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第6話 神殿

第八位階中位

 



 偉大なる主はゆっくりと瞼を閉じ、小さな寝息を立て始めた。

 寝網に揺られる御身を暫し見下ろし、振り返る。


 立ち並ぶは、来たる明朝、偉大なる主に仇なす神敵を誅すべく、主により選ばれし神兵達の姿。


 各々自由な場所からお休みになられた主を見守っていたが、私に合わせて成すべき事の為に動き始めた。


 偉大なる主の御側から離れる事は苦痛すら伴いますが、私も成すべき事を成しましょう。



「リブラリア」

「委細把握しています」



 提示された情報に、私は微笑んだ。


 英雄級個体が追加で12体。加えてその想定戦力が倍程度に増大している。


 これが偉大なる主、我等が神、ユキ様の大いなる愛。



「偉大なる主が我々の為に与えたもうた試練。喜びを持って享受しましょう」



 微笑む私と同じ様に、その多くが笑みを浮かべた。

 一部顔を引き攣らせている彼女等に足りないのは、偉大なる主への信心ただ一つ。



 ですが何も憂う必要はありません。


 偉大なる主の光輝は遍く全てを照らし、その愛は果てなき永劫となって降り注ぎ続ける。


 彼女等も直に気付くでしょう。



 我等が神が如何に偉大であるかを。





 英雄と呼ばれる者達。



 今や歴史となった何処とも知れぬ過去、時に名を残し、または名も無く散った英霊達。


 その誰もが力を、何より強き意志を持って我々の前に立ち塞がっている。



 その力量足るや、誰を取ってもレベルにして700を越えている。

 一部に至っては800近い英傑の数々。


 その総数は、36体。


 対して此方の駒は、英雄3体分程のアルメリア、クラウリア、ローネリア。英雄2体分程の三聖像、ハーチェス、レオニール、ベイラーダ。そして英雄1体程度のクルーエル、スパニエル、シークエル、熾天竜。合計英雄19体分。


 即ち、残り17体分を埋め合わせる必要があると言う事。



 単なる頭数やエネルギー総量で見れば大した話では無いが、技量を考慮すると状況が極めて困難である事が分かる。


 レベル800にも迫る取り分け強力な英雄は、観測されている中で6体。



 野の武人でありながら我等に匹敵する程の技の冴えを持つアガーラ。


 強固に練り上げられた金の因子を保有する騎士リターニァ。


 同胞程では無いにしてもその分の練磨記憶を植え付けられた悪魔ナハトロン。


 神を僭称する愚者を身に宿したタリジャ。


 魂を喰らいその力を己が物とする大怨霊ゼンゼム。


 セフィロタスなる異界の巨木に成長するエラン。



 未だ成長していないゼンゼムとエランを真っ先に討つのが定石、ですがそれでは主の愛に背く事になるでしょう。討つべきはそれ以外の4体。


 これに加え、レベル750相当の英雄、ナハトロン同様に記憶を与えられたセロ、ナーヤ、大罪の手ほどきを受けたノーデンスの3体。



 アルメリア、クラウリア、ローネリア、三天使を前者4体に当てがい、三聖像を後者3体に当てる。

 残りの熾天竜と天命獣は程良い相手に振り分ければ良いでしょう。



「始めましょう」



 そう皆に声を掛け、私は一歩結界の外へ踏み出した。



「パンテオンを此処に——」



◇◆◇



 最終日に丸一日分の回復期間が当てられている為、今必要なのは短いスパンの休憩による連続的な敵と味方のアップデートである。


 そんな計画の下、全快には程遠い状態でゆっくりと目を覚ます。



「ぅ……んん……」



 ハンモックに揺られながら、ぐっと伸びをした。


 取り急ぎ行うのは、状況の把握だ。



 起き上がり、空を見上げると、夜空に光り輝く神殿が3つ浮いていた。



「……」



 取り敢えず桃を取り出して齧る。



「もぐもぐ……ふむぁ……」



 瑞々しい宝石の様な果実から広がる甘みと爽やかな風味。実に美味である。



「んんー」



 ぐっと再度伸びをして、寝転がる。



「——神域だな、あれ」



 随分な代物を作った物である。


 少々手間なので、システム頼りの鑑定でパッと情報を引き出す。



光輝の神殿(パンテオン) 品質S レア度8 耐久力S

備考:光輝の神に捧げられし神殿。


聖浄の神殿(パンテオン) 品質S レア度8 耐久力S

備考:聖浄の神に捧げられし神殿。


叡智の神殿(パンテオン) 品質S レア度8 耐久力S

備考:叡智の神に捧げられし神殿。



 うむ。まごう事なき神器級の代物。


 僕は作った覚えが無いので、作ったのはシャルロッテか黒霧辺りだろう。


 空に浮く神殿の形状をしたそれは、材質的には石と魔力結晶と金属だ。

 言い換えると、神気を受け止められる程に練磨された石と真気級の魔力結晶を混合した石材に、神霊金属のシャスティアやセルケディア、そして知の神霊金属ソニスが使われた神殿である。



 神殿と言う建造物であるが故に信仰を受け取りやすく、器が大きい故に信仰を受け止めやすく、密閉出来るので神気を保持しやすい。

 大型であるが故にコストは掛かっているが、大型化しているが故に術式の負荷は少なく、剣や槍みたいな小型の神器と比較して製造の難度は低め。


 莫大なコストに目を瞑れば見事な作品である。



 そんな神殿(パンテオン)の機能は、神気を誘導操作する事による、擬似神域の形成。


 光、聖、知の神域はそれにまつわるモノを強化するが、今着目すべき点はそこでは無く、神気による鉄壁のバリアである。


 まぁ、如何に神気と言えども、それによる完璧な結界の構築には至っていない為、真気でもこじ開ける事自体は可能だろうが、流石にコスパが悪過ぎる。

 おまけに地上をシャルロッテやアウラ、リブラリア、ルクス君が監視し、その他の連中を徹底的に妨害している為、誰も神殿(パンテオン)に手が出せていない。



 では、そんな神器3つが展開されたフィールドの現状を整理しよう。


 アガーラ、ナハトロン、リターニァ、タリジャ、セロ、ナーヤ、ノーデンスと言う名だたるメンツと僕が作った熾天使級ドール1体が既に敗れており、今はアルベルト、ヴィオレッタ、アンドレア、エミリー、タダト君もといヴァーミュラー、シスカ、タンブラ、エブライジュ、ギランの9体と熾天使級ドール3体が光輝の神殿(パンテオン)にぶち込まれている。


 そこにはシスターアルメリアとクラウリアとローネリアに三巨像さんと三天使がおり、三天使以外は程良い戦闘を、三天使は死線を繰り広げていた。


 一方聖浄の神殿(パンテオン)には、1体の熾天使級ドールと1万体のドールがぶち込まれ、熾天竜や天命獣と激戦を繰り広げていた。


 他方、叡智の神殿(パンテオン)には、残りの熾天使級ドール7体が閉じ込められており、結界と鎖によって封印されていた。


 地上に残っているのは、元エランのセフィロタスとゲッシュだったモノ5体に、大災霊ゼンゼム、あと大量のドール達。



 少々やりすぎ感が否めないが、皆の消耗度的に今日は此処までだろう。


 僕は桃をもう一つ取り出し、もぐもぐしつつ皆の戦闘データを観測する事とした。



 

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永遠未完『魔物解説』……ネタバレ含む。

よろしければ『黒き金糸雀は空を仰ぐ』此方も如何?
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