第38話 天意軍と英霊軍
第八位階下位
総軍、護信軍を見た所で、次は天意軍。
あの逃げ足天使、シーリン君が所属する軍団だ。
直接戦闘を行う天使の軍勢とあって、単体戦闘力の高い天使達が所属しており、日夜修練に励んでいる。
……と言う事もない。
天意軍に所属するにはそれなりの競争があり、割と戦闘センスが高い、所謂秀才程度以上の者達が集まっている訳だが……天意軍に所属した後はクビが無いので、怠けている者達が多い。
事によっては、格下と決め付けていた総軍に配属された同期と互角か下回る結果になっている者もいる。
そんな中にあって、あの逃げ足天使シーリンは毎日しっかり訓練をしている様だ。その為か自分より弱い連中への当たりは非常に強い。
馴れ合いを好まず、一匹狼として活動する彼女は、単体戦力としては天界では上澄みの方。
本人はチームを組んでいないが、それに憧れて修行を絶やさない天意軍の天使も多少いるくらいの強者である。
そんな天意軍の総合戦力は、12体いるエクスシアを除いたら普通に総軍以下。何なら半分にも届かない。
まぁ、日々生き残る為に修行を欠かさない沢山いる総軍と、修行をサボる少数の天意軍では、然もありなんと言った結果である。
12体いるエクスシアにしても、頂点の第一翼なる者がシーリンでレベル300くらいで止まってる時点でお察し。
元のレベルなんて精々100か良くて150くらいで、加護無しの場合の戦力はやはり総軍の方が大きく上回る。
一般兵達のレベルは、総軍が新兵の30程度からボリュームゾーンがおよそ40〜50程度で、それなりの熟練兵は60程。特に強い者は70〜80にもなる。それより上は殆ど生きてないのでいないが。
天意軍の方は、新兵こそ30程度で総軍と変わりないが、ボリュームゾーンは40程度、後はまばらに高い者がいて、流石の才能か100近い者もいる。だが80以上は両手で数えられる程度しかいないので、総軍の天使達と比べて特別際立っている訳でもない。
件の100近い者と言うのは、シーリンのファンのトップや第二翼なるアルカノと言う大天使の取り巻きのトップである。
どうやらアルカノと言う天使は、天使コレクターの様な特殊な性癖の持ち主で、密かにシーリンを狙っている様だった。
変な奴に粘着されているシーリンも可哀想な奴である。
そして最後に、英霊軍の研究所探索だ。
まぁ、研究所と言うか製造所と言った様子で、地上から送られて来る貴重な金属を用いてゴーレムの生産が行われていた。
製造とは言っても、その工程の殆どは機械化されていた。
パーツの生産、術式の書き込み、聖属性金属、セルカの製造からメッキ化、コアの構築等々。
それを作った技術屋は相当にやるが、ゴーレム生産で英霊軍がやっているのは組み立てくらいの物で、何ならゴーレムの作業させて完全無人化も出来そうであった。
それらゴーレム生産所の奥では、意外にもちゃんとした研究所があり、主に武器と防具と消耗品の研究開発が行われていた。
まぁ、一品物の研究開発は良いのだが、量産すべき対象である兵士達の装備生産は、ゴーレムがほぼオートメーションであったのに対し、職人達が手ずから生産を行なっていた。
消耗品に関してもそうだ。
大量生産の設備こそ整えられているが、その工程は全手動である。
まるで、技術が逸失した様な歪さ。
それが顕著なのが、英霊軍が英霊軍たる所以、英霊の魂のコピー施設。
ドーム状のその施設は、余程大事な様で、施設自体が壁に覆われている上、総軍ではなく英霊軍の兵士部隊とゴーレムが警備しているおり、英霊軍の中でも古株と見られるレベル高めの天使達が彷徨いていた。
施設の壁とそれを覆う壁、その2つを見比べるだけで、多くの事が分かる。
明らかに質が違う。
軍事地区の壁は強力な光や聖属性で補強されており、居住区などの壁や道より強靭だが、この施設の壁はそれと比較にならない程に強固だ。
