第37話 総軍と護信軍
第八位階下位
一般天使達の色褪せた無味な微生物的日常を見た所で、次は天使総軍の様子。
天界においては、天使総軍の役割は憲兵の様である。
軍内部からは一天使とすら見られていない様な立場であるが、一般天使からしてみればエリートであり、相応に敬われている。
仕事内容は、資材管理、巡回。
シュガーの採取の監視や、ストーン運搬、切り出し時の事故防止、稀に起こるもめごとの仲裁。
街中では至って普通の兵士の扱いだが……——
◇
再度壁を超え、軍事地区に入った。
軍事地区は、天界四軍が詰める4ヶ所のエリアに分かれている。
程なくして、軍事地区の情報収集を行なっていた僕因子を回収し、十分な情報を得た。
「ふむ……」
巡回する天使総軍の兵士を見つつ、僕は一つ、頷いた。
壁を隔てた先での天使総軍の扱いは、想定の範囲内を出ない程度のまぁまぁ酷い物であった。
基本的には雑用だ。
あちこちの瑣末な雑用を行なっている。
それ以外だと、傷付いた天使を癒す為の心癒槽もといお風呂に常に癒属性や光、聖属性を満たしておかないとならない。
天意軍の使用するゴーレムのコアを生産する為の純度が高い光属性や聖属性を生成しなければならない。
英霊軍の模倣英霊を生産する重要施設に純度の高い光属性や聖属性を捧げなければならない。
護信軍の結界生成装置の魔力補給も総軍の仕事だ。
まぁ、ここら辺はそう大した労働ではない。雑用もなんだかんだそう辛い物でもない。
重要なのはここからで、先ず、逃げ足天使シーリンの様に上手く成果を上げられない上位天使の憂さ晴らしに使われたりする。
人によっては暇つぶしに使われたりする。
容姿によっては夜の相手に使われたりする。
気に入った順従な者を囲って昇格させ、取り巻きに使っている上位天使もいるし、そう言う点では昇格のチャンスかもしれないが、能力の低い天使が上に来る為組織力は低下する。
そんな邪智暴虐がまだ良い方。
天使総軍の半分は、魔界に送られて死ぬまで戦わされるのである。
悲しきかな、こうしてる今も、天使達は魔界で亡骸を積み上げている。
発生する高純度シュガーや打ち捨てられた光輪は魔界を少しずつ聖別して行くのかもしれないが、崩れ落ちた心の受け皿である魔界は浄化よりも汚染の方が何十倍も早い。
天使達の骸の塔は、何も成せず塵となって地に沈むのだ。
実に哀れな話なので、なるべく早く引き上げさせたいが、そんな天使達より僕の配下の方が大事なので、調査は入念に行なう。
天使総軍が電池か絆創膏くらいのほぼ使い捨ての様な扱いを受けているのを確認した所で、次は護信軍の確認だ。
護信軍は、その殆どが食欲を満たす為に地上にいる。
天界にいるのは、護信軍の下っ端くらいの物で、その役割は主に3つ。
結界装置のバッテリー生産と、地上組から送られて来る書類や食料の確認、そして他の天使達の教育だ。
それぞれ見て行く。
先ず結界装置だが、それ自体は英霊軍を名乗る研究者達が制作した物だ。
護信軍の主な仕事は、総軍の天使にバッテリー管理をさせたり、それの充電をさせたり、地上に運ぶ為の準備をさせたり、地上から持って来られた使用済みバッテリーを保管させたりする役割だ。
指示をすると言うか、過去に指示された物を確認するだけの仕事である。
次に食料等の確認。
書類に関しては9割型食料の生産状況についてであり、残りが労働者もとい人間について。
必要とあれば欲しい食品の生産量を上げる様に指示を出す事も可能で、それらを噛み砕いて報告するのは総軍の兵士の役割である。
また、地上の食料管理をしているからか、天界で取れるシュガーの管理も行われている様だ。
書類によると、本来人間よりは数が少ない天使達を食べさせて行くのに十分な量のシュガーが生産されているが、その幾らかを貯蓄に、大半を地上の食材の交換に利用している様だった。
人を飢えさせてやる事が自分達の食欲を満たす事……まぁ、配給だけで生きていけるなら何もしない穀潰しの巣窟になるので、差配としては別に悪くないが、飢える程の配分はやり過ぎだ。
件の食料の方の管理は、その聖別と言う名の洗浄や運搬、受け取った目録の確認等を総軍が行ない、分配に関しては護信軍が行なっている。
まぁ、やる事と言えば、目録を確認して程よく間違っている部分を直す……もといつまみ食いした食料を誤魔化す為に目録を改竄する様に総軍に指示を出したり、回収した食料を他の軍に流して便宜を図ってもらったりだ。
何なら今ちょうど闇取引が行われているので、それをチラッと見ておく。
護信軍の天使が、天界産の真っ白な袋に果物と干し肉を詰め込み、ワインを3個程確保、それらの数を一応とばかりに数えた後、書類を準備しながら見ていた総軍の兵士に歩み寄る。
「……果実類と肉、飲料の数が合っていませんよ」
いけしゃあしゃあと微笑みながら数を伝える護信軍の天使。
対する総軍の天使は、同じ様に微笑みながら頷いた。
「承知しました、直ちに修正いたします」
「ふふ♪」
護信軍の天使はご機嫌に微笑むと、総軍の天使の耳元に口を寄せた。
ヒソヒソと何やら囁く声を聞く。
「……それと、追加で肉が1つと飲料1つ……修正しても良いですよ?」
「っ……承知しました、直ぐに修正しますね♪」
うーん、汚職。
上も下も腐敗している。
護信軍の天使が善意で分けてあげてる、良い事した! って顔なのが一番問題だろう。
そう言う辺り、天使達は悪い意味で純粋だ。
そして教育の方はと言うと、これもまた結界装置の管理と同様に天使総軍に丸投げである。
護信軍は確認しかしておらず、天界各地の学校では総軍の天使達が説法を行なっている。
時折気が向いたら護信軍の天使がやって来て、あれこれ無茶を言って去って行くのだ。
まぁ、護信軍なんて大した事をやっていないので、見る所も大して無い。
彼女等は穀物に群がる鼠を狩る、ただの猫でしか無いのだ。
今年最後の投稿です。
今年は大きな出来事がありましたが、それも読んでくださる皆様のおかげです。
来年も大きな事がございますが、よしなにして頂ければ幸いです。
皆様も良いお年をお迎えください。




