第27話 白の騒乱 二 全てを見抜くユキの瞳
第六位階上位
フユキがパフィニョンに近付くと、最も近くにいた迎撃体のパフィニョン3匹がそれに気付き、飛び掛かって来た。
取り敢えず実験も兼ねて、それぞれ違う切り方をして貰う。
1匹は胴を上下に分断。
1匹は笠と胴の繋ぎ目を分断。
最後の1匹は真っ二つに両断である。
結果、胴を分断されたパフィニョンは、胴にあったらしい米粒程の大きさの魔石を、攻撃の余波で破壊されて動かなくなり。
真っ二つになったパフィニョンも、魔石が砕けて動かなくなった。
唯一生きている傘の無いパフィニョンは、のそりと立ち上がるとプルプルと震えだし——
「なっ!?」
——自爆した。
辺り一面にパフィニョンの肉片が飛び散り、他のパフィニョン達が此方に気付く。
数十匹の迎撃体が一斉に此方側へ走り始め、全ての護衛体が一列に並び、侵略体が後方へ撤退する。
水が流れる様な見事な連携である。
フユキを認識したらしい迎撃体達が、跳躍して襲い掛かって来るのに対し、フユキは刀を鞘に収めた。
次の瞬間——フユキを中心に小さな雷が発生する。
宙で枝分かれする雷撃は、寸分違わず迎撃体の胴の中心を撃ち貫く。
ポトポトと地面に落下した迎撃体は、立ち上がる事も無ければ爆発する事も無い。
圧倒的である。
しかし、そんな状況であるにも関わらず、護衛体も侵略体も動かない。
「ふむ」
考えられる事は1つ。
パフィニョン達は遠くにある物を認識出来ないのだろう。
先ず第一に、見た目から言って視覚は無い。聴覚も無いだろう。
味覚や嗅覚はあるか分からないが、触覚は間違いなくある筈だ。
視覚からの考察はここまで。次は魔覚で見てみよう。
◇
意識を魔覚へシフトさせた。
僕の目の前にいるのは、フユキの魂。
僕と同じ銀色に加え、仄かに金と黒の色を感じる。
混ざり合っていないのは、それが何某かからの加護を受けているからだろう。
実際のフユキの色は、混じった銀色を除くとオレンジ系統の柑子色だ。
おそらく、装備である『唐紅の曼珠沙華』の赤と『雷樹』の黄が影響しているのだと思われる。
銀色が占める割合が多いから、影響も極端に少ない様だが、今後他の色がじっくりと浸透して行くだろう。
そうして初めてフユキはフユキになるのだ。
さて、件のパフィニョンだが、魔覚で見ると幾らか分かった事がある。
「……やはり、か」
思っていた通り。
パフィニョンとは——
——群体生命体である。
個にして群、群にして個。
これは、僕の配下である群体スライム君と同じ様な存在だ。
パフィニョン達は、1匹1匹には確かに魂があるものの、その有り様は薄弱。
しかし、全てのパフィニョンは一つの核を中心に全て繋がっている。
詰まる所、本体の持つスキルや情報を全てのパフィニョンが共有しているのだ。
その癖、本体が唯一無二の存在と言う訳でも無い様である。
現在、僕の察知出来る範囲には、パフィニョンの核は存在しない。
所々に周辺一帯のパフィニョンの母体が存在しており、パフィニョンの支配領域はかなりのスピードで進行している様だ。
パフィニョン達は、侵略体が振り撒く胞子や、迎撃体と護衛体が自爆してばら撒く肉片を使用して支配領域を広げているらしい。
胞子や肉片は、大地や木々から栄養と魔力を吸い出し、急速に成長して増殖する。
仮に、パフィニョンの核を撃破しても、スキルや情報の共有が停止するだけで、広範囲に散らばっている母体を駆除しない限りパフィニョン達の侵攻は止まらない。
更に言うと、母体を倒してもパフィニョン達が死ぬ事は無く、ただ増殖スピードが激減するだけに止まるだろう。
いつの間にか公爵領で生物災害が起きていた。
これを止めるには、段階を追って駆除を進める必要がある。
先ず第一に、核を撃破する。
これにより、スキルと情報の共有が停止され、各エリア毎の連携が乱れる事になる。
既に共有されているスキルや情報は無くならないが、新たなスキルの共有が成される事は無いだろう。
次に、母体を破壊する。
母体を破壊すれば、パフィニョンの増殖スピードを大きく減じる事が出来るだろう。
パフィニョン達は自らが振り撒く胞子や肉片で、歩キノコを増やす事が出来る様なので、完全に増殖を止める事は出来ない。
続いて、歩キノコを駆除する。
これによって、パフィニョンの増殖スピードは更に低下する。
最後に、残った菌糸を焼き払う。
これを成す事が出来れば、パフィニョン達を完全に討伐出来るだろう。
勿論、それ以上に簡単な方法はある。
パフィニョン達の魂の繋がりを利用し、魔覚の世界から直接母体の魂を叩くのだ。
そうすれば、母体が支配する領域のパフィニョン達は一気に死滅する筈。
ただし、これにも問題はある。
それは、全てのパフィニョンの母体を倒し切る前に、僕の精神力が尽きる事だ。
ただ見ているだけでも直ぐに疲れが出る。アクションを起こせば疲労がマッハである。
実際に、リオンの魂を揺さぶった時も結構疲れた。
余波で他の魂まで破壊する様な攻撃をすると、それだけで眠くなる事間違い無しだ。
ざっと見回した所、パフィニョン達は山越えを出来ない様で、山の2合目辺りで侵食が停止していた。
今正に、この坑道から王都側へ進軍する所だったのだろう。
以前僕が迷宮都市側へ来た時の洞窟は、何故かパフィニョン達に侵攻されていなかった。
よく見ると、其処には僕の魔力の残滓が存在しており、パフィニョン達はその魔力の分解に手間取っている様であった。
侵略体が胞子を振り撒いても、その度に胞子が死滅しているのである……僕の魔力は毒か。
更に、パフィニョン達が少し洞窟の中に入ると、途端に彼等の動きが悪くなり、ただの死体になって行く……僕の魔力は猛毒か。
広間から地上へ続く階段も、錬金術の錬成で整備していたので、洞窟側からの侵攻は心配しなくて良いだろう。
魔力はかなりの量があるが、精神力には確かな限界が存在している。
十分な情報は得られたので、そろそろ魔覚を解除して精神力を温存しよう。
◇
意識が戻って来ると同時に、雷光が迸り、全ての歩キノコが殲滅された。
後は目の前にある白い壁、繁殖体のみである。




