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【エゴイズム(02)】


【エゴイズム(02)】




沙紗(サシャ)フラゥアリーの未来を示せ!」


玲音(レオン)ガーランドの問い掛けと同時、まるで返事でもするかの様にクィーンヴェスパが低く唸りを上げた。

いや、正確には背面に装備された『運命の小円環』がだ。


「頼む!」


小さく発したレオンの呟きは、サシャの未来が開く事を祈ったものか。

当のサシャはきつく目をつむってしまいモニターを見られない。

聖帝国エインヘルを支える巨大な『運命の円環』はサシャの未来を黒、つまり『無い』と予報した。

それを機能は同じとは言え、小型移動式の『運命の小円環』が覆す事は有り得るものなのか。

数秒が酷く長い時間に感じられた。

モニターが光り、画面が切り替わる。

そこには。


『南 鉄塔 沿岸部 邂逅』


レオンの手が震えた。

少なくとも未来を繋ぐ糸口を得られたのだ。

急いで後部補助席に座るサシャへ振り返った。


「サシャ!黒じゃ、黒判定じゃない!」


下を向いて目をつむっていたサシャが、目を見開いてレオンへ顔を上げた。

画面には少ないながらも4つのキーワードが示されている。

使い慣れていないのでレオンには詳しくは解らないが、恐らく時系列順に並んでいる。

『南』と言うのは現在位置であろう、ここ首都ローズガーデン南部。

大雑把な質問だったため、今後の位置を時系列順に表示したと判断出来そうだった。

それはこの後、生きて辿り着ける場所があることを意味する。

死亡ならば黒判定が表示されるし、そもそも死者は移動しないからだ。


「でも、この鉄塔って何だ?ローズガーデンに鉄塔なんて…」


モニターを見ながらローズガーデンの風景を思いだそうとしていると、サシャが恐る恐る声を上げた。


「沿岸…部?沿岸って海の近く?歩いて行ける距離じゃ…。それに、邂逅って誰かと会うの?」


声音に怯えが混ざっている。

黒判定では無いと言う安堵はあるが、これはただ一番可能性の高い今後の居場所を示しただけに過ぎない。

もしかしたら、この『邂逅』の人物こそがサシャを害する相手なのかもしれないのだ。


「サシャ、聞き方を変えてみよう。」


そう言って少し考えるとレオンがクィーンヴェスパのモニターに向かって問い掛けた。


「サシャが、沙紗フラゥアリーが生き残る道筋を教えてくれ!」


レオンの言葉に応え、再び背面の『運命の小円環』が低い唸りを上げ始める。

とその時、新たな来訪者を告げるベルが工房内に響いた。

えっ、と顔をあげるレオンが工房正面出入口とモニターを交互に見遣る。

どうしようかと一瞬躊躇うが、未来予測システムからの回答はまだ表示されない。


「サシャはここに居て。誰か来たみたいだから、ちょっと対応してくる。」


そう言うとサシャが返事をするより早く、操縦席を飛び出して移動式電動アームリフトを操作する。

クィーンヴェスパの胸部高から工房床面まで一気に下がって行くと、完全に下がり切る前にリフトから飛び降りた。

すぐに大扉下の監視窓に走って取り付き、外を確認する。

直後、待ち兼ねたのか大扉下部の小型の扉を来訪者がどんどんと叩き始めた。


「今晩は!すみませんが警ら隊の者です!どなたかいらっしゃいませんか?」


レオンが監視窓を覗くと、確かに雨天装備の警ら隊の制服姿が3名ほど見える。

基本的に街中のパトロールは警ら隊が担っており、多くの市民と交流するためか人当たりだけは良いおっちゃんが多い。

今外で扉をどんどん叩く男も顔だけは笑顔だった。


しかし、


監視窓から見えたのはそれだけでは無かった。

暗くて判りにくいが、オーナメントアトリエの敷地の外、門の死角にちらりと見えた複数の人影。

さらに監視窓の死角からうっすらと伸びる影が、扉のサイドに身を潜める者の存在を伝えていた。

時折撥ねた水滴が監視窓の視野に入ってくるので間違いはない。

その剣呑な雰囲気は、不用意に開ければ突入してくるかもしれないとさえ感じさせる。


考えてもみれば、サシャは運命観測センターの職員に見つからないよう逃げてきたと言っていた。

しかし調べさえすれば黒判定を受けた対象者はすぐに判明する。

何しろ未来予報器を使えるのだ。

立ち寄り先は間違いなくばれる。

この夜間の来訪者は、恐らくそういう事なのだろう。


そう理解した上で先程の記憶を辿れば、門の影にちらりと見えた人物の服装が警ら隊のものと違うことに気がついた。

レオンの額を汗が伝う。


「ライオットトルーパー?」


ライオットトルーパーはパトロール任務が中心の警ら隊よりも、より強力な装備と機動力を兼ね備えた暴徒鎮圧騎兵隊を指す。

移動や包囲制圧に軽武装の騎馬を用い、必要に応じて電動の装甲車輛を運用して事態収拾に当たる。

騎士団とは異なり軍属ではないが、装備一式を揃えたライオットトルーパーは軍の機動歩兵と同等とも言われる。

それが少女1人を『保護』する為に投入されるなど、通常なら明らかに行き過ぎている。


「いや、そうか。クィーンヴェスパがあるから!」


後ろを振り向けば既に起動時の動作確認を終えて静音待機状態のクィーンヴェスパが佇んでいる。

工房内に響くのは『運命の小円環』の駆動音だけだ。

再び外から声が届いた。




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