第32話 常識人ルカナ
第七位階中位
異常に強力なゴーレム達が溶岩の道を進む僅かな間に、最悪の事態になった場合に備えて念の為、私なりに戦力把握をしておく。
まずはユキ。
……ちょっと分からない。
これだけ近くにいながら、底が全く見えてこないのよ。
英雄や勇者と呼ばれる存在が持つ様な強力な武具を多数保有し、魔法に長けた悪魔以上に容易く魔力を行使し、瞬きの一瞬で悪魔王級の魔物を生成する。
伝説の至宝である宝珠をいくつも所持している時点でおかしいのに、その配下もオカシイわ。
魔界に現存する遥か昔の書物に記されている様な、悪魔ですら歯牙にかけない化け物達を複数使役している。
ユキはまるで、悪魔族の中で古くから言い伝えられて来た存在、遍く魔を統べ、加護を与えると言う魔の王、『魔王』の様ね。
きっとユキなら、単独で機神を屈服させる事が出来る筈。
そんなユキは、観戦と言う言葉の通り、ウサ子が座っている豪華な椅子を大きく変形させて割り込み、初老の男の姿をした吸血鬼が入れた紅茶を飲んでいる。
豪華な椅子にはユキの配下の人型が何人か座っており、かく言う私もその1人。
……なんでただの紅茶がこんなに美味しいのかしら?
次はルヘーテの獅子。
この2人は、悪魔皇帝のディアリードをすら凌駕すると言われているアルギバエ・ルヘーテの子孫らしい。
その実力は折り紙付きで、特にレーベ・ルヘーテは、機神程ではないけどそれに迫る力を感じるわ。
リオンの方は、まだまだ弱っちく見えるのに、戦闘に関してだけはやたらと強いみたいだし。
この親子ならば、機神の全力を少しの間だけなら防ぎきれると思う。
レーベ・ルヘーテは直立不動の姿勢で機神を見上げ、リオン・ルヘーテは至福の表情でユキの左足にくっ付いている。
……ユキに足蹴にされるのは……良いかもしれない。
続いて武士風の2人。
この2人は、片方は花精でそこまでの脅威は感じないけど、もう片方はヤバイ。
剣術を極めた剣仙特有の刃の様な気配を放つ犬子は、おそらく間違い無く、ユキと同じ様に機神を単独で退ける事が出来るだろう。
それ程の戦力が2つも同時に同じ場所に存在していると思うと、なんでかそれだけで現実感が無くなって行く様に思う。
やっぱり、今まで私が暮らして来た常識と言う名の世界が揺らいでいるからかしらね?
悪魔皇帝ディアリード。
いつか絶対に越えてやると思いながらも、何処か雲の上の存在だと思っていた。
でも今此処には、それに匹敵するか越える程の化け物が2人もいるのだから。
現実感が無いのも仕方ないと言う物ね。
犬子の方は豪華な椅子の端に腰掛けて機神を見上げ、花精はユキの左隣に座ってユキの左手に抱きついている。
まるで縄張りを主張するかの様に桃の香りがユキを覆っていた。
雪子と雪女は、私と同等の魔力量を感じる。
どちらも希少な氷の精霊で、特にユキの右隣にくっ付いている雪子は、何処と無く仙人特有の、一段階極まった魔力の気配を感じる。
魔力量が私と同等なら彼女の方が私より強いと言う事になる。
濃度の高い魔力を濃度の低い魔力で打ち倒そうとするなら、通常の何倍もの魔力が必要になるからだ。
対して雪女は、然程の脅威は感じない。
力量はほぼ私と同等みたいね。
ニタニタと気持ち悪い笑顔でユキの右足に頬擦りしているのは、ユキ曰く七聖賢の1人ミュイア・リーズベリ、もといミュリア・リーズベルトらしい。
確かに、噂に違わぬ強力な聖属性を感じるが、まさか悪魔達が恐れたミュイア・リーズベリがこんな変態だったなんて……。
…………いや、私が言えた事では無いんだけどもね……くっ、ユキのせいなんだから……!
それらのちみっ子達の左右には、あの『白竜皇』と『奈落に潜む者』が控えている。
どちらも魔界では多いに恐れられた伝説的存在だ。
片や五天帝の1人、賢神グリエルと共にあった竜。白竜王の『超越種』。
片や七聖賢最強の戦士、魔団のベルベットを守護する服を作った大蜘蛛。同型種の中では類を見ない程に成長した『新種』の魔物だ。
それがユキを守る様にユキの側に控えている。
私は最早ユキが神や亜神の類であっても驚かない。
私の後ろには猫子がおり、思考停止するかの様に、大きな奇形オブジェとなったベッドでゴロゴロしている。
私の左隣ではケロ子が人形の様に硬直しており、ニュイゼさんが甲斐甲斐しくケロ子を世話している。
この3人の内2人は、賢者級と言う魔法師系魔物の最上位種。
ケロ子は間違い無く『亜種』。猫子は雷を操ると言う特異性から『希少種』だろう。
そしてニュイゼさんは……間違い無く『超越種』。
種族はユキ曰くエキドナらしいのだけれど、エキドナと言えば、グラシア家の遺跡の深部にあった古代の魔道具、『神典碑』の神話に出てくる存在だ。
天災級の魔物を無数に産み落とし、大災厄を招く『魔王』。
——『竜母・エキドナ』。
ニュイゼさんはそこから更に、ユキと同じ様な魔力の気配を漂わせている。
ユキの配下の中で私が特に注目している魔物達。『危険そうな魔物トップ10』に入っているわ。
仮にエキドナが魔界で発生していたら、『七大魔王』の空席を埋める存在になっていたでしょうね。
ただし、こうして見ている限りだと、ニュイゼさんは神話に語られる様な『魔王』、『竜母・エキドナ』の様には見えない。
……まぁ、お母さんっぽくは感じるし、別の意味で怖く思う時もあるけどね。




