第二話(担当:ニトニクチスチ)
「よぉ犬っころ。何しにきた?」
試しにとばかりにこの目の前にいる賢き犬に対して高圧的な態度をとる。
しかし、目の前の犬は先ほどのように降伏の姿勢を見せたりはせずよりいっそう眼の奥に抱えたままの敵対心を放っている。
「おまえのバカな飼い主ならここにはいないぞ」
反応が薄いのでもう一発と言わんばかりに再度高圧的な態度をとる。
すると、次は反応が返ってきた。
「そんなことは知っている。」
どおやらこの犬、意志疎通ができるようだ。
「ほぁ。ならなぜ、こんなところにきた。飯ならあのバカのところの方がましなものくれるだろうが」
すると、犬は堪忍袋の尾が切れたと言わんばかりに本当は人間だと言わんばかりの怒気を体中にまとわりつかせた。
「俺はおまえと話しにきた」
彼の発する言葉は彼が話す度に重く、さらに重くなっていった。
「俺は飼い主のためなら、おまえの喉仏を噛みちぎってでもおまえを殺す。それだけだ」
そう言って犬は去っていった。
「な、何だったんだ。あんなのが本当に犬か?ちょっと賢い犬かと思ったがただ者じゃないな」
その後、あの女のところへ行く度あの犬は屋敷を飛び出しておれの部屋に来るようになった。はっきり言ってうざい。
「おい、おまえ。なんであんな女のためにそんなにがんばるんだよ。あんなの俺以外でもそのうちだまされるぞ」
「ふん。そんなことおまえには関係のないことだ。今のおまえは実際に学ぶために金に困ってるから許してやっているがこれ以上あの娘から盗ったら、殺すからな。」
このやろ、本当になんなんだ。犬の寿命なんて十数年だから俺の方が年上なのに何悟ったようなことを口にしてやがるんだ。
「じゃあな」
あいつはそう言って帰っていった。
「クソッ!イライラする!」
今度あいつにあったら何かでぎゃふんと言わせてやる。
あれから何日か経った。
あのときはあの犬の犬とは思えない態度に逆上してしまったが、そもそも金にならない仕返しに時間をかけるなんて全く俺らしくないと言うことに気がついた。
「俺は何を考えているんだろうか...」
その後何回かあの女に会いに行き、犬と話を繰り返したある日俺は自分の考えの矛盾に気がついた。
というのも、最近あの女に対して簡単に見下すようになっていた。これまではすぐに相手の性格やら何まで見抜いたが、油断したりましなかった。
犬に対してもあれだけ感じていた畏怖感も消えどこかになくなってしまったかのようだ。まるで何かに化かされているかのような気分に襲われたような気分になるのだ。
それを自覚した頃からよく夢を見るようになった。何か恐ろしいような気がしたが起きれば何もなかったかのような陽気な気分で朝を迎えていた。
そんな中それは突然やってきた。
いつものように女と話していると突然女の態度が変わり氷に話しかけているかのような気分に襲われた。
すると、女はさっきまでとは違う極限まで冷やした氷を通しをぶつけてならしたような湿っぽく、甲高い声で話し始めた。
「汝の求めるものは与えた。故に我は汝に問う。汝は我に何を与えるか」
「な、何を与えるか?おまえに?おまえが何をおれに与えるかの間違えじゃないか?」
いつものように小馬鹿にして話したつもりが全く持って覇気が出ない。そのうちに女はさらに話し始めた。
「否。我はすでに汝に与えたり。故に汝が我に与える番なり」
すると、そこで犬...いやすでに犬ではない別の姿になっているがここは犬と言っておこう。何よりも須藤がそう思っているのだから。犬が助け船を出すかのように話し始めた。しかしそこには須藤に見下されていたときの面影などなく、須藤には絶対的強者であるように見えた。
「小僧。おまえは運が悪かった。この女にひっかかりさえしなければ...いやおまえがひっかけたと思っていたのであったな。しかしそれは今は関係のないことよ。おまえが引っかかったりしなければこんなことにはならなかった。悪魔にあってしまったものは一生悪魔に追われ続けるのだから。そのしがらみは何人とも逃れることはできない。おまえはもう俺達のところにくると決まっているんだ」
その彼の言葉によってついに俺は彼と彼女が何者かを悟ってしまった。
「わかった、おれは...おまえに魂をくれてやる...」
それが彼の最後のあがきだった。
それ以来彼は悪魔の元を売買される金同然のものとして扱われるようになった。
それからいくらか経ったある日、須藤と呼ばれていたものは別の悪魔の元へと行くこととなっていた。
「マロンさん。そういえば、最初の頃よく忠告しにきていたのはなぜですか?」
