第214話 それは神域への代償
第?位階
「んむ、んちゅ…………」
……。
「…………ん?」
……何か今衝撃的な事が起こらなかったか?
魔覚が途切れた直後なのでイマイチ記憶がはっきりとしないが、具体的には僕の口辺りで何か——
混乱した思考で唇へ指を添えた刹那、それは唐突にやって来た。
「——ふぇ? あ、く、ぅんんっ……!」
咄嗟に口元を塞ぎ、漏れ出そうになる声を抑える。
——それは熱だった。
身体の芯に。誰かと触れ合った唇に。御し難い高熱が広がっていた。
次の瞬間——それは快楽だと気付いた。
僕の深い所で渦巻く快楽の激流は、肉体、魂、心さえも犯し、灼熱となって僕を溶かす。
「んぁっ、ぁぅんん……!」
必死に声を抑える僕に対し、暴れ狂う何かは一切の遠慮無く僕の全てを蹂躙していく。
気付けば僕は力無く地面にへたり込み、僕と世界との境界に仄かな光が溢れ出し始めていた。
直感的に理解した。
僕は今——進化し掛けている。
内から溢れるエネルギー量は、今までの比では無い。
金光が明滅し、その度に蒼銀の光が勢いを増していく。
快楽の熱は金の力、それらは僕の未開通な経路を解放し、道を押し広げて行く。
開かれた経路に流れるのは、銀の力が混じった僕の紺碧。
ゾクリと体が震えた。
ゾクゾクゾクッと快楽が伝播した。
際限無く強まる快楽は、僕の許容限界を軽々と飛び越えて——
「ふ、くぅ……! もう……無理……! や、ぁーー」
——世界に星が弾けた。
◇
「…………」
何が何やら分からないが、自分が地面を見詰めている事に気付いた。
ポタリと、顎を伝う雫が地面に垂れた。
僕の唾液だった。
すると、唾液が垂れた地面がピカッと光り、僕に似た土色の小人が立ち上がった。
新種 LV482
「じゅる……」
取り敢えず唾液はしまっておいた。
小人は僕の分体の様なので、戻って貰う事にしておく。
「……さて…………」
体に、魂に残る微熱。進化の余韻に浸るのはここまでとしたいが……どうにも上手く思考が切り替わらない。
そもそも、こんなに唾液が出て来るのは僕の口内に生体的物質が触れた証拠だ。
つまり……こ、これだけで許してやろうとか言うのは、つまり…………売約済みじゃなくて決済済み的な、もう逃げられませんみたいな、そ、そう言う事なんだろうか……?
「……あぅぅ」
急に暑くなった頰へ冷ます様に手を添え、ついでに視界を閉ざして心を鎮め、鎮め……鎮め…………鎮まれ……!
「恥じゅかしぃ……死ぬ……」
そ、そもそも、そう言うのは許すとは言わないだぞ……!
た、確かに身も魂も心さえも捧げればと言ったのは僕だけど……それでもいきなりは良くない。
……誰も見ていないのが唯一の救い、か。
よもや僕がこの様な痴態を晒す事になろうとは……よ、良かったけど……でも時と場所と言う物がある。こんな吹きさらしの荒野なんだから、もう少し穏便にしてくれても良かったのでは無いだろうか。
……ま、まぁ、気持ち良いのが長期間続くと思うと、それはそれで——
「——じゃなくて!」
そう、今は邪神との戦いを控えているのだ! と言うか僕はどれくらい意識を飛ばして——
『——はい、ユキ』
「はぅ!?」
『ユキが『金の因子』と接触を開始してから1分11秒30経過しています。映像記録を送信しました』
『ケヒヒ、良い貌じゃったのぅ』
唐突に聴こえて来たのは、イヴとベルツェリーアの声。
……もうやだ。かみ、きらい。……ぐすん。
誰にも見せらない様な姿を映した映像を見せられ、僕は声も無く涙の雫を零すのだった。
…………こんな状態でもやっぱり僕は美しい。うん、それが唯一の救い。
◇
さて、改めて僕の状態を把握しよう。
金の力の全面補助を受け進化した僕は、以前と同様に少し成長した。
髪の色はベースが蒼銀だが毛先は虹色、同じく服もいつのまにか白ベースの虹色ワンピースになっていた。
……ワンピースと言うか……ウェディングドレスみたいな何かだ。
簡素に見えて精緻であり、裾が七色に輝いているので清楚と言うより神秘的な様相である。
そんな僕の種族は——
夢現神・ユキ LVーー
——神である。
何故に夢現と言う属性になっているのかと言うと、それは僕の用意した切り札が関係している……と思われる。
僕が持ち込み枠にセットした切り札は、三種の星珠。
死神の義体から剥いだ魔石を用いて強化した『死神の星珠』。
機神アトランティスを撃破した報酬である都市の核『炎獄の星珠』。
不思議の国のダンジョンでぬいぐるみの群れに群がられて何故かゲットした『夢の星珠』。
この3つを、本来なら僕の消耗と引き換えに1つへ纏めるつもりだったが、金の神がそれを肩代わりしてくれたらしい。
僕の深奥には『夢想神の神核』とか言う物が入っている。
シュフォールには悪いが、アナザーに戻れば元通りの筈なので今は神核として1つになって貰おう。
あと、多分炎の方にもキットやシュフォールと同じ様なナニカがいる物と思われるが。ごめん。お詫びは名前で。
3つの星珠の中で何故夢の星珠に力を纏めたのかと言うと、夢の星珠は他よりも特殊な力を内蔵していたからだ。
夢の星珠の力は、僕の目で見ても混沌にしか映らない。
だからこそ、他の属性に転用するのも比較的容易であり、他の属性を吸収するのも比較的容易なのだ。
夢の神核の力により、僕は虹色の光を纏う事となった。
唯一解せないのは、鑑定で表記される夢現神の一文字。
実の所、僕の中に存在するエネルギーの割合で夢の神核の力が該当する物は、おおよそ2割くらいしか無い。
切り札にセットしていた金の本をいつのまにか取り込んだからか、金の力は4割程、後は銀と紺碧が混じった蒼銀の力である。
つまり、名付けるなら金神か蒼銀神が適切だろう。
何故夢現神なのか、其処に何かしらの理由が存在すると考えると……その理由はきっと神にとって重要な物なのだろう。
……流石に名に関する事で無意味とは思えないからね。
思えば、遊技神が遊戯神では無いのにも何かしら大きな意味があるのかもしれない。
……伊達や酔狂で遊んでいる訳じゃあないんだよ。とか?
まぁ、神々の事情に関わるには未だ地力が足りない事は分かりきっている。
今は目の前の邪神を討つ事だけ考えよう。
僕の見立てによると、邪神は星の中を流れる膨大な地脈の化身とぶつかり合って力の幾らかを失い、今は出現時の8割強程の力を有している様だ。
今の僕の総合エネルギー量と比較すると、邪神は僕の2.5倍程強い。
イヴやベルツェリーアと比較すると、4〜4.5倍程になる。
つまり……僕の計算によると、星海蛇を除いた今この戦場に集まっている全軍のエネルギーを1つに纏めたら、ちょうど邪神と釣り合うだろう。
星海蛇達と本の中に隔離されている皆のエネルギーを追加すれば……総エネルギー量では邪神を上回る。
上手く立ち回れば、誰も死なせずに勝てるだろう。
……そう……僕が死ぬ気で喰らい付けば、ただ一人の死者も無く勝てる。




