第14話 謁見
第七位階中位
謁見室。
鈴御霊用の謁見の間である鈴御前は、広間の中に舞台の程を成した三段ばかし高い小部屋があり、その小部屋は広間の左右からならギリギリで中を覗く事が出来る。
客人は部屋の入り口である中央に座し、護鈴役は入り口の左右に立つ。そして鈴巫女だけが部屋の左右に座り、鈴御霊の様子を確認出来る様になっているのだ。
鈴の音祭りは鈴の音祀り。
鈴御霊は御神体を鳴らす事だけが仕事であり、俗世を見る事も言の葉を紡ぐ事も無い。
それは謁見の時も同じで、遠路遥々いらっしゃった客人に対しても特にお返事する事は無い。
常に1人の鈴巫女が相手をし、もう片方の鈴巫女が鈴御霊の様子を確認する。
要は……寝るのは寝言言っちゃうとダメなのでダメだが、音を出さなければ万事OK。アナザーやるのはOKなのである。
どうせアヤかリナかリンカちゃん以外は僕の事見ないしね。話聞いてなくても3人に聞けば問題ないしね。
さて、じゃあ鈴御前ではない謁見室はどうなのか。
此方は、鈴守の親類縁者と初めて会う時に使われていた部屋で、主な目的は上下関係を見せつける事。
作りは鈴御前と似ているが、部屋は狭く、客人側からは当主のシルエットだけが見える。当主側からは相手の顔を確認出来る仕様だ。
場所も屋敷のやや奥にあり、此方では親類縁者しか入って来ないので、声を出しても問題は無い。
出さなくても良いが、時代が時代なので大事な臣下に不信感を与える恐れもある。
取り敢えず新入りの相手はアヤとリンカちゃんに任せ、僕は様子見だ。
尚、キリカは鈴ヶ森学院の生徒達を連れてユミの指揮下に入って貰った。それについて行かせたリナの仕事は、ユミの言葉にコクコク頷くだけである。
アマネは、本来ならリナの専属護鈴だが、今は護鈴役達が出払っているので、謁見の手伝いをして貰う。
謁見の目的上、護鈴役を置かない訳には行かないのだ。
マシロ達の着替えやら細々とした準備も終わった様なので、行ってみよう。
◇
「失礼致します」
マシロの凛とした声が響く。
対するは、常態ではあり得ない程に表情を無くしたアヤの声。
「入りなさい」
良く通る声に応じ、襖が開かれる。
座したマシロは一礼し、先ずはマシロとマヒルだけが部屋に入って来た。
彼女等の臣下や護鈴は彼女等自身が僕に伺い、許可を得てからでないといけない決まりだ。
マシロに続いて入って来たマヒルは、入り口の横に座り刃の如く鋭い雰囲気を纏うアマネを見て、一度びくりと震えた後、慌てた様にマシロの後を追って正座した。
位置的にアマネは彼女等の背後にいるので、アマネの闘気にびびっているマヒルはしきりに背後を気にしている。
そこで、マシロが再度頭を下げた。
「御所より西の地を配する鈴宮が当主代行、鈴宮真白。衷心を捧ぐべく御前へ参上仕りました」
「ま、ました!」
深々と礼を取る2人。
アヤはチラリと此方を確認すると、改めて2人に向き直った。
「……良い、面をあげよ」
「ははっ!」
頭を上げた2人、内マヒルは、額に冷や汗の雫が浮かんでいる。
何故なら、さっきの時点で、ま、ました! では無くもっと別の言わなければならない事があったからである。
「本日は鈴宮の新たな縁者を連れて参りました。どうか御目通り願いたく存じます」
アヤはもう一度僕を確認し、先を促す。
「……良い、鈴御霊様がご覧になられる。粗相の無いようにせよ」
「はっ!」
アヤの言葉に2人はまた頭を下げたが、その一瞬、マヒルがムッとしたのを僕は見逃さなかった。
3世代程前ならそんな事がバレれば私刑で一族追放だが、僕は特に気にしない。
と言うか、テルマはどう見てもコウキの事が好きなので、そうなるのも致し方ない。
マシロの一声で、2人の男女が入って来た。
少女、ミヨの方は、マヒル同様緊張気味だが、コウキはサッと部屋全体を目だけで見回した後、一瞬の硬直を経てから入って来た。
どうやら、アヤとアマネに気付いたらしい。
緊張どころかむしろワクワクしている様にすら見える。いや、している。目が輝いてる。
先ず最初にマシロに挨拶を促されたのは、さっき挨拶する筈だったマヒルだ。
コウキが後ろに控えている為か、先程よりも肩の力が抜けている様に見える。
「お、お初に御目通り致します。此処より西の地を配する鈴宮が三女、鈴宮真昼と申します。よ、よろしくお願いします」
言い終えて礼を取り、ホッとした様子で顔を上げた彼女は、暫しぼーっとした後、ハッと体を震わせた。
「ほ、本日ご紹介させて頂きますのは、私の専属護鈴である2人ですっ。こあ、んぐ……ご、ご挨拶なさい」
大分慌てた様子でマヒルは後ろの2人へ挨拶を促した。
応えたのは男、コウキ。
「お初に御目文字致します。真昼様の専属護鈴、戦場光輝、並びに戦場美好と申します。卑小なる我が身なれど、響鈴の儀へ僅かばかりの衷心を捧げさせて頂きたく存じます」
2人は示し合わせた様に頭を下げ——
「「——よろしくお願い致します」」
さて、堅苦しい謁見はここまでで良いだろう。
そもそも僕も正装じゃないからね。