「あぁ、それは誰か悪魔に気に入られなければ劣悪な環境でたらい回しにさせられるのがわかっていて見過ごすのがいやだったから恐怖心から離れていってもらおうと思ったんだが...うちの悪魔の魅力が強くてな。」
「そうだったんですか。それで納得しました。ではこれまでありがとうございました」
そう言って須藤だった何かは別の悪魔の元へと行った。
「まぁ、悪魔には出会ってはいけないと言うことだな...」
そうして、一時期マロンと呼ばれていたものはもとのようにもののような生活に戻っていった。
1945年
俺が生まれたとき周りは火の海だった。ヒロシマという町で生まれた俺は生まれてすぐに死の危機に瀕していた。周りをきょろきょろと見回していると兄弟たちが近くでうずくまっていた。近くには俺を生んだであろう母親の死体があった。
俺は兄弟たちにつれられて何とかこの火の海から脱するために歩き回った。そうして何とか火の海からはのがれられたが俺はまだ人間で言うと乳児だ。俺は母の母乳以外にまだ何かを食べることはできない。それに気づいた兄弟たちは俺を追い出そうとし、なかなか出ていかない俺を見て吠えたて、噛みつき、蹴りとばしてきた。
そうして、俺は生まれてすぐに孤独になった。
周りには食べ物と言われるものはあるが俺には食べれないものたちで俺はただただ母の母乳を求める体のうずきを水でごまかしていた。
しかし、そんなのにもすぐに終わりがくる、半日と持たなかった。
すでに生まれてからある程度経っていることに加え、生まれてすぐというのは何回にも分けて母乳を飲むのだ。すぐに俺の体は根を上げた。
何とか生きたい俺は何でもいいから助けてくれと願った。
すると、頭の中にささやきかけてくるような声がおれにこう言った。
「汝の望むものは何か?」
俺の望むものは一つ、この窮地を脱し生き続けることだ。
「では、汝の差し出せる代償は何だ」
そんなものないに決まっている。俺は生まれてすぐに孤独となった、何も持たないものなのだから。
「ならば、汝の魂をいただこう。その代わりに汝には永遠の命をやろう。契約成立だ」
その瞬間から俺は何も食べなくても何も飲まなくてもよくなった。おかげで俺はちゃんと成獣になれた。その代わりに毎日のように襲いくる空腹とのどの渇きに耐え続けることになった。
そのご兄弟たちに会いに行くと、彼らは俺を見ておびえ一目散に逃げて行ってしまった。
おそらく彼らとこれ以降出会うことはないだろう。
そうして、俺は復興していく町の裏で一人生きることになった。
俺はよくわからないが怖いものなようでたいていの奴らは逃げていった。それ以外の奴らの中で俺に襲いかかってくる奴らもいたが俺はよくわからないが強かったためある程度の縄張りを維持し続けることができた。
それから十年ほど経ったある日俺はあることに気がついた。俺の縄張りによく入ってきて俺を襲ってくる奴が一匹だけいた。あいつは俺と同じで一人で生きて縄張りを維持している。しかし、そのあいつがほかの犬との喧嘩に負けて死んだのだ。
最近のあいつは目に見えて衰えていた。みんなは歳だからと言っていたが、あいつと同年代のはずの俺がまだ全然ピンピンしているのに、あいつだけが急に歳をとったという事実、周りもみんなどんどん衰えていく中で俺が、俺だけが衰えていないと言うことに気づいたのだ。
それから俺はこれまで住んでいた町を離れ何年も何年も一人歩いていける場所ならどこへでも歩いていった。しかし、歩けば腹が減る。腹が減っても死なないとはいえ苦しいのは一緒だからな一日の大半はその日の飯を探すことに時間を使った。とはいえ人の多いところに行けば飯は手にはいるからそしたらすぐに移動という生活を繰り返した。
そんな中俺を変えたのはまた頭の中から聞こえてくる声だった。
「汝の望むものは何か?」
「俺を元に戻せ!」
「ならば、汝よりそれ相応の代価を示せ。我は悪魔、代価なくして支払うなし。代価が示せぬならば帰れ。まぁ、儂の言い値で良いというならばよいが」
「そんなものに従えるか!」
そう言ってしまえば、すぐに悪魔は帰っていったが体に変化が現れた。アレは後に知ったが悪魔召還の代償だというのだ。
代償はこれまで生きてきた時間の中に蓄積された本来起きるはずの老化の跳ね返り。だそうだ。
もうすでに俺の中の心は決まっていた。一度でも悪魔に出会ってしまった俺が悪かったんだと自分に言い聞かせた。
そうして、俺は悪魔に体を捧げる羽目になっている。
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↑ニトニクチスチのマイペ
では一言だけ。「マジで変な締め方してすんません!」
続きは活動報告をご覧になってください。