第17話 浅き夢
第八位階下位
大きな体と鉄板の様な鋏を持つ、攻撃系に特化した大蟹。ウォーリアクラブ。
アランの闘気纏う斧と激突し、自慢の鋏を粉砕され、その後敢えなく死亡。レベル42。
両方の鋏が鋭い剣になっている、更に攻撃に特化した鋼蟹。メタルツインソードクラブ。
タクと斬り結ぶも、胴を蹴り砕かれ死亡。素直に防御していればまだ行けてた。レベル51。
両方の鋏が巨大な鎚になっている、重量攻撃と振り下ろしを得意とする鋼蟹。メタルツインハンマークラブ。
クンの爆裂弾にやられた後、執拗に体内を破壊され死亡。レベル53。
見上げる程にデカい体を持つ鋼蟹。ジャイアントメタルクラブ。
腕甲を装備したミカと正面から殴り合い、体の全甲殻を破壊され死亡。レベル50。
4本の巨大鋏と16本の脚に、膨れ上がった体を持つ、完全にイカれている半崩壊定着個体。ミュータントグレイトシザー。
攻撃範囲が広いが動きが遅く、シロに丁寧に解体される。レベル45。
同じく異常な進化個体。両手に蟹の様な甲殻が付き、背甲を持つ巨大な蛙、ジャイアントアーマートード・亜種。
体がデカく、甲殻が重く、動きがトロい。毒を吐いたり舌を伸ばしたりするし、跳ねて潰しに掛かったり、近いとガバッと飲み込みに掛かるが、遠いとダメだったらしい。キリサメに狙撃される。レベル49。
緑色で体の各所に宝石の様な輝きを持つ大きな蝙蝠。ジャイアントグリーンベリルバット。
風の魔法を使い、遠距離からの戦闘を行うも、投擲されたナツナの槍杖により墜落。一撃で頭を踏み潰された。レベル55。
黒い表皮に赤い線が走るキモチワルイナメクジ。ブラキルマーカ。
複数の毒を操るナメクジだった様だが、リナの矢の雨を100発全弾喰らって絶命した。レベル40。
その他にも、珍しい鉱石系のスライム。クリスタルスライムや、一部キモいクリスタルな虫もいた。
リンカちゃんなんかは、そのクリスタルスライムの同類と思わしきパールスライム・亜種を捕獲していた。
このパールスライムなる生物は、球体になって物凄い勢いで逃げるのだ。
坂道凹凸水中何もかも気にせず逃げ回るパールスライムを、リンカちゃんは必死に追いかけ、時にピィコが水没し、時にカメ吉が水没し、猿飛がそれらを拾い集め、機動力の低いシャ助とテンテンはもはや諦めて外敵排除、一方ニャニャミは陸で1人、ネズミと戦っていた。
その他幾らかの雑魚も狩り終わり、クエスト『大王継承戦争』は終結した。
僕は戦闘に参加していないが、魂の回収に十分な貢献をなされたと判断された様で、貢献率は30%。
報酬は、なんて事はない魔水晶やちょっとした属性結晶の魔道具だった。
さてさて、これでいよいよ——
《【伝説クエスト】『亡き栄光へ縋る者』が発令されました》
——ボス戦だ。
湖底で闇色の意思が胎動した。
◇
これが終わったら、誰も気付かなかったの? って皆を煽ってあげるんだ。
やっぱりね、甘い桃を作るには多少のストレスも必要なんだ。
大切なのは、しっかりとした土壌と適切な負荷。
そんな訳で、水底から浮き上がり、ザバッと現れたそれを見上げる。
シャドウキングクラブ LV118
——怨霊だ。
己を殺した外敵への怒り、生を謳歌する者への妬み、勝者への憎しみ。
静かな水面は、そう言った物を封じやすい。
それは一種の聖なる力であると同時に、不浄を隠し溜め込んでしまう性質も備えている。
これが生じた要因は3つ。
湖底に汚泥の様に溜まった僅かな、しかし濃度の濃い不浄。
結晶大王蟹の持っていた高質な闇属性魔力。
そして、彼と彼の力を受け取った者達の新鮮な憎悪。
彼の生物相応の憎しみが不浄と結び付き、闇の力でコアが形成、新たな縁の近い憎しみを受け取って、今この時、孵化を迎えた。
——Gugooo!!!
