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【書籍化】錬金術師ユキの攻略 〜最強を自負する美少女(?)が、本当に最強になって異世界を支配する!〜  作者: 白兎 龍
第一章 Another World Online 第十六節 エルダ帝国の攻略

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第28話 束の間

第四位階中位

 



 プラリネの戦士の護衛で賢者の結界を抜け、里へ入った。


 里の入り口、森と里との境目で、がくりと膝を付きそのまま地面に倒れ込む。



「はぁ……はぁ……」



 次々と襲い掛かって来る敵を前に、休憩する隙なんて無かった。


 ようやく、一息付ける。


 周りを見ると、ドラジェの皆も同じ様に座り込み、息を整えていた。



 此処は安全だ。


 そう思えばこそ、グオード様とドーラ様、戦士の皆が心配になる。


 今私に出来るのは、休み、直ぐに戦える様にする事。それから——



 高く登る太陽へ祈る。



「どうか……グオード様とドーラ様に、良き陽の導きをお与えください……!」





 怪我人の治療に飛び回るプラリネの皆さんを見ながら、診療所で治療を受けた。


 じくりと疼く肩を撫でる。


 これは傷が残るねーと、軽い感じで言った薬師様の言葉に、元一王族として思う所はあったけど、それを振り切る様に肩を握った。


 私はドラジェの戦士だから、この傷は、皆を守った誇りの証。

 ……それと同時に、未熟の証。


 恥と捉えるべきなのか、誇りと捉えるべきなのか、未だ戦士として未熟な私には分からない。


 プラリネの秘薬、水薬の蒼蜜と塗布薬の蒼粉で急速に癒えて行く傷を、私はただ、受け入れる様に抱きしめる。



「ユーシア」

「っ」



 その声に、はっと顔を上げる。


 見上げた先にいたのは、ドーラ様とグオード様。


 人間用の大きなベットから降り、お二人の手を握る。



「よくぞ御無事で……!」

「貴方こそ、ユーシア」

「良く皆を守ってくれた」



 小さな手で、力強く握り返してくれた2人に、私も答える様に、力強く笑い。



「当然です、私も……ドラジェの戦士ですから……!」



 次の瞬間、視界が真っ暗になった。



「ユーシア!」

「ど、ドーラ様ッ?」

「っとと」



 血の匂いに混じる花の様な甘い香りから、ドーラ様が顔に飛び付いて来たのだと分かった。

 ドーラ様に支えられていたグオード様がよろめくのを手で感じつつ、どうしたら良いやら慌てる。



「帰る場所を失い、迷い子の様に日々を生きる貴女を、どれ程こうしたかった事か……!」

「ドーラ様……」

「グオードから話があったのですね!」

「はい!」

「私達の養子になると!」

「はい?」

「え?」



 グオード様を見下ろすと、グオード様はパッと視線を逸らした。



「……いや、性急かと思ってだな、先ずは部族の戦士とし——」

「——5年も掛けて性急な物ですか」

「……はい」



 そのままくるりとドーラ様は振り返り、微笑んだ。



「……私達の養子になるとグオードから話があったのですね!」

「……は、はい!」



 えも言われぬ何かを感じ、私は直ぐに頷いた。


 コンコンッと音が響き、入り口へ振り向くと、そこにいたのはファニエ様。

 軽く壁を叩き、呆れた様に、肩を竦めている。



「……一家団欒中に悪いけど、例の話、しましょうか」

「……あぁ、直ぐにでも」

「……急ぎですからね」



 仄かな温もりが離れるのに少し寂しさを感じるのは、私が弱いからなのだろう。





「もう一体、もしくは複数いる、ね……確かなの?」

「あぁ、間違いない。少なくとも一体は確実に隠れているだろう」



 一通りの経緯を説明し、最後にグオード様は信じられない様な事を言った。


 あの化け物が……複数いる……。


 あり得ない話では無かった。


 災厄の日、黒い魔物は津波の様に押し寄せていたから。



「あんたがそこまでやられる程なら、相当な手合いね……」



 ボロボロになったグオード様を見ながら、ファニエ様は口元へ手を添える。



「……まぁ、安心して良いわよ。此処は賢者様の結界で守られているからね」



 ふふんと誇らしげに笑むファニエ様。


 その笑みに、私は危機感を覚えた。


 それはグオード様やドーラ様も同じな様で、顔を見合わせた後、じっとファニエ様を見据えた。



「……伝令を出した方が良い。賢者様のいらっしゃるルテールの里へ」

「避難の準備もするべきです」



 深刻な表情で告げる2人にファニエ様は眉根を寄せた。



「あんた達ねぇ……偉大なる森の大賢者、エイジュ様がお作りになられた結界が……破られるとでも言いたいの?」

「……俺は、その可能性が高いと見ている」

「……本気?」

「「……」」



 無言で頷く2人に、ファニエ様は、その珍しい黒髪を指で梳き、目を瞑った。


 暫しの沈黙の末、ファニエ様は目を開く。



「……分かった。今すぐ避難の用意をさせるわ」

「「っ……」」

「何驚いてんのよ……言っとくけど、緊張感のある避難訓練なんだからね!」

「あぁ、ありがとう、ファニエ」

「ファニエ……」

「ちょっとっ、ドーラッ、その抱きつき癖をやめなさいよ! もうっ、急ぐんでしょ!」

「そうでした」

「まったく、第一あんた達は根拠が薄いのよ。そりゃぁ皆指示は聞いてくれるけど、大義があるなら嘘をついてでも根拠を提示しなさいったら」



 ファニエ様はぶつぶつと照れ隠しをしながら、ドーラ様を押し除ける。


 その微笑ましい光景に透けて見える強固な信頼が、少し、羨ましくて——



 ——カシャンッ!



 その音は、唐突に響いた。


 まるで甕を落としたかの様に軽く、しかしやけに、響く音。



「……冗談じゃないわ」



 ファニエ様の呟きは、続く何かが割れ砕ける音に呑まれ、消えていった。



 

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永遠未完『魔物解説』……ネタバレ含む。

よろしければ『黒き金糸雀は空を仰ぐ』此方も如何?
― 新着の感想 ―
[一言] ルテールの里が落ちて、賢者が先走って身売りしたのからまだ十数日しか経ってない? ユキちゃんの手が早すぎるよ~。
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