第61話 リベリオンらしい日々
第四位階中位
小春日和の朝、迷宮都市クラットが見えて来た。
道中何故か一度も魔物に遭遇せず、欠伸が出る程に平穏な旅路だった。
クランゼル大平原に入れば、遭遇する魔物と言えばスライムか兎くらいの物で、足の遅いスライムに限って言えば三都市を巡回する騎士達が排除している。
結局俺達は一度も魔物に遭遇する事なく、迷宮都市クラットに到着した。
◇
クラットは大きな街だ。
迷宮を覆う大きく、継ぎ足されて行った壁。最初の街を覆う中くらいの壁。発展して広がった街を覆う小さな、しかし今も大きくなっている壁。
平原には広大な農場があり、クランゼル王国は迷宮から産出する資源と肥沃な大地からの豊潤な恵みで維持される平和な国だ。
そんなクランゼル王国のクラットでは、リベリオンは凄腕冒険者集団として受け入れられていた。
故に、リベリオンが竜を討ち、凱旋したと言う噂は瞬く間に街を駆け抜け、尾鰭背鰭の付いた噂達が国民の舌の上でタップダンスを始める事となった。
「報告は以上だ。首だけありゃ討伐証明としては十分だろ」
帰還早々に俺達はギルマスに呼び出され、リベリオントップである俺とティアーネ、エルザの3人で予定通り作り話を報告した。
クラットのギルマスは心労で頭こそ禿げ上がっているが、話の分かるおっさんなので今後の面倒に色々と手を貸してくれるだろう。
「ふむ、事情は理解した。今回の討伐はリベリオンの独断だが、ギルドからの正式な依頼として処理しておこう」
「良いのか?」
冒険者統括支部の支部長に相談しなくて。と言外に聞くと、爺さんはニヤリと口元を歪めた。
「構わん。依頼はA級相当に認定し、その分の報酬と評価を付けておこう。良かったな、これで晴れてお前たち3人だけはA級冒険者だ。他の連中はB級に上げておいてやる」
「大盤振る舞いですわね」
「竜伐者と金で繋がりを持てるなら安いものだろう? それに……お前さんらは若けぇ、ギルドみたいなデケェ組織が後ろに立ってらぁちょっかい出す馬鹿共も減るってぇもんだろ」
ギルマスは理知的な喋り方から一変させ、粗野な口調で獰猛な笑みを浮かべた。
「素材は幾らかギルドに売れ、馬鹿な貴族共ぁ鱗の一枚でもありゃ満足する」
「了解、鱗以外にはなんかあるか?」
「領主の糞爺には一番良い牙を差し出すんだな。明日にでも俺と一緒に城館行くぞ」
「ああ、分かった……王家にも牙か?」
「王族にゃ角だ。公家と王家を同じ扱いにしちゃなんねぇぞ」
「そうなのか」
「ですわね。角は惜しいですが、クランゼル王家の覚えが目出度いとあれば今後の活動が楽になるのは間違い無いでしょう」
まぁ、竜の首を得られたのはただの棚ぼただしな、惜しいっちゃ惜しいが報酬も褒美も出るだろうし、万一何も貰えなかったとしても王家と繋ぎが出来る。
多少売るのは良いだろう。
「さて、細々とした面倒事は此方でやっておこう。解体は今日中にも終わるだろうし、夜にでももう一度ギルドに来ると良い」
牛車での旅は警戒しきりで碌に休めなかったし、折角面倒は引き受けてくれると言っているから厚意に甘える事にした。
◇
「——っう訳で、今日は夜に宴会! それまでは自由時間だ!」
其処彼処でやんややんやと喝采が上がり、解散の一声でギルド前広場からリベリオンのメンバーが散らばって行った。
さて、俺は予備の武器を——
「——よし、ユーイチ狩りに行くぞ」
「報酬が支払われるのは夜ですからね。宴はくらんほーむで、ですわよね?」
「……ユーイチ、忘れてるみたいだから言うけど……現状うちら無一文だからね?」
「……せやった」
ついエセ関西弁が出る程すっきり忘れていた。
「ユーイチ、皆の事、呼び戻す?」
「あー、うーん……」
エミリーの言葉に、今いるメンバーを見る。
剣士が2人に魔導師が1人、治癒術師が2人。
なんとも微妙な布陣だ。
出来れば守る対象は1人の方が良いし、斥候系の能力持ちと防御担当が居てくれれば探索は安定する。
まぁ、クラットの大迷宮なら一層の出入り口付近で十分美味いものが取れるし、俺達が苦戦する様な敵は一層には出てこない。このメンバーでも問題ないか。
「いや、大丈——」
「——ふふ、話は聞かせて貰ったっすよ」
「水くせぇ事は言いっこなしだぜ、大将」
「クラットのほーむにいる人数だけでも100人に迫る数がいるんだ、僕らも手伝わせてもらえないかな?」
振り返ると其処には、散って行ったリベリオンメンバーの姿が。
全員いる訳では無いが、いる者は全員が武装済みだった。
「ぶっちゃけるとちょっとレベリングに行こうと思っていた所であります」
「今回の事で己の未熟さは嫌と言う程教えられたでござるからな」
「うん、折角だから狩りも兼ねて行くよ。リョウタ氏と一部は後学の為に竜の解体を見るって言ってた」
成る程、全員いない理由はそれか。
しかし、ガチで一度死に掛けたからだろうか? ……俺、今すげー嬉しい……。
「編成はうちがやっとく。ユウイチは獲物を選んでおいて」
「わ、私は探索せっとの準備をしてきます!」
「ユーイチ、狩るなら東のレッドリザードが良いと思う。ついでにエリアボスのジャイアントレッドリザードにも挑戦しよう」
やはり一度死の危機に瀕すると人は変わる物なのだろう。
今まで当たり前だった仲間達とのやりとりが、どうにも大切な物に思える。
「ああ、任せろ!」
油断はしない。仲間の命を危険に晒すヘマもしない。……だが、冒険も忘れない。
皆がより強くなる為に武器を持ったのに、そのリーダーである俺が剣を下ろすなんて以ての外だ。
「今日はエリアボスにカチコムぞっ!」
「おうよ、そうじゃなくっちゃな! 流石大将だぜ!」
「はぁ……細かい作戦はうちとエリザで組むよ」
各自が唐突なボス戦に向けて動き出し、程無くして、俺達リベリオンのメンバーは大迷宮に足を踏み入れた。




