第37話 白の騒乱 悪夢の始まり
第五位階上位
パフィニョンとは。
一般的には、非常に珍しく、そして高価な食材とされている。
香り豊かであり、甘みが強い。
通常は加熱調理して肉料理として食べる。
他は、野菜炒め、網焼き、煮込み、などなど。何をしても美味い。
因みに生食は危険。
一つ食べれば原因不明の高熱になり、複数食べればそのまま死んでしまう事もある。
勿論、調理の仕方次第では同様の症状が現れる。
高熱の原因は不明だが、より調理工程が多かったり調理時間が長いと、高熱は起きないと言う。
◇
「パフィニョンだぁぁーーっ! ハグムシャムシャッ!」
「ちょっ!? 吐きなさいっ!」
「ぐぇっ!? 苦し……」
死ぬぅ……。
◇
慌てるジョディをどうにか宥め、口から溢れたパフィニョンを拾って食べ——
——スパンッ!
……ようとしたらジョディに手を打ち払われた。
「先に何故大丈夫と言えるのかの根拠を述べなさい」
ジョディは、もしもの時は胃を裂いてでも取り出してやると言わんばかりに腰の短剣に手を付けている。怖いよ。
「……私がパフィニョンを好きな理由は話したよね?」
「はい、勿論覚えています。パフィニョンを食べて死に掛けたと言う話を、ね」
ち、違うからっ! 話終わってないからっ、短剣抜かないでっ!
「ま、待ってっ、話を聞いてっ! くださいっ!」
「……聞きましょう」
雲行きの怪しいジョディを説得する為に渾身のDO・GE・GAをすると、ジョディは短剣を鞘に戻してくれた。
痛い事態になる事をどうにか回避出来たらしい。
「……ふぅ」
「早めにお願いします」
「わ、分かった」
私が一息つくと、ジョディは短剣を少し抜いてみせた。
私のDO・GE・GAは無意味だったらしい。
……学園長で迷宮主の私が頭を下げてるんだぞぉ。
そう思った瞬間、ジョディが短剣を半ばまで引き抜いたので、黙って説明したいと思います。
痛いのは嫌。
「コホン……えー、パフィニョンは生食するととても甘くて——違うんです。話をっ、話を聞いてください!」
「……」
短剣を抜き、黙ったまま目で話の先を促すジョディ。
まったく、話の腰を折る様な真似は止めて欲し——
「——でですね。私は長い間パフィニョンをおやつにですね、していた訳なのですよ」
「……その様な場面は一度も見ておりませんが」
「……そ、それはまぁ……私の取り分的なアレがアレで…………隠れて食べてましたっ。量が少ないから仕方ないね!」
其処まで言うと、ジョディは呆れ返ってもはや憐れみにすら見える顔で短剣を鞘に収めた。
そのまま『はぁ』と溜息を吐くと、ふと、何かに気付いた様な顔をして、私を見つめて来た。
「……長い間食べて無事だから大丈夫。そんな理由は100歩譲って分かりましたが……その予算は何処から——」
ギクッ!
「…………確か、ルシアの我が儘で、迷宮商店のオークションに出ていた竜杖を競り落としたのが百年前」
ギクギクッ!
「……ローンは後何年でしたっけ?」
「……い、一年くらいかな?」
「……」
「……百年ですね」
「……百と五十年です」
「……」
あ、あれー? 百年じゃなかったの?
「DPを安全圏に保つ為に、返済期間を延ばして貰ったのです」
ニコッと微笑んだジョディ。
……ヤバイ。逃げよう。
「さて、嗜好品を買うお金は一体何処から出たのでしょうか?」
私の逃走を察知したらしいジョディは、私の肩をがっしりと押さえて地面に留まらせる。
もはや万事休す。
ジョディの優しさを信じて真実を述べるしか無い。
「そ、それはほら……迷宮の新層何て作っても誰も来ないし……新しく魔力効率の良い光源の魔法陣が出来たから灯代が浮いてですね、ジョディさん」
私の言葉に額を押さえて目を瞑ったジョディ。
「……階層を増やすとDPの補給量が増える事は御存知ですね?」
「え?」
「言いました」
「……えへへむぎゅう」
忘れてた。
悪いのは全部パフィニョン。
だから頰を引っ張らないで。
「痛いです」
「因みに着服はいつからでしょうか?」
「……去年から」
「因みに着服はいつからでしょうか?」
「……三十年前からです」
「……《ニコッ》」
「……えへへ」
……。
◇
場所は庭園の少し奥。池の真ん中。
偶に貴族のご令嬢達がお茶会を開くのに使っている、ちょっとした石造りの建物。
暑い季節なんかはここでお昼寝すると気持ち良い場所。
「グスッ」
めちゃくちゃ怒られた。
「庭園内に自生していたパフィニョンは全て回収しておきました」
「わーいっ!」
「食べちゃダメですよ? 全てDPの補填をする為に売却しますから」
「……え?」
……ジョディ今何て言ったの? キコエナカッカタヨ?
「都市内では学園の庭園でのみ確認されたので、おそらく庭園の植物に供給されている栄養を着服したのでしょう」
ジョディがさり気無く私を口撃してくるが、今私はジョディに気付かれない様に山盛りパフィニョンを入手する手立てを考えているので忙しい。
ジョディは私にパフィニョンを取られない様に、ジョディのすぐ横に山盛りパフィニョンを設置している。
これをどう取るか。
「いつから生えていたのかは不明ですが——」
「……む?」
ジョディの話を聞き流しつつ、パフィニョンを見詰めていると、唐突にパフィニョンが立ち上がった。
冗談でも何でも無く、山盛りパフィニョンの中からパフィニョンが1匹? 立ち上がった。
ジョディはそれに気付いていない様だし、もしかすると私の見た幻覚かもしれない。
気配を探っても特に生物の気配は感じられない。
つまり幻覚。
そう結論付けた瞬間、立ち上がったパフィニョンがジョディへ飛び掛かるのが見え——
「っ! 『火の矢』!!」
「っ!? そこまでっ……え?」
——私は火の矢を放った。
敵意を感じた気がして咄嗟に放った火の矢。
それは中空に舞うパフィニョンに突き刺さり、敵をジョディの後方へ弾き飛ばした。
「……そこまで?」
「いえ、何でも」
「……うわーん、ジョディに不当に罵られたー」
「そんなくだらない事を言っている場合ですか」
そうだね。
◇
「……解析の結果だけど、やっぱりこれは魔物ね」
「他はどうですか?」
「他は全部普通のパフィニョン」
軽く解剖したり、魔力を流して確認を取った結果。
飛び上がったパフィニョンは魔物である事が判明した。
米粒程の魔石が入っていたので間違い無い。
問題は発生原因だけど……。
「おそらくだけど……迷宮の濃い魔力に当てられて魔物化したんじゃないかな?」
まぁ、迷宮の魔力だけでパフィニョンが立ち上がる筈は無い。
迷宮の魔力以外にも何らかの原因はある筈。
「成る程……ルシアはこう言う時だけは頼りになりますね」
「えへへ」
ジョディに褒められちゃった。
「……はぁ」
「?」
その後、公都内部に残った白波にパフィニョンを見つけたら報告。歩くパフィニョンを見つけたら討伐する様に指示を出した。
◇
夜、深刻な表情をしたジョディに、集められた情報を聞かされた。
事態は一刻を争う物。
事実、森へ派遣した白波達は——1匹として帰ってくる事はなかった。




