人の噂はしないようにしましょう。
「おい、ゾンビがいるぞ。早く逃げよう。」
「いや今良いところなのじゃ逃げられぬ。」
俺のゾンビ速報にを聞いても、本に取りつかれたアホムンクルスは逃げようとしない。
「だあっ 本は借りてやるから行くぞ!」
本を借りて、らせん階段を降りようとするが、
「どこに行くのじゃ。」
「帰るんじゃあないのか? 」
「なぜじゃ。目の前に、科学準備室なるものがあるではないか。」
行かずとしてどうすると言わんばかりの視線を向けてくる。
「ゾンビの事は心配するでない。この学校の人間が素晴らしい肉壁となってくれるじゃろう。」
おい全然素晴らしくないぞ。
「……何を取りに行くんだ? 」
「錬金術は文明の力。文明の心臓が止まろうとしている今、その産物は百万もの富に勝る。」
「分かったよ。」
いやいや聞いてみると、案外まともな答えが返ってきた。具体的ではないのはやめて欲しいが。。
「では、準備室の扉を壊さなければなるまい。さあ、鍵の横をめがけて蹴るのじゃ。」
「ん? ドアノブとかじゃなくて良いのか? 」
みーちゃんの説明に対し、疑問を述べると、
「足を痛めたいのであらばドアノブにするが良い。」
「横を蹴ります。」
おとなしく言われた通りにすることにする。
「とりゃ! あ。」
俺の足はドアノブ一直線に落ちる。目ににやにや顔のホルムンクルス(悪)の顔が目に写る。
次の瞬間。
ドガッシャアア……いっいってえええええええ!
いたいいたいマジで痛い。わざとじゃないし。
「時間が少々押してきたの。まあ良いデータが取れた。その足では再トライはいやであろう? ろうとと、水を持って来るのじゃ。あとはそこにある液体窒素、カバンの中のドリルで良い。」
俺の足をいたわる事無く重労働を課すみーちゃん。そこにあるじゃないだろう。あるとしたら科学室だ。
「大丈夫ですかくらい言ったらどうだ。それに液体窒素はここには無いぞ。」
「それで働くと良いがのう。液体窒素は科学室にある。」
愚痴る俺に、唇裂な言葉を言ってのけるみーちゃん。
渋々持って来くると、
「まずそのドアに風穴を開けよ。次に水を入れよ。さらに液体窒素を入れるのじゃ。すぐに離れてよく見ておれ。面白いぞよ。」
ドアがバコッと膨らんで、どおおんっと倒れた。面白いが、
「おいどうすんだ。人がいっぱい来ちまうぞ。」
「急げばよかろう。ドリルは捨てていけ。しばらく使わん。」
俺の指摘に急げばいい。ついでにクソ重かったドリルを捨てていけと、言う始末。愛着沸いてたのに。
準備室に入って中を探る。中には化学薬品がずらり。
「何を探すんだ? 」
「硝酸カリウム、木炭、硫黄を探すのじゃ。」
何を探すか聞いたところ、どこかで聞いたことがある物の名前を出してきた。
「火薬作る気なのか? 」
「あれは文明の心臓を動かす原動力との一つじゃ。」
すべてを見透かすような青い目で言ってくる。おっ硝酸カリウム見っけ。ついでに良いもの見っけ。
「分かったけどよ、木炭は多分ねーぞ。それと、人とも戦うだろうから、濃塩酸と濃硝酸も、持ってくぞ。」
「ならば残りの二つでよい。その二つはまあ、必要かもしれぬの。」
了解を得て、硫黄も見つける。なのでリュックに詰めていると、ドタドタと、足音が聞こえる。やっべえなあ。ここはらせん階段の真ん前。良くも悪くもピンチだ。リュックを背負って、三つ隣の生物室に滑り込む。
「何ですかこれは、ドアが破られています。冷たいですね……おそらく水を入れて、この液体窒素で凍らせたんでしょう。」
「一度やってみたいですね。」
「おやめなさい。」
誰かが話している。あの声は多分、
「あやつらは誰ぞ?」
「黒髪ロングの生徒会長だ。男の方は、光何とかさんだ。」
「なんとかって…… それよりあれじゃ。ここをどう切り抜けるのじゃ? 」
みーちゃんに促されるが、どうするか。火薬を即席で作るか?
いいや。木炭がない。
どういう考えかと思うが非常階段も無い。
ではどうするか。
時間もない。
うん? なら、武器っぽい何かを作って、逃走戦するか。
ありがとよ。でかい丸底フラスコに、塩酸を適当に入れる。
こんなもんか。
教室から出てダッシュでらせん階段に向かうと
「待ちなさい!! 」
と会長さん。
やっぱりバレた。
「これが掛かったら溶ける。塩酸だ。動くなよ!!」
ついでにドヤ顔かましてみる。
っと、光何とかさんが走りこんで来る。
あ、やばいな。
ゴム栓がついたままのフラスコを振るうと、
「っつ! 」
少しビビッて後ずさる彼。
「次はネエぞ。」
正直血の気が引いた。
が大丈夫だ。
「じゃあな。動くなよ。」
帰りのあいさつをし、階段を降りて、見えなくなったところに来た。
フラスコの中身を思いっきり階段にぶちまける。
ジュオーと、階段が溶けてる。
「危なかったのう。」
「うるせーよ。結果オーライだろ。」
みーちゃんの茶化しに返しながら走る。
もうすぐ一階だな。
ここは一階。見渡してみるが、らせん階段のすぐ横には渡り廊下がある。
ここらに逃げる人が大量にいると思っていたんだが、あまりいない。
不気味なくらいだ。待て。図書室でゾンビを見つけたのは何時だ? 二十分くらいは経っているんではないだろうか。となると、
「あー」
「アーアー」
「ぐア」
「あー」
「グウアアアァァァ!!」
今日学んだ事:人の噂はしないようにしましょう。
ゾンビがいっぱい。
明らかに生きていられなさそうな体をしている。
そんな奴らの一人を、フラスコで殴る。
ごおおおん……と、重い音。
そいつは頭がへこむ物理的に。
と、同時にダッシュで逃げる。
奴ら遅いぜ逃げれるぜ。
裏口が見えるな。
鍵が掛かっているようだ。蹴りを入れて破ってみる。
今度はうまくいった。
会長とやりあってからの数十秒は、やたらと濃い時間だった。
「ソ……ソ……ソノカラダ……チョウダイ……? 」
そんな声が、聞こえた気がした。死者たちの願い……か。




