第5話 家を確認
第三位階中位
蜜をたっぷりと含んだ甘くて美味しいりんごもどきをシャクシャクと食べつつ、窓の外を見る。
窓から見える風景は、荒れた庭と程々に密度の濃い森、そしてそれらを分かつ小さな石の壁。
これだけでは周囲がどうなっているのか全く分からない。
差し迫った危険は無さそうだし、家の中を見て回ろう。
◇
「……人はいない、か」
部屋にあった小さなローブを拝借し、一通り見て回った結果、家の中に人はいなかった。
入り口は南にあり、玄関から向かって右手前に簡素なキッチンと食卓。左手前に大鍋やら錬金布やらがある調合室。右奥は僕が最初にいた寝室で、左奥がお風呂場やトイレになっている。
中央の通路奥には階段があり、二階には倉庫らしき部屋が1つと、寝台があるガラッとした部屋が2つ。何体かの動かない木偶人形が置かれた部屋が1つあった。
どの部屋も少し埃っぽく、人が居なくなってから少し時間が経っている様だった。
外の様子もざっと確認した。
どうやらこの家は森の中にあるらしく、周囲に人が住んでいる様子は無い。
長い石壁には幻惑系の魔物避けが施され、幾つかに別れている畑には植物の成長を促す魔法が、井戸には水を浄化する魔法が掛けられていた。
魔力の源は……どうやら家の地下に繋がっている。
見落としがあったらしい。
◇
此処で暮らしているのは、3体のドール。
1体は先程僕に紅茶を入れてくれたドールで、今は家の中を掃除している。
一階の各部屋からは上と比べて埃っぽさがあまり感じられ無かったので、使う部屋か使っている部屋を掃除する様に命じられていたのだろう。
また、彼は調薬も出来る様で、調合室の大釜を火に掛け、干した薬草を煮ていた。
お茶の様に効能を煮出し、更に幾らかの材料を投入してポーションを作る様である。
もう1体は泥だらけのドールで、畑の世話をしていた。
一人で作業するには程々に大変な広さだが、無限のスタミナを持つゴーレムなら然程でも無い様だ。
ただし、彼は木製で、ドールの自己修復能力と微生物の分解能力では僅かに微生物に軍配が上がるらしく、かなりボロくなっていた。
畑には何種類もの薬草が育てられている区画と野菜が育てられている区画があり、何方もしっかりと整備されているが、そこ以外の土地には雑草が生え、程々に荒れている。
最後の1体は、門番。
他の2体よりも体格が良く、鉄の剣と小盾を持った戦闘用のドールだ。
身体の各所に傷があり小盾もボロボロだが、剣だけは綺麗に手入れされている。
そして、外には壊れたドールが3体落ちていた。
1体は畑作業で朽ち果てたらしく、今は泥を落とされ軒先に安置されている。
もう1体は門番の1体だった様だが、傍らにはひしゃげた大盾が置かれ、その胴体は大きく陥没している。
足もへし折れているし、何か強い衝撃を正面から受け止めたのだろう。
最後の1体は……ボロボロだった。
手足が傷だらけで、胴体にも無数の穴が空いている。
特に目立つ傷は、胴体に刻まれた袈裟懸けの、真新しい切り傷。
これが致命打になったらしい。
見た感じ傷跡は鋭利な刃物による物なので……竜の様な大型魔物にやられたか、或いは武器でやられたのだろう。
何方であっても警戒を促すには十分な事実である。
庭を詳しく調べていると、ドール以外にもう一つ遺体を見つけた。
——お墓だ。
庭の端にあるそれは、一見すると大きめの岩が置いてある様にしか見えない。
しかし、岩の前には今日添えられたばかりの花が置かれ、良く魔力を感知して見ると、岩の下に人型の魔力が存在しているのが分かる。
死んでいるのは間違いない。
遺体に残っている魔力はそこそこに多く、生前は魔法使いか何かだったのだろう。
今の僕の感知能力でははっきりと断言する事は出来ないが、死因となる傷も無いし病気で亡くなった訳でも無さそう。
おそらくは寿命だろう。
軽く冥福を祈ってから、その場を後にした。
◇
「むむぅ? ……迷宮?」
それは家の裏手にあった。
お風呂を炊く為の薪が積まれた横に、地下へと続く階段があり、そこに入ると、最初に見えたのは程々に大きな部屋。
ひんやりとしたその部屋には、中央に光りを放つ水晶玉があり、その横にある通路を覗き込んだら、もう一つ階段があったのだ。
水晶玉からは強い魔力を感じるので非常に気になるが、念の為確認をすべく階段に足を踏み出すと——
——周囲の気配が少し変わった。
これは、迷宮に入る時と同じ感覚だ。
十中八九迷宮だろう。
「……後回しかな」
迷宮がどの程度の規模か分からない以上、いきなり入って行くのは危険だ。
何より、武器が無い現状では、敵を倒すには魔法しか無い……事も無いが、しっかりと準備して事に当たるべきだろう。
先ずは水晶玉の確認だ。
住居核 品質? レア度? 耐久力?
備考:住居の核。稼働中。
ざっと調べると、これは住居核である事が分かった。
どうやら鑑定や僕のレベルが低い為、知っている情報しか出てこないが、それでも十分である。
魔力感知を使って良く調べれば、住居核が何に使われているか分かるからだ。
「ふむふむ……大体予想通り」
ざっと見た所、住居核が主に担うのは6つの事。
石壁の幻惑結界。
畑の成長増進。
井戸水の浄化。
石壁から少し先まで届く魔物避け。
建物やドールの修復。
そして——
——迷宮の強奪。
住居核の処理能力の殆どが迷宮の支配権を奪う為に使われている。
今は奪い合いが拮抗しているが、そもそも住居核は迷宮核の下位互換。
拮抗しているという事は住居核の所持者がそれだけ強力な力を有していたという事だ。
また、住居核の能力から迷宮の規模を推し量る事も出来る。
現時点では、この迷宮は然程大きく無い筈だ。
上級ポーションもあるし、簡単に攻略出来る事だろう。
今のゲーム時刻は、朝の少し遅い時間。
色々と準備してから昼辺りに攻略を開始してみよ——
「——くちっ……えぇ」
こんな寒さでくしゃみするんだ……寒耐性あるのに。




