第22話 ナイトメアモード
第六位階上位
先ずは服装の確認。
上から下まで全て、純死神装備である。
フードの中身を覗き込んでも、強い隠密、隠蔽効果によって黒い靄が見えるだけ。
手足も同様、ローブの外に出ているのに、見えるのは黒い靄だけ。
その実、黒い手套やオーバーニーソックスの様な物を履いているので、見えても黒いだけである。
武器は死神の鎌、では無く『闇鋼の鎌』を強化した『闇精金属の鎌』だ。
闇精金属は此方の人々から、ナビメント希少鉱と言う風に呼ばれているらしい。
つまりナビメント鉱石、又はナビメントだ。
鎌の銘は『マガタチ』。
禍々しきを断ち切る。毒を持って毒を制する聖なる大鎌である。
装備の確認を終えたので、早速仕掛けよう。
蟹君は尊い犠牲になるのだ。
◇
——ドゴォォンッッ!!
蟹君は吹き飛んだ。
大鎌の柄で胴体を持ち上げられ、投げ飛ばされたのである。
此処で重要なのは、大袈裟な音を立てる事。
そのままぶちかまして両断しても良いのだが、それだと側から見てレベル200台に見えないので、吹き飛ばすだけにしておく必要があった。
吹き飛んだ蟹君は、北の森と元霧の森の境目を越え、遠くに見える山肌に激突した。
それを見届けつつも、兵士やプレイヤー達に強烈な威圧を送り、拘束系の魔法を掛けていく。
全て掛け終わると、何の前触れもなく唐突に宙に現れてみた。
見下ろした戦場では、ゴブリン含め全ての生物が停止し、威圧の根源である此方を見上げている。
うむ、第1段階は上手く行った様だ。
何もいない地上へゆっくりと降下し、これ見よがしに鎌を回す。
そして——
——ドンッ!!
大地に柄を突き立て、風を操って音を広げると共に闇の奔流が放たれる。
日の光は陰り、冷たい風が吹き荒ぶ。
《《【大陸クエスト】【緊急クエスト】『迷宮の主』が発令されました》》
《《
【大陸クエスト】【緊急クエスト】
『迷宮の主』
参加条件
・迷宮の主と戦う
達成条件
・迷宮の主を討伐、撃退する
失敗条件
・大陸が滅びる
・備考
迷宮深部より迷宮主が侵攻してきた。
これを討伐、撃退せよ。
》》
……正に終わりの現出。終焉の始まり。驚きの演出効果。
かつて無いほどのラスボス感が、却って演出っぽさを際立たせている。
ただし、それは恐怖に対抗出来る程の精神力を持つ者のみが分かる事。
プレイヤーの殆どは、圧倒的な死の気配に怯え、竦んでいる。
問題があるとすれば、味方である筈のゴブリンすら本能的な恐怖で竦んでしまっている事か。
完璧に死属性魔力を統制したつもりだったが、兵士やプレイヤーの魂から反響する死の気配が、ゴブリン達にも伝わってしまった様だ。
仕方がないので、ゴブリンの武器に闇属性の魔力を纏わせ、強化しておく。
これで人間側は、死神がゴブリンの親玉であると理解しただろう。
そこまでやった、次の瞬間——
——光が大地を照らした。
外壁から飛び降りた僕が、全方向に聖なる光を放ったのである。
聖なる光は闇の粒子を浄化し、陰を帯びた陽光がその光を取り戻した。
同時に拘束魔法を解除し、威圧を弱める。
威圧を完全に解かないのは、最早勝敗が決まっているから。
最後の最後に初心者モードから悪夢モードに切り替えるのだ。
セツナと密に連絡を取り、新たな演出を加える。
僕とセツナが、聖槍と大鎌をぶつけ合った瞬間。
ゴブリンには闇色のオーラが、プレイヤーには聖なる青色のオーラが発生し、プレイヤーの武器がゴブリン同様強化される。
簡易の強化魔法である。
僕とセツナはぶつかり合い、お互いの武器を弾いて、距離を取る。
「勇猛なる戦士達よっ、恐れる必要はありません! 光の加護を受けしその剣で、侵略者共を討ち亡ぼすのですっ!」
味方を鼓舞するセツナの声に、いち早く正気に戻ったらしい大剣士の『銀の天使に続け!』と言う言葉が聞こえ、それに応える様にプレイヤー達の咆哮が響き渡った。
悪夢モード、スタートの号砲である。
◇
計画と言うのは、往々にして上手くいかない物だ。
「はぁっ!!」
「ふっ!!」
僕は今、二人の敵と相対している。
セツナはその二人の後ろで、回復魔法と補助魔法を掛けているのである。
さて、その二人とは——
「くっ、強い。これがユキさんが戦う領域なのか……!」
「まともに受けたら即死もあり得るぞ、正面は俺がやるっ」
——タクとセイトだ。
武具の強化系能力を発動させ、セツナの援護を得て、戦闘力が大幅に増加した二人。
その実力は、レベルにして250を越える。300には届かないだろうが、攻撃力も防御力も技術力もかなり高い水準に到達し、唯一低い魔力強度は強化系能力とセツナの援護で補われている。
セイトは、聖鎧の一種である白竜王鱗鎧と言う鎧の効果で、竜人化している。
補助魔法の効果や元々の技術力と相まって、実力はレベル260相当と言った所か。
タクは、結晶大王蟹の鎧と双剣の効果を発揮し、補助魔法を受けて、化け物染みた防御力と攻撃力を実現させていた。
レベルは290相当だろう。
対する僕は、死神のローブと死神のチョーカー、死神の影鎌に死神の魂というネックレス。手元にあるマガタチ以外は純死神装備である。
それだけでも、レベル350相当だ。
手加減するので、今はレベル250程度に抑えている。
まぁ、効果時間が終わるまで粘れば良いだけの話。
この機に二人の本気を味わっておくとしよう。




