第19話 戦闘準備
第三位階上位
翌朝。
暖かい日差しを受けて目を覚ました。
何時もなら日の出と同時に起きるのだが……全力状態は相応に消耗があるらしい。
取り敢えず——
「ギギギャッ」
「ギャギャッ!」
「グギャッ!!」
——うるさいゴブリンを掃除しよう。
◇
簡易砦の周りには、岩山から様子を見に来たらしい数匹のゴブリンがいた。
同時に、岩山の穴から此方を伺うゴブリンジェネラルが1体。
どうやら数匹のゴブリンは威力偵察……と言うか捨て駒として此方の戦力を測る為に向かわされたらしい。
流石にジェネラル級の魔物が束になって襲い掛かって来たら今の僕では撤退するしか無い。
ここは脅しも兼ねて、ディヴァロアに蹂躙して貰う事にした。
敵に最大戦力が割れる事になるが、手を出すにしてもそれなりに準備がいるだろう。
その間に防衛設備を整え、戦力を揃えるのである。
ディヴァロアが傷つき弱っている事は、遠目から見ても明らかだ。
ディヴァロアから伝わって来た曖昧な情報が確かなら、この機を逃す程ゴブリンの王は甘く無い。
森を侵略する上で散々辛酸を舐めさせられて来たディヴァロアを討伐する為に、必ずゴブリン達は動くだろう。
即ち、ボーナスステ——いや此方も被害は甚大になるだろうけどね。
まぁ、ディヴァロアや僕が死ななければドールやゴーレムなら幾らでも復活させる事が出来る。
それに、この森の木々は迷宮の魔力を吸っている為、通常の木材よりも質が良い。
取り敢えず今日は味方の強化や防衛設備の設置に専念し、ゴブリン達の襲撃に備えよう。
◇
時は巡り、空に月が輝く時間。
6層の支配は無事完了し、忌まわしきマモノの掃討を終えた。
各階層を完全整備し、ドールやゴーレム達を第8層に転移させ、異界迷宮の拠点に向かわせた。
現在の総合戦力は、レベル20代のドール86体とレベル10代のゴーレム30体。
その内5体のドールは、僕と一緒に行動して来た装備のグレードが高いドールである。
全てのドールは迷宮の木材で肉体を強化し、魔法機構を刻んで耐久力を底上げして、装備の整備を終えた。
今は来るべき戦いに備えてスキルのレベリングをさせている。
ゴーレム達は、僅かに強化された肉体に硬化や怪力の魔法機構を刻み、最大限の強化を図った。
要らない部分を削って肉体のバランスを整え、木製の鎧を装着し、巨大な石の剣や鎚を装備したゴーレム達は、見違える程に強そうだ。
見た目は、『人型っぽい土の塊』から『木製の鎧を着込んだ巨人』になり、実際の戦闘能力も飛躍的に向上している。
ただ1つ弱点があるとすれば、動きが遅い事。
ドールと比べると耐久力や攻撃力では優っているものの、スピードの差が大き過ぎるので、ドールとゴーレムが戦った場合ドール達が粘り勝ちするだろう。
ゴブリン戦では壁として、ゴブリン軍の動きを制限して貰うつもりだ。
まぁ、ゴブリンは数で攻めてくるだろうし、適当に武器を振るうだけで何匹か纏めて屠れるだろうけどね。
防衛設備は、壁の周りに掘りを作り尖らせた木の槍を大量に設置、出た土は壁の強化に使った。
壁にはそれ用に調整したゴーレムのコアを埋め込んでゴーレム化させ、硬度を高めておくのも忘れない。
壁の上にはゴーレムの腕をそのままくっ付けて、投石機の代わりをして貰う事にした。
おまけで掘りの底に水と土を混ぜて作った泥沼、ボグゴーレムを無数に配置し、落下しても生きていたゴブリンにとどめを刺したり、動きを鈍らせる様にした。
ウォールゴーレム LV1
アームゴーレム LV1
ボグゴーレム LV1
即席にしてはまぁまぁ良いレベルでは無いだろうか?
元々はマッドゴーレムを作るつもりだったが、水と土の配合比率が合致しなかった様で、ボグゴーレムと言う物になってしまった。
また、ウォールゴーレムやアームゴーレムを作っている時に遅まきながら思い出したが、そもそもゴーレムやドールは単体で1つの戦力として数える必要は無い。
低品質なコアではアイアンゴーレムを動かす事は出来ないが、各関節毎にゴーレム化させれば動かす事は可能なのだ。
余りに小賢しい事なのですっかり失念していたが、時間が出来ればゴーレムを狩り、コアを大量に集めよう。
後の時間は、魔石の魔力や迷宮の大気中にある魔力を魔水晶に溜め込んだり、回収した木材を加工して矢を沢山作ったり、ディヴァロアの回復スピードを速めたりして時間を潰した。
もう夜も遅いし、今日の襲撃は無いのかもしれない。
仕方ないので寝る事にしよう。
……明日も来なかったら此方から仕掛けてみようかな。
◇
深夜。
人妖狐の危険察知能力が反応し、僕は目を覚ました。
空には厚い雲が垂れ込め、星々の恩恵を遮っている。
防壁の上から岩山へ目を向けると——
「……うわぁ」
——夥しい数のゴブリンが山中の穴から湧き出ているのが目に入った。