仮に軍事地区の壁の強度がレベル100程度とすると、この施設の壁の強度はレベル500相当。
これは今の天使達のレベルや技術力では到底作れない代物。
つまり、熾天使が製造に関わっている、と言うか、この施設は熾天使だけで製造されたとかんがえるべきだろう。
それ程の重要施設、如何程の物かと侵入してみれば、そのものズバリ、オーバーテクノロジー。
ドーム状の施設はその壁に至るまで、全てが英霊の大量生産に関わる物であった。
魂の保護とその隷属、肉体の生成、エネルギーの貯蓄、それらを繋げる回路に使われる高位金属。
何から何まで、金属をカンカンしたり布をパタパタ織ったり縫製したりしている天使達では作れない代物だった。
だが、そこは大した問題では無い。
熾天使がやった。そんな事は分かっている。
一番の問題点、英霊のコピーを行う、この施設の中枢部分。
そこには、僕の見知ったモノがあった。
厳重な防壁で守られたその先にあるのは、乳白色の巨大な結晶。
奥など到底見通せぬ、莫大、高質のエネルギー結晶から漏れ出る、その気配。
そして、その中枢で眠る、一人の人間の影。
そう——
「——……シャルロッテじゃん」
——変態である……!
見た所おそらく、一意専心から戻れなくなったシャルロッテが放出する超高濃度な光や聖属性が結晶化した物で、内部に存在する暴走シャルロッテ魂魄の想定レベルは、およそ800程。
正常に稼働しているのはシャルロッテが元来持つ聖宝創造の力で、シャルロッテ自身の意思が無い事から、隣接する者の意思を読み取り、近付けたあらゆる物を無差別に聖別して神器へ変質させる装置になっている。
これに取り込ませない様な距離で不活化状態の英雄達の魂を近付けると、一意専心シャルロッテによって魂魄表層から中層までの詳細サーチだけが行われ、そこに天使が模倣命令を下す事で、聖別された英雄の魂が構築される。
魂の製造には莫大なコストが掛かるのでそうポンポン行えない様だし、そのストックにも魂の入れ物、一意専心シャルロッテ結晶を切り出す必要があり、労力も掛かるし生産数の限界がある。
それで生産した魂を入れる肉体も、シャルロッテ回路を使って製造される様で、それらはボタン一つで簡単に実行可能だ。
簡単じゃないのはコストと魂の入れ物の管理くらいで……以前シーリンがブチギレていた本物ノーレルとレイ君の魂の流出は、多分魂のコピーと肉体の製造が同じラインだったから起きた事故なのだろう。
ボタンが違うだけだから間違え得るが、それを間違えるのは流石にどうかと思う。
それだけ、ここを管理している英霊軍とその将級天使、デュナメイシス達が愚かだったのである。
……まぁ、そもそもの英霊達の製造を急いだ理由が、負の化身の襲撃である黒の災禍なので、多少は仕方ない面もあるが。
天使達の失敗はともかく、明確な伏兵、レベル800クラスの怪物、一意専心シャルロッテ結晶を戦闘開始前に発見できたのは幸いであった。
これを即座に武器に転用出来るかと言う中々難しいだろうが、爆弾にする事は案外難しくないので、義憤に駆られた熾天使がシャルロッテ結晶を抱えて自爆を仕掛けて来るリスクを事前に排除できたのは大きい。
唯一の懸念点は、これでシャルロッテのレベルが850くらいまで上がってしまう可能性がある事……その内僕の両足を持って顔に擦り付けたりし始めるかもしれないので、戦々恐々である。
やる分には別に構わないが、せめて子供の前では自重して欲しいところである。
そんな所で、天界四軍の調査は終わり。
次は、調査の中で判明した、天界の空白地帯。
選ばれた者しか入る事が許されない、天使達の聖域。
の、前に少し細かい所を見て行こうか。
新年、あけましておめでとうございます。
昨年は大きな出来事がございましたが、今年も変わらずユキの紡ぐ物語をゆっくりご覧頂ければ幸いです。
皆様も良い一年になりますように。