怨嗟の咆哮が地底湖内をこだまする。
——死の原因である僕が憎いと。
——今を生きる蟹君が妬ましいと。
ただ、その魂には怒りと憎しみだけが満ちていた。
「さぁ、行って」
僕はクリスタルな蟹君を掲げた。
若干嫌そうに闇を見上げる彼に、地底湖内から掻き集めた力を押し込む。
「君の落とし物だ。始末は君が付けなさい」
魂と対話する。
彼が望んだのは、早期の復活だ。
しかし、それは側面の一つでしかない。
早く復活する為。それだけなら、そこらの卵にでも宿れば良い。
或いは屍肉でも良い。フレッシュゴーレムとして復活すれば良かった。
じゃあ何故、早期の復活の為、彼はクリスタルの器を選んだのか?
理由は幾らか考えられるが、何より大きかったのは……彼がそれを好きだったから。
サーチして直ぐに気付いた。
王都を守る大結晶に、小さな蟹型の凹みがある事に。
態々頑張って結晶を侵食し、その器を獲得したのだ。
その真意は、クリスタルの器を望んでいる。
結晶大王蟹になろうとする意思を軽く叩いて潰して、その小さな真意に問いを投げ掛ける。
汝、何を望む者也ってね。
まぁ……答えは決まってるんだけどね。
……一応、ちょっとダメ押し。
「君に名前を与えよう。クリスタロス。それが君の、新たな生だ」
——そして光は瞬いた。
古刻結晶 LV130 状態:蟹型
大きな蟹の形をした結晶体。
形状はスライム達と同様に自在であり、伸縮もまた自在。その身には膨大なエネルギーを溜め込んでいる。
これが、この子の望んだ形だ。
後は君の、選択次第。
シャドウは急に現れたクリスタロスへ襲い掛かる。
巨大な鋏を振り上げる敵に対し、クリスタロスは防御の構えを取った。衝突——
——ドプンッ。
と、音がした訳ではないが、シャドウの鋏とクリスタロスの鋏が混じり合った。
中々面白い反応だ。
両者共にある程度変幻自在であり、そして多少のノイズはあるが根源を同じくするからこそ、混じりやすい。
本来であれば自然と拒絶が起きる所だが、それが起きずに混ざり合う。
しかし、既に別の個でもある為、混じった後に殺し合う。
まぁ要は、セルフで神域の戦いが行われてる訳だ。
または自分の中で2つの意見が対立している様な物である。
それに——
混じり合った黒と白から、黒が瞬く間に薄れて行く。
——当然、こぼれ落ちた怨念の塊と、それを零した本人なら、本人の方が強いに決まっている。
シャドウの鋏はクリスタロスに大したダメージを与える事は出来ず、魂の戦場において勝ちはない。
それを察したか、シャドウはその形状を変え、クリスタロスの鋏へと集結した。
黒い塊が鋏に纏わりつき……鋏にビシッとヒビが入る。
クリスタルの鋏が急速に白く濁って行き——崩壊。
クリスタルの破片が辺り一面に飛散した。
……まぁ、仕方ない。魂はとにかく、まだ肉体は弱いから。むしろ侵食を鋏に留めたのだから頑張った方だ。
それに、敵も相当無理をしたか、大きなダメージを負っている。
クリスタルの破片からじわりと黒い影が立ち上がり、蟹型に戻ったシャドウは、その体積を半分に減らしていた。
そこからは簡単だ。
反対の鋏で叩き潰し、取り憑かれるのではなく取り込んで、その大半を吸収、中和。
少し逃げたシャドウも、あっさり捕まってクリスタロスに吸収された。
自分の落とし物を取り戻し、ついでに幾つか背負い込んだ。
僕や彼からしてみれば、ちょっと嫌だなって言うだけの些細な事だ。





