掌話 燦然と戦果 十二
第四位階中位
特段強敵の襲撃も無く、待つ事暫く。
レギメンのHPバーが減ったり増えたり一撃で消し飛んだりする様子や、モンスターカードの状態を見たりしていると、カイト達が帰って来た。
「おかー」
「おつかれサマー!」
HPバー的に全く問題無いのは分かっていたので、程々に迎える。
カイトも兄貴もヒラヒラと手を振って、前線に復帰した。
もう間も無く洞窟に着くし、最後の大詰めと行こうか。
◇
そこそこにバシバシ雑魚を屠り、洞窟前に到達した。
取り急ぎモンスター達に防衛を任せ、少しの話し合いをする。
口火を切るのは兄貴。
「これ自体が罠の可能性も考えて、外に残る班と侵攻する班の二手に別れた方が良いかな」
「となると、内部は狭いだろうから、取り敢えず入るのは少数精鋭がいいかね?」
カイトを見ながら言うと、カイトは無言で頷いた。
カイトと兄貴の視線がお嬢に向き、注目が集まった所で、渋々お嬢が口を開く。
「……今までキングらしき個体とは遭遇しなかった。潜伏している可能性もあるけど、この先にキング数体とエンペラーがいるんだと思う」
お嬢の言葉をカイトが引き継ぐ。
「っう訳で、万一外に潜伏している可能性も考慮して、入るのは少数精鋭。5人か6人が望ましい。俺、アニキ、アイゼン、それから、サヨナキの大根!」
「あ、はーい」
前に出たのは我等が大根。
白い体に青い線のカッコよさ! 伸びる葉っぱも瑞々しく、正に見事な比類なき大根!
良いチョイスにうんうん頷いていると、カイトはスピリトーゾに視線を向けた。
「それからスピリトーゾの白ドール!」
「よーし、頑張って来るんだぞ」
「最後にぱんきち!」
「ぱんきちー! ガンバッテネッ!」
こうして、選抜されたガチの少数精鋭で、洞窟へ潜る。
◇
ぱんきち、大根、白ドール、おまけに俺達の申し訳程度のMPと召喚可能時間回復を済まし、洞窟内へ侵攻する。
入った洞窟内は、幸いな事に薄暗い程度で、ある程度の見通しがあった。
迷宮みたいに完璧に整備された感じは無く、足元がでこぼこしていたり、物陰の闇が濃い。
隠れた分かれ道があったら見逃しかねない環境だ。
通路内はそれなりの広さがある為、2人くらいなら並んで武器を振り回しても問題なさそうだった。
そんな環境を、ぱんきちを先頭に進む事暫く、ふいにぱんきちが立ち止まり、首を前に振った。
「敵か」
「わふ」
カイトが振り返り、男3人で頷き合う。
さぁ、いよいよガチる時間だぜ……!
少し進むと、それは見えて来た。
通路よりは少しだけ灯りの強い空間。
——敵の待ち受ける大広間。
立ち並ぶ複数の影。
内3体が、おそらくキング。
大盾に鎧を着込んだ大ネズミが前に立ち、弓と杖を持った2体が後ろに控えている。
まぁ、大体3体くらいだろうなと思っていた。
その周りには、上位雑魚ネズミと思わしき大きさながらも武装が他よりしっかりしている雑兵が20程。
全てが前衛装備で、半分が重歩兵、もう半分が槍を持った軽戦士だ。
「ジェネラル候補って訳ね」
こりゃ多分レベルも高いぞ。
3人+3体でやれるか? そんな怯む気を叱咤して、前に出る。
ある程度予測していたパターンの範疇を出ない陣営だ。
俺と大根とぱんきちで先制! カイトと兄貴と白ドールで雑魚殲滅!
「じゃあ手筈通り……一番槍、アイゼンバーン! 行くぜぇ!」
棍棒だけどなぁっ!
「デモンズブースト!」
大根とぱんきちがオーラを纏って左右に別れたのを見てから、俺もアーツを発動する。
矢や魔法が、嘘みたいにボコボコ洞窟の壁を破壊するのを尻目に、俺は真っ直ぐ突っ込んだ。
正直言って冷や汗もんだが、最低限図体のデカい大盾持ちで射線を切って駆け抜けた。
「バーンブレイク!」
盾を構えたそいつに、正面から棍棒を振り下ろす。
専用アーツにより生じた炎が吹き荒び、大盾持ちを吹き飛ばした。
だが、流石はキングと言った所で、地面をゴリゴリ削りながら数メートル下がるに留まった。
「まだまだぁッ!」
そこへ追撃、一息に飛び掛かり、棍棒を振り上げる。
「バーンブレイク!」
——衝撃。
今度は地面へ叩き付ける様な攻撃。
威力を殺す事が出来ない筈のそれは、目論見通り、大ネズミを叩き潰した。
腕と足に高負荷が掛かったか、キングともあろう者が大盾を取り落とし、地面に膝を付く。
そこへ更に追撃。
「バーンブレイク!!」
MP的にコレが最後の一撃!
気合いと共に振るった一撃は、兜で覆われたキングの頭部へ直撃し——
《レベルが上がりました》
「しゃっおらっ!」
ガッツポーズを決めた所で、直ぐに他のキングへ視線を向ける。
方や弓のキングは、視界の端でも映っていたが、大根の派手に青く光るジャスティスキックで壁際まで吹っ飛んで武器を取り落とし、今は大根の間髪入れない連続攻撃に拳で対抗しようとしている。
此方は暫く放って置いても良いだろう。
一方杖のキングは、ぱんきちの噛みつきを腕に受け、地面に引き倒されていた。
腕を噛みちぎらんと暴れるぱんきちに対し、杖で殴り付けて対抗している。
救援に行くなら状態的にも距離的にもこっちだ。
ついでにざっと周りを見ると、左側は兄貴と白ドールが、右側はカイトが、上位雑魚ネズミの群れをゴリゴリ叩き潰していた。
MPは使っていない筈だが、既に3体ずつ、計6体が地に沈んでおり、残り14体もあっちに行くかこっちに行くかバラバラに行動している。
こっちに向かっているのは何体かいるが、今は最悪兄貴とカイトが生きていれば問題無いので、俺は被弾覚悟でキングを討つ!
決めるや即座に駆け出し、ぱんきちに加勢する。
既にMPは無し。デモンズブーストは切れているが、相手は後衛タイプだからなんとかなるだろ!
気負い無く棍棒を振り上げ、その肩口に叩き込む。
悲鳴を上げて倒れ込んだキングを踏み付け、その顔面に棍棒を振り下ろした。
一撃、二撃、三撃。
流石にキングと言うだけあって、デモンズブーストもアーツも無しの棍棒では即死とは行かない。
ネズミは杖から手を離し、俺の足を掴んで来る。その鋭い爪が喰いこむも、構わず棍棒を振り下ろした。
少しして、ついに抵抗が無くなる。
倒したかどうかは分からんが、流石に行動不能だろう。
直ぐに周りを見ると、ぱんきちが此方へ来ていた雑魚と戦っているのが目に入る。
そのおかげでキングに集中出来た様だ。
件の雑魚達も、今の攻防の内に更に6体が地を舐め、残りは8体。
状況把握を終え、最後のキングの元へ走り出した。
やや遠い位置にいるキングは、相変わらず大根の素早い連撃を前に防戦一方の様相だ。
「大根! 行くぞ!」
声を掛け、跳ねる。
勢いそのまま、大根と同じ様に飛び蹴り。
大根がサッと横にスライドし、元弓持ちキングへ直撃。
着地と共に、俺は棍棒を振りかぶった。




