第27話 妙案
第八位階下位
久しぶりにメイドプリマヴェーラを装着。人畜無害な美人メイドのフリをしつつ、一つ一つ丁寧に仕事を熟す。
メイドの中の裏切り者は、ティアに毒盛ったりと無駄な努力をしてたので情報収集後味方にした。
どうやら実家が貧乏で親が病気らしい。実家に監視が付いてるとの事なので、ささっと処理した。
毒耐性を上げる為、アイに毒を盛らせていたから、今更並大抵の人が死ぬ程度の毒などティアには効かない。
屋敷を囲んでいる兵士達は、アイに指示を出して一瞬の内に捕獲。
それを監視している者も、遠巻きに見てる者も、敵も味方も何が起きてるか分かってない者達も、全てが全て、肥大化したアイに飲み込まれる。
城を守る外壁は檻と化し、その中にアイが満ちていく。
さほど時間を掛ける事なく、城の鎮圧は終わった。
敵味方問わず1人につきコンマ1秒を掛けてじっくり再教育し、取り敢えずリスティアの深部に幽閉。細かい部分は黒霧の管轄としておく。
残すは、何重にも閉ざされた地下、審判の間へ至る道のみ。
回収した情報によると、そこにいるのは逆賊たるウィズアルト。捕まった国王イスタル。イスタルが捕まる原因となったティアの妹メレネーア。それに加えて一部木っ端。
それから、王都に忍び込んでいた精鋭たる帝国兵達をして未知の騎士団、天命騎士団なる連中がいるらしい。
残念ながらその詳細は不明だ。
一応ティアの家族に関わる話だし、これに関わる全てを試練級と想定して動くべきだろう。
最も適した人材を少数で投入すべきだ。
シャルロッテは確定として、ウルル、エヴァ、アトラ、メロット。
サイズ的にもこれがベストだろう。
一応外にも、透明化イェガとアルフ君、ルクス君、ディルヴァ、ミルちゃんを配置し、おまけでその包囲の更に外側にレーベ、白羅、アルネア、セバスチャンを置いておく。
これならば何が来ても対処可能である。
早速、この無意味な兄弟喧嘩に終止符を打ちに行こうじゃないか。
……喧嘩って言う程でもないかな。
◇
道中、ウィズアルトに味方した文官やら騎士やら従士やら帝国軍やらを丁寧に処分し、審判の間に通じる大門の前に着いた。
「それじゃあ皆、手筈通りに」
声をかけるや、ティア以外の5人が姿を消した。
空間湾曲や存在隠蔽により極限まで気配を殺し、おまけで僕も手伝った高度な隠密だ。
これならば、瞳神の様な索敵に特化した試練級でもない限り見抜く事は難しいだろう。
……剣聖竜ヴァルトラの様に戦闘センスから生じた直感だけで看破しかける奴もいるので、見抜くのは無理とは言えない。
僕は楚々としてティアの後ろに控える。
状況を俯瞰して見る立ち位置であり、唯一の出入り口を塞ぐ立ち位置であり、万が一の時はティアの首根っこを捕まえて脱出出来る立ち位置だ。
僕は此方を見るティアに微笑み、コクリと頷いた。
ティアはニコリと微笑み返し、大門に手を掛ける。
さぁ、ティア。憂いは僕が断つ。精々頑張って誤解を解くが良いさ。
門は開かれる。
◇◆◇
重い門も、ユキが後ろにいるだけで軽く感じられる。
この先どの様な事があっても、ユキが後ろにいるだけで乗り越えられる。
どんな大敵が道を塞ごうと、どんな災禍が世を襲おうと、ユキならば笑顔で全てを飲み込んで行くだろう。
だから大丈夫。
門を押し開き、広間に一歩、踏み込んだ。
兄様、父様、メレネーア。それから複数の兵士。
その奥に、確かに感じる強大な気配。
——何かがいる。
かつては感じられなかった何か大きな力が、この広間に満ちている。
「……ッ!」
一瞬気圧されそうになった心を叱咤して、大きく2歩目を踏み込んだ。
私の後ろにはユキがいる。
逆風が如何に大きくとも、追い風はそれに優って私を前に進ませてくれる。
何も恐れる事はないのだ。
「ようやく来たか、待ちくたびれたぞ、ティアッ!」
苛立った様に、大声を上げる兄様。その少し離れた場所には、全身鎧を着た十三人の騎士が父様とメレネーアを囲み、抜き身の剣を向けている。
兄様の側には、見知った顔が幾つか並んでいた。
兄様についた貴族や官僚、騎士達等の側近だ。
私が前に出るのに合わせ、ユキも一歩進み出て——
「専属従士、貴様は動くなッ」
——ピタッと止まった。
……兄様……それ以上の失言はしないで欲しい。
メレネーアと父様の直ぐ近くで空間が揺らいだのは、例の5人が直ぐ側にいる証だろう。
ユキの予想通り、兄様はユキを強く警戒しているらしいな。
流石はユキと言うべきか、それとも流石兄様と言うべきか……ともあれ……ユキの動きが止まったからと言ってユキを止められる訳では無い。
そこら辺は流石の兄様も未だ人と言う事か。ユキの何たるかを見抜けて……見抜ける奴などいるのだろうか……?
ともあれ、ユキが進まなくとも、私は前に出る。
「……兄様。その決断に今更何を問う事もありません。父様とメレネーアを解放してください」
「ふん……賢いティアなら分かっているだろう? 今何をすべきなのか」
「……」
……?
『王位継承権の放棄だよ』
『いやしかし、それは既に以前……』
『審判の間でやるのが正式な放棄の仕方なのさ。少なくともウィズアルトはそう思っている』
『そうなのか……』
ユキの教えに従い、女神像を見上げる。
「……私、エスティア・ルベリオンは王位継承権を放棄する事を此処に宣誓する」
宣言するも、特に何か変化があった様子はない。
兄様も何かしらの確証を得られた様子はなく、これにどれ程の意味があるのか、私には分からない。
「……これで良いでしょう? 早く父様とメレネーアを解放してください」
「……」
声を掛けるも、兄様は眉根を寄せて黙っている。
……私も意味があるのか分からないし、兄様ももう一押し何か確証が欲しいのだろう。
しかし、宣誓以外で王位を放棄する方法は……。
……そう言えば他国に行った姉様や駆け落ちした姉様は王位継承権を持たないし、出家した兄様も持たないよな? 少なくとも兄様はそう思ってる筈だ。
と言う事は、家から出れば名実共に王位継承権を放棄した事になるのではないか?
つまりだ……。
私は大きく一歩、横にそれ、兄様にユキが見える様にした。
「……兄様、私は」
背後のユキを指差し、ちゃんと聞こえる様に大きな声を出し——
「——このユキと結婚し王家を出ます!」
これで良い筈だ……!





