第40話 飢え
第八位階下位
コソコソと、他の天使達の目を気にしつつ、外に向かう子供天使3人。
この世界では特に珍しくもない、飾り気のないワンピースを着た彼女等は、見たところ……孤児だ。
魔界送りにされた総軍の天使達の子供である。
彼女等は、一応とばかりに存在する天界の養育施設で、日々教育を受けながら生活している。
配給は勿論7日に一度で、食べ盛りの子供達はひもじい思いをしている様だ。
だが、町の仕事が子供に回って来る事は殆ど無い。
クラウドの採取や各加工等の特別な技術は当然無い。
そんな子供達がやる事と言えば、なるべくじっとしてエネルギー消費を抑えるくらいの物。
……もしくは、見つかるとも限らない野良シュガー、脱法シュガーの捜索である。
齢10歳くらいに見えるこの3人も、御多分に漏れず、どうにかして空きっ腹を満たす為に、シュガー捜索に打って出た様である。
まぁ、当然ながら、大人達も脱法シュガーはやっていて、大体取り尽くされている。
子供が頑張って探しても、1日掛けてやっと一食分見付かるかどうかだ。
概ね労苦に見合わず、無駄骨である為、まさに一か八かの賭けである。
しかし子供達にはどうやら勝算があるらしく、はっきりとした足取りで進んでいた。
天界の町周辺は、意外と起伏が激しい。
これは、ストーンの採掘による影響であり、積み上げられて使われずに放置されたストーンが癒着したりした結果である。
当然乱れた土地はエネルギーの流れも乱れているので、クラウドの発生やストーン化する時間も変わっており、特殊な地形が散見される。
飛べる天使達に迷子は無いが、野良シュガー探しは大変な作業である。
子供達はそんな起伏の激しい道を進み、ちょっとした小山を登った。
先頭の大人しそうな子が、遠くを指差す。
「多分……あっちだった」
粗野っぽい子と髪の長い子がその方向をじっと見つめた。
「んー、本当にたくさん持って来てたのか?」
「すごい遠いのかなぁ」
「……いっぱいだった。場所は分からない」
若干やつれ気味の子供達がしょんもりしているので、僕も見てみる。
……指差した方には、野良シュガーは残り滓くらいしかなさそうである。
一方で、右にかなり逸れた手前側、入り組んだ場所には、そこそこな量発生している様だった。
それこそ、髪の長い子が大事に抱えてるバスケットボール大の袋には入り切らない量だ。
「一応行ってみようよ、ちょっとはあるかもしれないし」
「そうだなー……いっぱいだったなら少しは残ってるかもだし」
「……うん……間違ってたら——」
「——じゃあ僕が先導するね」
そこはかとなく認識を誤認させつつ、3人の前に出て白翼を広げた。
3人は頷くと、同じ様に翼を広げる。
飛ぶ準備が出来たのを確認してから、僕達は小高い山の上から飛び立った。
◇
子供達の若干覚束ない飛行に合わせてゆっくりと進み、都度こっちだよと声を掛けて、野良シュガーの元へ案内する。
程なくして辿り着いたそこは、相当昔に何かしらの建造物を作ろうとして放棄されたと見られる小山だった。
クラウドによって半ば塞がり掛けている、おそらく2階のバルコニーか何かだったと思わしき場所から中に入る。
そこには、歪んだ地面から盛り上がる、複数のシュガーの塊があった。
「お、おおー!」
「すごい! いっぱい!」
「……あった……!」
嬉々として翼をパタパタする天使達は、シュガーに駆け寄るや、そこそこに硬くはあるシュガーをボリンと折り、それなりに重い塊を抱き上げる。
「すごいぞ! 一生分ある!」
「皆お腹いっぱいになるね!」
「……うん……!」
「袋あげるよ」
一人に二袋ずつ渡し、シュガーを回収する。
根こそぎ持っていける様にギリギリまで削り取り、砕いて隙間なく袋詰めした。
「それじゃあ帰ろうか」
「よーし!」
「ちょっと……重いかも」
「……う、ん……」
「飛べそう? 持とうか?」
「……頑張る」
「私も……!」
「そう、じゃあ行こう」
皆のイマジナリーフレンドと化した僕が、翼を羽ばたかせると、子供達もよろよろ付いて来る。
それをちょっと手助けしながら、最初に飛び立った小高い山に戻って来た。
「さて……じゃあ僕は行くね」
「……うん……!」
「ありがとな!」
「袋もありがとね!」
「うん、またね」
暇つぶしが終わる頃、ちょうど良く光羽が現れた。
子供達にまた後でねと微笑み掛け、空へ羽ばたく。
さてさて、子供を無駄に飢えさせる政府の上役達は、どんな性質をしているやら、見せて貰おうじゃないか。
「……あれ? 今誰かいた?」
「……い、た……?」
「え? あれ? ……袋…………聖神、様……?」
違うよ。
子供達が未知と遭遇して困惑しているのを遠目に、僕は再度軍事地区に降り立った。




