第216話 英雄達は斯く在りき
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第?位階
《あぁ……我等が主よ、何と御美しい御姿でしょうか……!》
《光り輝く御体、天衣無縫の御心、清廉なる御霊、麗しきおみ足……!》
《あぁ……! シャルロッテは……シャルロッテはもうどうにかなってしまいそうです……!!》
『ディーとティオは右翼から可能な限り大型邪獣を引き付けて撃破してください。シュザとキース、ウルラナ様は新たに発生する小型邪獣の殲滅を——』
《神様、邪神を討滅召された暁には、どうかシャルロッテを、この清廉潔白なるシャルロッテをお使いください!》
《穢れた大地に御降臨なされては神様の尊いおみ足が汚れてしまいます! もし、万が一汚れたとあっては、どうぞこのシャルロッテでっ、神様の従僕たるシャルロッテでお拭きくださいませ……!!》
『グリフォン及び『英霊の集い』は『風の守巫女』と合流後左翼へ、アルティア様の指揮下に移行してください。『夢明の研究者』は中枢へ集合——』
《我が主よ、どうかその御威光で清廉潔白たるシャルロッテを焼いてください……! 貴女様の忠実なる僕に、どうかお情けを……!!》
……き、キモ…………。
「このみさん、どうかされましたか?」
「へっ? あ、いえいえ、何でも無いです」
私の心の声に反応した訳では無いだろうが、シャルロッテさんが声を掛けて来た。
如何にも心配していますと言う風な顔をしているけど、心の中ではユキへの賛美と踏んでくださいと言う訳分からない要求が止まらない。
「すみません、私に自力で飛ぶ力があれば、貴女をミルクリスちゃんから離れさせる事は無かったのですが……」
「いえ、大丈夫ですよ。クリスには沢山仲間が付いてますから……《過剰なくらい、ね》」
それに、飛行能力を限定的に付与する力を持つ私が指揮官のシャルロッテさんに付いている方が、全体の生存率を大きく高める事が出来るのは自明だ。
唯一の難点は……取り憑く様な能力なので、対象の強い思いを私が拾ってしまう所。
……シャルロッテさんって……見た目綺麗で女性らしい身体つきで、とてもお淑やかな素敵な人なのに……こんなヤバイ人だったんだ……。
何とも言えない複雑な思いを胸中で処理していると、その声は聞こえた。
《……さて、と……神様への御祈りを一時忘れるシャルロッテを、どうかお許しください》
そう、それはまるでスイッチが切り替わったかの様だった。
見た目には何も変わらないのに、気配がガラリと変わっていた。
シャルロッテさんは、鋭い目付きで遥か遠い空の戦場を見詰めている。
「このみさん、貴女も戦場へ。大きな波が来ます」
「っ、了解です!」
シャルロッテさんの有無を言わせぬ声音に、僅かに弛緩した私の心は引き締められた。
……あんなおかしな人なのに、こう言う所だけはユキと似て凄いんだよね。
シャルロッテさんが指示を出して間も無く、先の予告の通り、邪竜の津波が押し寄せた。
それはまるで、終末の意思が遂に動き出したかの様で……。
……ユキ……大丈夫なのよね?
遠い空で邪神と戦う私達の小さな主人を思いながら、私は死の力を宿した大鎌を構えた。
◇◆◇
——地獄の顕現。
私の目に映るそれらは、正に地獄と呼ばれるそれそのものだった。
——全ては黒。または闇。
燃え盛る黒炎、吹き荒れる黒嵐、迸る黒雷。
最前線では漆黒の剣と目玉の化け物が飛び、血の様に飛び散る穢れの霧が大地を犯して邪竜となる。
私がもし1人だったら、間違いなく逃げていた。
逃げて、逃げて逃げて、逃げ切れずに殺されていたでしょう。
震える手をそっと暖かい何かが包む。
カーナシアお姉さんだ。
「……怖い?」
「え、えぇ、とても」
エルフのカーナシアお姉さんは、想い人であるマハーカお兄さんの前以外ではあまり表情が変わらない。
そんなカーナシアお姉さんでも、邪神を前には顔を強張らせていた。
「私も……もしハーカが死んだらと思うと、とても怖い」
こんな状況でも、カーナシアお姉さんは何も変わらなかったらしい。
澄んだ緑色の瞳は、ずっと遠くで邪竜と戦うマハーカお兄さんの背中を見ていた。
「……カーナシアお姉さんは、自分が死ぬのは怖くないんですか?」
そう問うてから、少し後悔した。
私のその言葉には、私の心の醜さが浮き彫りになっていたのだから。
苦い顔をした私に対し、カーナシアお姉さんはしばし考えた後、優しく微笑んだ。
「……アーた……アルティアはまだ幼いから、目の前の恐怖に怯えてるだけ……貴女はとても優しい子」
カーナシアお姉さんは、私の手をキュッと軽く握った。
「……うん。気付いて無いと思うから、教えるけど……貴女はずっと、あっちで戦うあの子達を見て、辛そうにしている……大丈夫、貴女は大切な人の為に、ちゃんと命を懸けられるよ」
「……ありがとう、ございます」
……流石仙人、全てお見通しですね。
1つ、学びました。
絶望を前にして人は己の醜さを知り、それでも尚、希望を見失わない人こそが、本当の英雄になれるのでしょう。
そう考えると、シュクラムもグンガーダもメレリラも、私と同じでまだまだ未熟ですね。
「……ウレミラは——」
「——あぁ言う規格外は、偶に生まれてくる……他にも……シャルロッテ。ツァールム。クラウ。白夜。あと……アニス……今は弱いけど、ヴァル何とかにも凄いのが何人かいる」
「は、はぁ……」
「比べていたら、落ち込んで、キリが無いから……私達は、堅実に、一歩ずつ強くなれば、良いよ?」
何処か悲しげにカーナシアお姉さんはそう告げた。
その視線は、マハーカお兄さんからそう離れていない所で戦うアニスお姉さんの背中を見詰めていた。
……私も恋をすればカーナシアお姉さんの気持ちが分かるのでしょうか?
……仮に恋をするとしたら……グンガーダ? ……うーん……うぅーん…………無い、かな?
っと、いけないいけない。戦闘中、それも世界の命運を懸けた戦いの最中です。変な事を考えている場合ではありませんでした。
気付けば緊張も幾らか和らぎ、竦み怯える様な恐怖も最早恐れる程の物では無くなっていました。
何せ私達には、逆立ちしても勝てない様なカーナシアお姉さんに規格外とまで言わせる様な人達がついています。
……それに、思えばあのユキお母様がいらっしゃるのですから、恐れる事など最初から有りはしなかったのです。
私もまだまだ未熟者ですね。




