタズタに引き裂かれ……そして泣きながら現実逃避していると言う事だ。
俺はユキ程感知能力に優れている訳では無いが……俺の見立てによると、ヴィゾープニルの火耐性はアトランティスに匹敵する。
放たれる金炎は単純な魔力質で見るとレティと同じくらいだが、性質が単一の火だけでなく、なんらかの大きな力を内包しており、その炎をヴェズルフェルニルが強化している。
戦闘力だけ見ると、ヴィゾープニルとヴェズルフェルニルのタッグはアトランティスに大きく劣るが……火耐性と金炎の質はアトランティスに比肩する物があるのだ。
これに勝つには……レティとセラの協力が不可欠だろう。
『……ふぅ』
休息は十分。練気による宝珠の強化は残念ながら今一つ。頼みの綱のレティは泣いてるし、セラはさっきからずっと心ここに在らずで絶句してる。
だが、ユキの……王の御前だ、やるしかない。
……それに、ここで引いたらレティはきっと泣き虫のまま。セラもレティの完全敗北を引きずる事になると思う。
勝つしか無いし、勝ちたいと思う。
……全部ユキの掌の上。なんだろうなぁ。
まぁ……気合い入れて行こうか。
アルフラム、参るっ! ……てなっ。
◇
先ずはセラから説得する。
『セラっ』
『……』
……聞こえて無いって事はないだろうが。
鞘を指で弾き、セラだけに注力し、強く呼び掛ける。
『セラっ。おい、セラっ!』
『な、なんだよぉーー』
『ーー……っ! は、はい!』
良かった、どうにか正気に戻ったらしい。
『これからレティを説得する、俺の代わりにレティを抑えてくれっ』
『おぉい、無視すんなよぉ……ぐすっ……』
『っ、で、でも、それではレティが暴走した時に抑える者がーー』
『ーー俺を信じろ!』
『っ! わ、わかーー』
『ーーとは言わん!』
『っ!?』
『後方にはユキがいる。だから何があっても大丈夫だっ』
そうだ。ユキがいる。
たったそれだけで、失敗も、暴走も、何もかもが恐るるに値しない、塵芥に変わる。
『はぁ……分かりました。レティは私に任せてください。……信じてますから』
『ああ、それじゃあ……行くぞ!』
『はいっ!』
改めて気を引き締め、じゃじゃ馬と向き合った瞬間、その声は聞こえて来た。
『皆して、ぐすっ……俺様を、バカにしやがって……うっ、うぇ、うぇぇぇーー!!』
ーーレティの泣き声が。




