第34話 白の騒乱 嵐の前の嵐
※320万PV達成
第五位階上位
ゴゴゴッとまるで大型魔獣の寝息の様な音が聞こえる。
私は無駄に鋭敏な聴力のせいで目を覚ましてしまった。
「……ふぁ……ジョディー? 何が起きてるの?」
間違いなく起きており、且つ直ぐに調べているだろうジョディに声を掛けると、返事は直ぐに返って来た。
「街中では特筆すべき事柄はありませんね。虫もネズミもハエ供も静かな物です」
相変わらず落ち着いたジョディの声が聞こえる。
覚醒しきらない頭で物を考えるに、警戒すべき連中は動いていないと言う事だろう。
となると——
「……また勝手に迷宮入りした子が——」
「——いえ、生徒達も今日は良く寝ています」
「……そう」
極稀に実践の方が早く強くなれるからと初心者迷宮に入る子達がいる。
そんな子達には後でお仕置き……と思ったけど違うらしい。
それなら——
「——貴族が問題を起こした訳でもありません」
「……そうなの……」
……そういえばハエも寝ているとか言ってたわね。
「どうやら兵士達が外壁北部に集まっている様です。先程黒翼に帰還指令を出しましたので、詳細は直に分かる事でしょう。ルシアはどうぞお休みください」
ジョディが言うなら安心ね。
「任せるわ……すぅ……すぅ……」
——お任せ下さい。
そんな声を聞きながらも、私は眠りに着くのだった。
◇
「何よ……これ……」
明くる日の朝。
報告を聞くよりも実際に見た方が良いと言うジョディに引っ張られ、馬車を走らせて外壁へ向かった。
朝の騒がしい市内を抜け、言われるままに外壁を登る。
見えて来たのは——変わり果てた湿地帯の姿だった。
「湿地帯に配備していた黒翼からの報告によると、昨夜未明、王都方面の海域で大きな光が発生し、その後間も無くして津波が押し寄せて来た様です」
遥か遠くに見える湿地帯は、そこにあった筈の全ての木々が薙ぎ倒されていた。
被害はそれだけでは収まらず、津波は王栄街道を越えて幽幻の森にまで到達していた。
「幸い流星隧道周辺には津波が届かなかった模様。人的被害はありませんでした」
「……うちの被害はどうなったの?」
「迷宮孔は一時封鎖しましたが、湖エリア、川エリアが増水。淡水型魔物が弱体化しています」
湿地帯から水を確保する為に開けた迷宮孔から海水が流れ込んでしまったらしい。
それに、湿地帯がこの有様だと……。
「お察しの通り、湿地帯を監視していた水鱗部隊は全滅しました」
「うぅ……やっぱり……」
湿地帯に派遣していた『リザードマン』達が海に流されてしまった。
最近ようやくリーダー格が進化した所だったのに……。
「他の津波による被害は……大した事ではありませんが。ルシア様の大好物であるパフィニョンの栽培研究施設が水没した事でしょうか?」
「っ!? ……嘘…………」
◇
ジョディの行動は迅速だった。
私がいじけている間に各種対処を終えてくれたのだ。
学園の休校。
公爵家主導による、兵士、冒険者、学園生徒の王栄街道仮整備。
迷宮の水抜きと水分調整。
黒翼を用いた湿地帯跡地と幽幻の森の調査。
私がした事と言えば、パフィニョン栽培研究施設の片付けと再建だけだ。
「はぁ……殆ど流されちゃった……」
迷宮孔を大きく開けていたのが災いした様で、パフィニョンを栽培していた原木の殆どが流されてしまった。
仕事の合間を縫って、私自ら育てたパフィニョン。
もう直ぐ食べ頃だったのに……。
海水にやられた原木を泣く泣く処理し、合間合間に食事を摂りながら迷宮の状況を確認していると、直ぐに夜になってしまった。
ジョディは徹夜で仕事をする様で、私は休む様に言われた。
もう直ぐ収穫する筈のパフィニョンはダメになるし。
ようやく進化したリザードマンは全滅するし。
ジョディからは戦力外通告。
もう不貞寝するしかない。
◇
翌朝、寝不足だったせいか今日は良く眠れた。
ジョディに連れられて外壁の上に立ち、湿地帯跡地を見ると——
——何も無くなっていた。
薙ぎ倒された木々の全てが無くなり、更地になっていたのだ。
「……」
「昨夜未明、またもや王都方面の海域で大きな光が発生し、その後間も無くして津波が押し寄せて来ました」
「……王都で……何が起きているの……?」
その声は少し、震えていただろうか?
津波が一度起きただけなら自然災害で済む。
私は結構長く生きているが、津波は既に何十回か経験しているから。
しかし、2日連続で、それも二回とも事前に大きな光が観測されている。
これは明らかに、王都で何かが起きている。
……何か……恐ろしい事が。
「昨夜の内に黒翼を流星隧道から王都側へ向かわせました。帰還は早くとも今夜になるでしょう……計画を早めますか?」
「……準備だけはしておいて」
「直ちに」
出来る事はしておかないと。後で後悔しても遅いのだから。




