第139話 1億7600万MCになります
第五位階下位
「……うーたんっ!!」
「むぐっ!?」
朝。
早く起きたうーたんにゆーねーたんなどと呼ばれつつも、うーたん飴の作り方を教えていると、めーたんが飛び起きた。
「むぐぐ」
ビクンッと体を跳ねさせたうーたんは作り立てのうーたん飴を喉に詰まらせ、苦しげに唸り声を上げている。
「よしよし」
「むきゅ、ふはぁ〜」
無意味に背中をトントンと叩き、念動力で飴を取り出した。
「うーたん……敵……何処……何……?」
めーたんは困惑して辺りを見回しているが、必要な情報は既に頭に入れてあるので、しっかり目が覚めたら自力で状況を理解するだろう。
◇◆◇
失われた記憶、消え去った故郷、残された想い。
願った事は平穏の終焉。
残ってしまったのは的外れな罪悪感と一掬いの自己嫌悪。
ただただ遥か遠く決して届く事のない高みを夢見ていた。
『だから君は空を見上げた』
——世界が終わる、その時まで。
己が力の限界を知っていた。
世界の矮小さを知っていた。
全ての人が心の何処かで乞い願い、しかし見上げる事しか出来ない事を理解している。
どれだけ勉学に励んでも、どれだけ運動に勤しんでも、伸ばした手がその光に届く事は無い。
報われない努力を積み重ねる者はいない。
『だから君は友を作った』
——不可能を限りなく減らす為に。
願ったのは平穏の終焉。
なんだって良かった。
子供の頃に夢見たヒーローの様に。
アニメやマンガの主人公の様に。
——何か……特別な何かが欲しかった。
だが、それは叶う事の無い欲望。
己の思いを偽り、代替の、より現実に即した努力を重ねる。
偽善でも、演技でも、自分が自分をカッコイイと思える様になれば、それで満足なのだと言い聞かせて。
『君が願ったのは力』
——曖昧で、しかし果てしなく純粋な願い。
なんだって良かった。
なんでも良かった。
ただただ何かが欲しかった。
——諦めた筈の願いは成就した。
『君は今、何を望む?』
欲しい物は手の内にある、もう望む物は無い。
『君は今、何を欲する?』
欲しい物は何も無い……強いて言うなら……平穏。
欲望は……望みは……。
——世界を越えて尚残った想い。
——死の間際に憂いた仲間の行く末。
『君は今、何を願う?』
『……力が、欲しい』
『どうして?』
『守りたい。仲間を、大切な物を全部』
『もう力は得たんだろう?』
『足りない。知ってんだろ』
『ふふ』
『今一度問おう。君は今、何を真に願う』
——……力だ。
今度こそ死なない。
誰も死なせない。
守りたい物を全部守れる力を——
◇◆◇
「うぅ……ん……」
ふと、目が覚めた。
長い夢を見ていた様な気がする。
少しの倦怠感があるが、同時にスッキリ晴れやかな気分もある。
「目覚めはどうだい、ユウイチ君」
声がした方向へ視線を向けると、そこにはマシロさんがいた。
銀色の髪が窓から刺す陽光を反射し、キラキラと輝いて見える。
……思い出した。確か俺は数十分寝るだけでお手軽に強くなれる方法があるとか言う話に乗って……。
「……あぁ、気分は良いけど……本当に強くなったのか?」
「うん。それは訓練場で確認すると良いよ。他は先に行ったから」
「お、おう」
とりあえず上体を起こし、軽く頭を振ってから、差し出された水を飲む。
「それじゃあ施術料。176人で締めて1億7600万MCになります」
「ぶふっ! ゲホッゴホッ!!」
え? 何、今……聞き間違い?
「各種経費はおまけしてあげる。支払いは分割払いでも良いよ……払えなかったら……分かってるね?」
「う、うい」
放たれる仄かな威圧感に、俺は頷く事しか出来ない。
「ふふ」
「……」
その仮面の下に隠れる少女の微笑みを、何故か俺は知っている様な気がした。
◇◆◇
『転生者覚醒計画』は無事成功した。
彼等をざっと見て分かった事が一つ。
転生者達は皆一様に前世で何かしらのコンプレックスや強い願いを持っていると言う事。
イヴから聞いた話で、世界の狭間には魂を浄化する作用があると言う事は分かっていたが、記憶を保持したまま異世界に転生するにはやはり強い願いが必要なのだろう。
私が思うに、彼等がこの世界に記憶を保持したまま転生出来た理由は……邪神が彼等の世界を壊した後にこの世界に来たからだろう。
彼等は偶々運良く邪神が食い破った世界の壁を越えて転生する事が出来たのだと推測出来る。
それも、おそらく邪神が最後に攻撃した地点。つまりはこの世界に渡る為の穴を開けた場所が、ニホンのトウキョウ上空だったのだろう。
また、その世界で死んだ者の多くは、邪神の攻撃の余波で魂ごと対消滅してしまった可能性が高い。
まぁ過去の事はどうしようもないので調べるに留めるとして、今は取り敢えず彼等の得た能力等を整理しよう。




