第24話 純白の日
第八位階下位
会場に入るや、天に浮かんだ氷の魔城。
そこへ飛来する幾つかの影と魔法。
招かれた玉座に腰掛け、白雪と並んで地上を見下ろす。
動いたのは、氷白。
飛来する爆炎の魔法とリターニァへ、放たれたのは巨大な氷結の光線。
極太な氷結ビームは爆炎を打ち払い、島を縦断した。
爆炎は最初から無かったかの様に消失し、巻き込まれた雑兵は魂まで凍りついて死滅、雑兵の中でも上位の者は辛うじて生きているが、時間の問題だろう。
攻撃を受けた英雄達は3割程度の消耗に留まり、一方爆炎を放ったギランは敢えなく退場。至近で直撃を受けたリターニァは金光を纏い、半分程度の消耗で氷の城の壁に飛び付く。
刹那、リターニァは金光を解き放ち、着地と同時に城壁を破壊、内部へ侵入した。
迎え打つのはレアシエスことレアス君。
籠の中に自ら飛び込んだ鳥は、一段格上であるレアス君が上手い事捌いてくれるだろう。
城内で戦闘が始まったその頃、城自体も行動を開始した。
初動、氷白による防御的氷結光線に続けて、形成されたのは巨大な青白い魔法陣。
4つの塔を起点に描かれた巨大な魔法陣は、僅か数秒を掛けて術を展開、発動させた。
現れたるは氷結光線。
氷白が使ったそれと同程度の威力のそれは、島を横断した。
当然巻き込まれた雑兵は死に絶え、ちょっと強い奴は虫の息、英雄級達は3割程度の消耗。
島が十字に凍る頃、レアス君が難なくリターニァを撃破、満を持して白雪が動き出した。
城がゆっくりと、十字の中心、人形の城の真上へ降下する。
本来ならば餌を前にした獣の様に殺到する筈の英雄達が、各所の砦の影へ駆ける。
これは、単純な防御行動。
戦いの最中、剣や鎧で攻撃を防ぐのと同じく、次の攻撃を防ぐ為、砦の影へと移動した。
ただ、それだけ——
——光が放たれる。
青白い閃光。
城を中心に波紋となって広がるそれは、世界を白く染め上げた。
「純白の日……ふぅ、こんな物ね」
強がって微笑みつつ振り返り、ふらりと倒れそうになった白雪を支える。
これが、白雪の描いた神話。
生じたのは、白に染まった世界。
氷で閉ざされた島を、しんしんと降る雪が覆って行く。
後にはきっと、何も残らないだろう。
木々も、砦も、城さえも、雪に埋もれて白に消える。
これはそんな神話だ。
莫大なエネルギーを高質な氷属性に練成し、神話を詠って神気を宿したその波動。
回避不能な全体攻撃は、氷や寒さに耐性の無い全てを凍てつかせ、一息に絶命させた。
英雄の中で生きているのは、既に死しているが為に不死者の呪怨のタリジャ、魍魎のゼン、悪魔であるナハトロン、影の王タンブラ、それからアルベルトとナーヤ、タダト君が守った事で生き延びたエミリー、なんでか生きてるアガーラの6名。
後は直上故に生かされたボスくらいか。
その内、タリジャ、ゼン、タンブラが死に掛け、ナハトロンは槍待機していた物を流用して防御した為7割消耗に留まり、エミリーは守られた上で3割消耗、アガーラは5割。
やはりと言うか、強靭に練られ、丹念に打たれ、鋭く磨き上げられたアガーラと言う刃は、他の英雄達とは一段格が違うと言う事だ。
それに追い縋れるナハトロンも大概だし、飛び掛かって来なければリターニァも生き延びただろうが。
ともあれ、純白の審判を逃れた英雄達も大概虫の息。
そこへ飛び出したのが、純白の使徒達。
氷装・スカジとシアチに、レアス君、モフ神ことスノーフェンリル。
複数の氷の板は瞬く間にタリジャとタンブラを氷像へ変え、片翼のゼンへ襲い掛かる。
レアス君は急速接近するアガーラの対処に向かい、モフ神はナハトロンへ喰らい付く。
唯一フリーのエミリーは、ここぞとばかりに死者を踏み越え、竜気を噴き上げ竜化しながら接近する。
そこへ立ち塞がるは無数の氷像。
ハバチュリオン達により生成された、少し強めの兵士達。
少し強めなだけあり、足を引っ張る程度の事は出来る氷の獣達は、草を刈る様に薙ぎ払われながらも、エミリーの侵攻を妨げ、そしてそれは現れた。
——巨大雪だるま。
氷白搭載型で骨に氷が使われている危険な雪だるまだ。
果たして——見上げたエミリーは、せめて一太刀と言わんばかりに、群がる雑魚を薙ぎ払いながら口腔に魔力を練り上げる。
放たれたのは、炎のブレス。
噴き上がるそれへ、雪だるまは拳を振り下ろし——
パンッと氷の魔力が弾けてエミリーは氷に呑み込まれた。
そうこうやってる内にゼンも氷像に変わり、残すはナハトロンとアガーラの二強。
モフ神に必死に抵抗するナハトロンへスカジが迫り、極限環境下であってもレアス君と互角に渡り合うアガーラにシアチが迫る。
斯くして、人形の島は純白に消えた。
2025/10/01_1:11追記
この度、第13回ネット小説大賞にて、小説部門に入賞いたしました。
ここに、ここまでとても長くお付き合いいただいた読者の皆様に感謝を。
本当にありがとうございました。
これからも永く続くユキの冒険を、よしなにお願いいたします。
慌てて書いて書き忘れたので次の話にも追記します。




