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【書籍化】錬金術師ユキの攻略 〜最強を自負する美少女(?)が、本当に最強になって異世界を支配する!〜  作者: 白兎 龍
第一章 Another World Online 第十六節 エルダ帝国の攻略

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第32話 魂の器に

第六位階中位

 



 そんな馬鹿な、ありえない。


 ルテールの里が、賢者様がやられた……? これも奴等がやったのか? ……いや、仄かに残る竜の残滓から、何等かの竜の襲撃を受けたのだろう。


 賢者様は、ルテールの民は何処へ行った? 乾いた血の跡こそあちこちにあるが、死体は無い、骨も無い。


 逃げおおせたのだろうか? きっとそうだ。賢者様がそう簡単にやられるとは思えない。


 これだけの襲撃だ、きっと賢者様達は、私達を巻き込まない様に、東へ向かったのだろう。

 それに、遥か東には街の賢者様と言う方がいる。そこへ応援を要請しに行ったのかもしれない。



 ……いや、今はそんな事、関係無いか。



 私達だけでは勝てない敵が私達に迫り、それに勝てる賢者様は此処にはいない。


 それが今ここにある全てだった。



 どうする?


 幸いだ。考える時間だけはある。



『東進よ!』



 民の、兵の困惑を、嘆きを振り切り、進軍させる。


 退路は無い。


 迷い、立ち止まれば、その分だけ命を縮める。



 ——迷ってでも進め……!



 距離は? 正確には分からないが、幼い頃、人間の街の近くにあるローシェの里に行った事がある。

 あの時は追われていないが、森の合間で休みつつ、10日か9日は掛かったか……このままだとその半分、5日程度は掛かるだろう。


 そして……民も兵も、3日と持たない。


 物資は無い。捨てた。


 その選択が間違いだったとは思わない。物資を捨てなければ、その代わりに民を見捨てる事になっていただろう。


 故に、持って3日。


 その間に、奴等にとっての好機は、必ず訪れるだろう。


 それが明後日か、明日か、それとも今かは、最早分からない。



 だが……可能性の話だ。


 残る食料を子供達に与え、3日の行軍を耐え忍び、私達と兵が、古老が打って出て、死んででも半日時間を稼げば。そして、子供達をバラバラに逃せば……誰か1人でも助かるかもしれない。



 或いは、今、打って出るべきなのだろうか?


 奴が弱っている可能性に賭け、乾坤一擲仕掛ければ、皆が生き残る事は出来るのでは?


 ……賭けに出るにはあまりにも根拠が足りない。



 持ち得る手札に……広がる盤上に……勝ちの目が、無い。



 東へ進み、無意味に等しい距離を稼ぎつつ、幾つもの手を考えては否定する。

 今ある物では何も成せない。それでも何か出来ないかと考えては、心は千々に乱れ行く。


 現実逃避にも等しいそれは片隅に、何か、何か状況を打開出来る物は無いかと、里の跡地を知覚して——それ・・に気付いた。


 それ・・もまた、此方に気付いていた。



 聖大樹の生えていた場所。


 そこに空いた穴から、何か、大きな気配が這い出して来る。



 ——風が吹いた。



 命溢れる、森の風が。


 声が広く、伝播する。



『汝等ルテールの隣人、プラリネとドラジェの妖精達よ』



 幾多もの声が重なって聞こえる。


 慈愛に満ちたその声等は、まるで合唱の様に響く。



『疾く、東へ駆けよ。我等が神は、東に御座す』



 里の中心、聖大樹があったその場から、夜闇を切り裂く光が広がっていく。


 膨れ上がる、魔力の、生命の光だ。



『我は名も無き、伝令役』



 大きな光の玉から次々と、エルフの形をした光が分たれ、私達の横を駆け抜けて行く。



『迷える同胞を導く、神命を果たす者也り』



 数百の光の兵が抜け、後に残った巨大な光が、大きな人型を形成する。


 その中心には、白い、大きな鎧がいた。



 神が何を指すかは分からない。だが、それ・・は私達を知っていて、私達を助けようとしてくれている。


 その声には、確かな信念を感じた。


 故にこそ、私も声に心を乗せて——



『武運を!』

『生き延びよ!』



 ——僅かな言葉を交わした。



 駆け抜ける間に、多くを考える。


 このまま反転攻勢すれば? 否、彼の者の魔力量はオーブ程では無い。

 例え私達が加わっても、全滅は避けられない。


 彼の者を置いて行って良いのか? 待ち受ける運命は、死のみ。

 見殺しにするのと、何が違う。


 彼の者は、信念を持って我等を守り、決死と知って挑もうとしている。

 だが、それはあちらの事情。


 同胞を、我等を守ろうとしてくれた人を、ただただ見殺しにして……私は、明日も私でいられるの?


 ——迷いは一瞬だった。


 即座に振り返り、刹那——誰かに抱き締められる。



「ぐ、グオード!?」

「恨め!」



 私を抑えるグオード。見上げたその顔は悲壮な覚悟に満ちていた。



「俺を恨め……!」



 心臓が、ギュッと痛んだ。


 弟分にそんな顔をさせてしまった事。そんな言葉を使わせてしまった事。そんな覚悟をさせてしまった事。



 あぁ、どちらを選んでも、私はどちらかに誠実で無い。


 自らの弱さに、嘆かずにはいられない。



 遠ざかる光の巨人。


 エルフの形をした戦士達は弓を構え、次々と光の矢を放つ。

 敵の小集団はたちまちに殲滅され、光の戦士達は次の標的へ向かう。


 彼等はきっと、敵の本隊にも怯まず戦い、邪神の眷属にさえ平然と挑むだろう。

 例え、免れ得ぬ死へ突き進んでいるのだとしても、揺るぎない、神命と言う名の信念があるから。



 私はどうだろうか……? 信念と呼ぶべきかすらも不確かな意志を曲げられ、私は、グオードを恨むだろうか……? ……きっと、そうはならない。


 弟分の優しさを、恨む気持ちなど欠片も無い。


 背負う嘆きの幾らかが、弟分の優しさに変わった。それだけの事だ。



「……強くなろう」

「……あぁ」



 生き延びよう。


 こんな思いは、二度とごめんだ。



 

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永遠未完『魔物解説』……ネタバレ含む。

よろしければ『黒き金糸雀は空を仰ぐ』此方も如何?
― 新着の感想 ―
[一言] 案内役のゴーレムに演出付けすぎじゃなーい?
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