第29話 傅く公明
第八位階下位
猛る獣達をどうにか宥め、改めて周りを見る。
ティアの宣言に、ウィズアルトは目を丸くした後呆れたとでも言わんばかりに頭を掻いてズレた眼鏡を直し、メレネーアはウィズアルトと同じ様に目を丸くした後頬を赤らめ、レイガスは家族を感じさせる様に目を丸くした後何やら悟った顔で頷いていた。
ウィズアルトは何か言いた気にむぐむぐしたが、取り敢えず納得はした、と言うかここでの会話は諦めた様で、当初の目的を果たすべく動き始める。
「……まぁ、良い。しかし専属従士、貴様は覚悟しておけ」
良い意味で肩の力が抜けた様に見えるが、火に油を注ぐのはやめてもらいたい。
言うやウィズアルトは此方に背を向け、女神像へと跪く。
「……ルベリオン王家が第一後継者、ウィズアルト・ルベリオンが問うッ。裁定の女神よ、真の王は何処か、厳正なる審判を下し賜えッ!」
刹那、女神像に後光が刺し——もとい背後の天秤が輝いて、それは現れた。
審判の天秤 リブラリア LV810
薄青の瞳と髪に僕程ではないが優れた美貌、身長は僕より少し高いか。服は法衣の様な制服の様なデザインで、幼い見た目と反して毅然とした意思を感じさせる。
そんな法衣には瞳と同色の宝石が散りばめられ、月と太陽を模した銀と金の装飾がより際立つ様に配置されている。
背後には青く光る翼の様なシルエットが三対六枚、天使の翼の如く輝き、その更に後ろには人よりも大きな天秤が浮いている。
天秤は秤の部分が月と太陽になっており、光と闇の対比を表した神器の類いであると分かる。
「おぉ……! 神よッ……!」
天命騎士と僕とティアを除く全員が跪く中、リブラリアはゆっくりと女神像の前に降り立った。
少女はざっと辺りを見渡し、一つ大きく頷くと、ゆるりと真っ直ぐに歩き始めた。
青光の翼を消し、数歩進んでウィズアルトの前に立つ。
「神よ……裁定の女神よッ……! どうか……真なる王を、王権の後継者をお示しくださいッ……!」
確信を持って言うウィズアルトに、リブラリアは手を伸ばし——
——頭を撫でた。
「……っ……?」
何がどうしてそうなっているのか全く分からず戸惑うウィズアルトに対し、リブラリアは何も言わず、ただ無表情のままコクリと頷いた。
しかしそれも束の間の事、リブラリアはゆるりとウィズアルトの横を抜け、騒めくその他をすり抜けて歩みを進める。
「……そんな」
「……まさか」
心なしか青褪めている様に見えるウィズアルト一行、特にウィズアルト自身は、もはや完全に血の気が引いている。
リブラリアはティアの前で歩みを止めた。
ティアは無言でそれと向かい合い——
「……」
「……」
——頭を撫でられる。
ウィズアルト一行が固唾を呑んでそれを見守る中、手を下ろした後も暫し見詰めあって、またもやゆるりとティアの横をすり抜けた。
振り返ったティアは、腕を組んで胸を張り、ふんぞり変える様にして僕を見ている。
まるで初めての獲物を誇らし気に見せて来る犬の様だと僕は思った。
一方ウィズアルト一行は、もはや何が起きているのか状況を掴めず、困惑しきりである。
果たして、リブラリアは僕の前まで歩み寄り——祈る様に跪いた。
「……我が神。ルベリオンに連なる者達に、どうかご慈悲を……」
透き通る様なその声は、念話混じりの感応系。間違いなくこの広間の全員に聞こえたであろう。或いは聞こえたと言うより言って聞かせたと言うべきか。
リブラリアが僕の存在を感知していてもおかしくはなかった。
今回初めて話しかけて来たのは、オピオニダイやオピオネウスの様に、何らかの役目を果たす時に初めて動き出せる様な制約があるからだと考えられる。
リブラリアの場合は審判の時だろう。
制約を掛けている理由は、リブラリアが実質ルベリオン王国の支配者だからだ。
魂はあるが機能である。それが故に、人の世を正常に回すには起きている訳には行かず、役目を果たすには離れる訳には行かず、結果眠るしかなかったと考えられる。
差し当たって換装によりメイド服から、急遽デザインを付け加えた鈴巫女風の制服にチェンジ。
シャルロッテに指示を出し、今まさに素早い判断により自爆を決行しようとした天命騎士13名を処理させた。
まぁ、自爆されてもたかがアークエクスプロージョン13発くらいなら1人いれば十分防げるが、天命騎士13名分の肉体の損失と言う事になるので……勿体ないよね?
それっぽい服を着込んだ後は、普段から隠している気配を解放。おまけで神域を押し潰す様に神気も解放。
更にシャルロッテ達が気を放ちつつ姿を現し、僕へ跪いた……演出過剰だよ。
そうと思いつつも、取り敢えず成り行きに任せて口を開く。
「……心配は無用だよリブラリア。ただ皆幸せになるだけ。君もね」
跪くリブラリアの頭を撫でてそう言うと、リブラリアは首を垂れたまま静かに言葉を紡いだ。
「……全ては我が神の御心のままに」
《クラン『ルベリオン』はクラン『スノー』に統合されました》
《【クランクエスト】『至高なるクランマスター』をクリアしました》
《《【世界クエスト】『星天の第7試練:天秤の試練』を『匿名』がクリアしました》》
《【世界クエスト】『星天の第7試練:天秤の試練』をクリアしました》
まぁ、試練級だと思っていたし、これくらいは予想の範疇だね。
疑問符が可視化出来そうな顔をしている元ルベリオン王国一行を見下ろす。
さて……どうしたものかね。
第十四節:第三項、王位の継承——完





