第217話 英雄讃歌は斯く響く
第?位階
それは『原初の悪意』より産み落とされし、邪悪なる竜の神。
偉大なる金色の神、そしてその従属神たる神々は、『原初の悪意』や邪神について、あまり多くの情報を流さない。
ただ相対すれば、それが何か分かるのだと、己の内にある金の残滓は語っていた。
——成る程、道理だ。
消さねば消される。アレはそう言ったモノなのだ。
そして……それと戦うあの幼き蒼銀の神は……予言の者に相違あるまい。
『ルヘーテよ、あの姿を見ては最早分かっておろう?』
『……ああ、そうだな、レグルス。彼女がこの『界域』の救済者なんだろうよ』
それは、明けない夜を照らす暁の使者。
金神の妹神が剣の銀神と共にこの『青藍界域』へ遣わした鈴巫女。その子孫にやがて産まれる『銀因の霊合者』。
因果は巡り、界域を襲う終滅の理が断たれる時は今、訪れたのだ。
『……全軍に通達する。予言の時は来た! 邪神竜討滅後、我々は彼の神霊へ従属するっ! 拝謁の手土産に戦功を捧げるぞ!!』
『はっ、我等が主人の御心のままに!』
『お? 戦うのかっ?!』
『遂に救世主は現れたのか……!』
我が同胞の歓喜の声が聞こえる。
絶望を前に、決して怯む事なく戦う幼神を見上げて。
『先ずは波を越える、レグルス、デネボラ、アルギエバ、ゾスマ、アダフェラ。力を解放しろ!』
黄金と蒼銀が閃き、絶望の欠片は飛散する——
◇◆◇
雷鳴が轟き、光弾が乱れ舞い、邪悪な気が霧散する。
ベルツェリーアと言う名の神獣は、十二の結晶体から力を取り出し、聖なる魔力を宿した雷や水流を持って溢れ出る無数の邪竜を粉砕していた。
口腔から放たれる吐息は蔓延する邪気を一掃し、甲羅に生える突起からは間断なく雷撃が迸る。
大樹の如き四肢とそれに備えられた鋭い鉤爪を振るえば、大気は震え邪竜は砕け散る。
尾の龍は水流を吐き、その牙は容易く邪竜の首を咬み千切った。
それは正に、魔獣の極致。
遥か高みに立ち、世界を睥睨する神の獣だった。
一方、人型をしたもう1人の神はどうだろう。
此方も紛う事なき神霊の領域に立つ存在だ。
乱れ舞う光弾、光線。
放たれた金属製の弾は着弾と同時に大爆発して邪竜を霧散させ、空舞う剣は使い手も無しに邪竜を切り刻む。
本人は私よりも優れた空間支配の力で自在に転移を繰り返し、敵を時に引き千切り、時に一つ場所へ纏めて吹き飛ばす。
彼の神、機械神・イヴ・ハルモニアのあり方は、私の理想と言って良い。
この2柱の神が、三つ首や双頭の邪竜を駆逐する事で、私達は比較的安全な激戦を維持する事が出来ているのだった。
『ミスティ殿、アトラ殿、アルケレーネ殿、参ろうぞ』
ニベル・アナンの声に応える様に、ミスティがその体を北の第三陣全域へ広めた。
ミスティだけでは維持するだけで精一杯のそれは、アルケレーネさんの力で完璧に統制され、邪竜や目玉、剣の群れを包み込む。
その中でニベル・アナンが霧化し、私が空間支配能力を振るう事でニベル・アナンは霧内部に限り殆ど消耗する事なく転移を繰り返す事が出来る様になった。
時に爪が、時に牙が現れては、邪竜を切り裂き喰い千切る。
発生する目玉や剣、邪獣の群れは、ミスティとアルケレーネさん、ニベル・アナンの力で生み出された霧飛蜥蜴とか言う魔物の軍勢とぶつかり合い、減少した霧はアルケレーネさんが補給する。
霧の外にいる邪竜は、ガルナ・カーデイやヴィーナ・エングラハとその部下の竜達によって撃破されている。
四度目にもなる波もこうして越えた。
私の把握出来る範囲で見れば、全体は度重なる邪神の攻勢で疲弊して来ている。
幸い黒霧さん達の援護で死者こそいないものの、脱落者は多い。
ユキ、皆貴女を信じてる。
信じて戦い続けている。
だからユキ、どうか……勝って。
……もしも……万が一貴女が負けたとしたら……その時は私が、貴女だけでも——





