第207話 顕現する神体
第六位階下位?
吹き上がる邪気は力の象徴。
魔法による強化を施された両腕が、今まで拮抗していたあずみとティアーネの剣を押し返す。
「ぬぅ……!」
「うぅっ」
金光に焼かれるのも構わず力押しで2人を潰しに掛かるザッハークは、3人の剣士の斬撃で出来る細かな傷を無視し、更なる邪気を解き放つ。
押し潰さんとする膨大な圧力はしかし——唐突に無くなった。
ザッハークが腕を引いたのだ。
全力で剛腕に抗っていた2人は急な事態に体勢を崩した。
——それは致命的な隙だった。
金の加護が弱いあずみに、被弾を無視したザッハークの刃尾が迫り——
——そして金色は輝いた。
危機の刹那、彼等は望むのだろう。
己の不甲斐なさを嘆き、守る為に。勝つ為に。
金色はそっと彼等の願いに寄り添うのだ。
救いを求めて伸ばされた手を、決して見逃さない様に。
——斯くして邪竜王の刃尾は切断されたのだった。
◇
さて、ここまで見せて貰えれば、いい加減僕も金の粒子さんが行なった超強化に目星がついた。
例えば、ザッハークの尾を3つに切断した3人の剣士。
先端付近を切り裂いたタダトの剣は、海を司る女神アルケレーネの神性を獲得した。
アルケレーネは深海より海上を見守り、人を助ける善神だ。
海上に上がって人を助けては深海に潜って海上を見守る。
おそらく後付けされたと思わしき信仰では、アルケレーネは遥か深海より地上を観察する鋭敏な知覚能力を持ち、地上から海底へ潜る事で深化するとされている。
深淵を覗く事で知覚能力を上げ、より多くの海域へその視野を広げる……と言う事にしてアルケレーネの信者を増やそうとしたのだろう。
そんなアルケレーネの神性を獲得したタダトの剣は振るわれる度に深化する。
金色の加護も大きく貢献している事だろう。
素早く重く、そして鋭いタダトの剣は、水神特有の浄化を宿し、今尚急速な成長を遂げている。
ハイネシアの神性を得たユウイチは、循環の神性による絶大な浄化能力を剣に宿し、ザッハークの尾を根本から切断した。
ハイネシアの聖なる青き紋様が体表を走り、溢れ出す聖気が飛び散る邪気を浄化している。
半ばを切り裂いたヨウイチは、イテアの神性を得た事で、細かな変化が起きた。
元々ヨウイチの肉体は変化しやすい物だった為、超強化の前後で大きな変化は無いが、髪から生命力の球が溢れ、先まで開かれていた瞳は今は閉じられている。
この三件と前の二件で考察のサンプルは十分だが、後の二件も一応とばかりに確認しておく。
禍神ヴェルガノンの神性を得たあずみは、ヨウイチ同様に見た目の変化が殆ど無い。
大きく変わっている部分は、胸元と腕だ。
それは正に噴火の如し。
中枢足る胸部は紅蓮に輝き、赤い聖紋は灼熱色のオーラを放つ。
これがヴェルガノン本来の神体。活火山の神性が顕現した姿だ。
ティアーネは、光を司る女神アウラの神性を完全に解放し、3対6枚の翼と光輪を出現させていた。
特に光輪は、頭上に2つ。手足に4つ。背後に6つ。と過剰だ。
大衆にとっての光の神とはその様なイメージなのだろう。
力を急激に増したティアーネとあずみは、ザッハークの剛力を真っ向から押し返した。
これら合計7件の奇跡から考察するに、おそらく金色の神は……精霊帝達の中に眠る信仰の力を完全に解放したのでは無いだろうか?
元々精霊帝達は名に宿る信仰にかなり近しい姿をしており、その総合戦力も同レベル帯と比べて幾分強かった。
魂にも特に不自然な所は無かったので、これが信仰により起こり得た変化の全容なのだと僕は思っていたのだが……どうやらそれらは信仰の力のほんの一端。氷山の一角でしか無かったらしい。
僕が知覚出来ない力。即ち神力。
これが、精霊帝達の中に貯まっていたのだろう。
成る程。これ程の力を使い熟せれば、レベル200程度のモンデシウルですらレベル500に匹敵する力を発揮する事が出来るだろう。
ごめんよ。ちょっと強い程度の魔物だなんて言って……とでも心の中で謝っておく。
信仰が強大な力を生み出すのだと考えると、『白い夜』の一件は僕が思っていた以上に危険な事態だったのだろうし、その力の一端を持つ樹精三姉妹は僕が思っている以上に強いのだろう。
何気に信仰されているらしいシャルロッテも強い筈だ。
信仰が力を生むのだとしたら、帝国の三大公やら十騎士やらと言う些か尊大な称号も、民や同胞等の支持を集めて案外馬鹿にならない力を生むのかもしれない。
差し当たって後日、アナザーの方で銀霊石の詳しい調査と、ヨウイチ君の意思を力に変える能力の調査を行うとしよう。
さてさて、曲がりなりにも神と呼ばれる存在と等しい力を得た七人の勇者達。
下限は少なく見積もってもおおよそ650。上限は750にも迫るだろう彼等。
そして、その援護をする僕と黒霧と金の粒子。
対するは、おおよそレベル800程と推測される、三首の邪竜王。
響き渡る轟音は、永遠と出現し続ける邪気剣が砕け散る音。
駆ける赤と金の輝きがザッハークの剛腕とぶつかり合い、3人の剣士が振るう刃は魔法障壁を貫き黒を散らす。
このまま戦い続ければ、金の粒子さんの消耗を代価に勝利を得られるだろう。
と言う訳で、折角なのでこの機に奇策を打ち込む事にする。
『ヨウイチ君』
『はいっ、なん、です、かっ?』
『忙しい所悪いのだけど、ちょっと付き合って貰うよ』
『りょう、かい、ですっ』
新技術の開発に、ね。




