第20話 血闘刻印
第六位階上位
次に注目するのは、メィミー。
「えい! えぇいっ!」
彼女が相対するのは、一匹のゴブリンナイト。
……いや、相対すると言うのは語弊があるか。
何せゴブリン、地面に転がってるし。
「ふんっ、ふんぬぅ!」
メィミーは今、ピクリとも動かず地面に転がっているゴブリンに、ひたすらナイフを振り下ろしている。
別に死体を傷付けている訳では無い。
ゴブリンナイトは生きており、尚且つ意識もちゃんとある……体が動かないだけで。
ゴブリンナイト LV20 状態:麻痺《大》
これがメィミーの魔眼の力だ。
対象を麻痺させる能力である。
1度に使う魔力の量は、そう多くは無い様だ。
もしかすると対象との力量差が影響しているのかもしれない。
メィミーの魔眼は発動すると、右の赤い目に不可思議な紋様が浮かび上がる。
そしてちょっと光る。
その紋様は、見た所精霊刻印の一種だ。
しかし、僕の使う魔眼系スキルは眼球に精霊刻印が浮かぶ訳では無く、ただ光るだけだ。
かと言って、眼球に精霊刻印を刻んだ訳でもなさそうである。
おそらく、必要に応じて精霊刻印を出したり消したりしているのだろう。
つまり、通常の魔法詠唱と同じである。
……でも、失礼ながらメィミーがそんな器用な事を出来るとは思えない。
何か面白いカラクリがある筈だ。
◇
「ふむふむ……」
発動状態を良く観察すると、やはり面白いカラクリがあった。
どうやらメィミー、魔導核の様な物を持っているらしい。
マントの裏地に縫い付けられた隠しポケットに、それが入っている。
……どうやらメィミー、気付いて無い?
何故魔眼が使える様になったか知らない様だ。
血闘刻印核・竜の目 品質A レア度6 耐久力A
備考:血闘刻印を発生させる核。霊獣級。
鑑定して見た所、魔導鎧の亜種の様な物だと言う事が判明した。
魔導鎧と違う点は核の重要度か。
魔導鎧は核に様々な機能が盛り込まれているが、最悪核が無くても鎧を動かす事は出来る。
しかし、血闘刻印とやらは、全機能を核に依存している様だ。
利点は、触媒が不要な点だろう。
魔導鎧で強力な魔法を発動するには、強力な魔力の発動に耐えられる素材に魔法機構を刻む必要がある。
強力な素材は入手も困難だが、それに魔法機構を刻むのもまた困難。
魔導論者のスキルでは、魔導核に魔法機構を刻む事が出来ても、魔導外装を作る事は出来ないのだ。
ただ、どちらが優れているかと言うと、それは何方とも言えない。
同格の魔導核と血闘刻印核ならば、外装に魔法機構を刻める分魔導核の方が有利だ。
これは、1度作ってみる必要があるだろう。
纏めると、
・血闘刻印核は、魔力を大量に使用して複雑な精霊刻印、血闘刻印を描く事が出来る。
・血闘刻印核は、魔導核とは違い、核に全ての情報が入っている。
・血闘刻印核は、魔力がある限り幾らでも強力な魔法を使う事が出来る。魔法使用の上限は核の強度による。
これらの事を纏め、血闘刻印と魔導鎧の違いは、
・血闘刻印は外装がいらない。
・血闘刻印は瞬間的な出力が高い。
・血闘刻印は魔力の消費量がバカみたいに多い。
・血闘刻印はその性質上、精霊を消費して稼働する。
最後の一つは、既存の血闘刻印核を解析してみないと何とも言えない。
しかし、その構想は正に、大気に漂う精霊を消費して膨大なエネルギー得る物だろう。
魔力の消費量が膨大なのも、設計思想がそれであるからだと考えられる。
故に、宝珠クラスの核が無くとも、同程度の出力を出す事は出来るだろう。
……まぁ、そんな事をすれば大いに環境を破壊する事になり兼ねないが。
上手い事調整すれば、精霊を消費せずに膨大な魔力を得る事が出来るだろう。
今後の事を考えると、なるべく早めに研究、作成した方が良い。
尚、メィミーの使っている血闘刻印は、周辺の精霊を消費せず、搾取するだけに留まっている。
理由は単純に、メィミーが血闘刻印核を完全に扱えていないからだ。
何故メィミーが少しでもその力を使えるのかと言うと、それはマントのおかげである。
マントの裏地には精霊刻印では無い魔法機構が描かれており、血闘刻印核の力をほんの少しだけ引き出す事が出来る様になっている。
ともあれ、血闘刻印の研究は戦いが終わってからだ。
次は誰を見ようかな?




