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主従関係とは

 核の威力は絶大だ。

 命言を使われるかもしれない、というか使われて命を縮められるのは困るという思いが、ルーテシアの言葉をオール命言化していた。


「とりあえず部屋の掃除をしてもらおうかしら」

「喉が渇いたからお茶をいれて」

「なにかおもしろい話をしなさい」

 

 などなどと。

 人が逆らえないのをいいことにお姫さま気分全開。

 

 まあ実際に魔族の姫だが、だったら元勇者の俺が従者っておかしくね? などといまさらなことを思いつつ従っていると、あっという間に日が暮れた。


「はー、ちゃんということを聞く奴隷を持つって楽しいわ」


 すっかり上機嫌なルーテシアに、俺はうんざりしながら答える。


「……そりゃよかったな」


 こっちは半日振り回されてへとへとだよこの野郎。


「これなら明日の朝と言わず、何日かアストリッドが帰ってこなくてもいいわね」

「ふざけろ……」


 今日だけだから耐えられたんだ。

 何日も続かれてたまるか。

 そもそも明日は普通に学校がある。


「アストリッドが朝までに帰ってこなくても、明日は学校に行かせてもらうからな」

「学校?」

「お前は知らないかもしれないけど、こっちの世界の俺たちぐらいの年のやつはみんな通ってるんだよ」

「知ってるわよ。というか――」

「いいや知らないね。俺にとって普通の高校生活を送るってのはなによりも優先されることだ。お前は俺に復讐するのが大事なのかもしれないが、俺にだって大事なことくらいあるんだよ」

「…………」


 少し強く言ったら、ルーテシアはあっさりと気まずそうに黙りこんでしまった。

 しゅんとして、心なし長い耳先も垂れているように見える。


 なんだよ……調子狂うな。


「あー……まあだから、明日は学校に行かせてくれってことだ」

「……別にいいわよ。あたしも行くつもりだったし」

「そうか。だったら――え? なんだって?」

「あたしも行くって言ったの」

「い……いやいや、学校ってのは部外者の立ち入りに厳しくてだな」

「部外者じゃないわよ。あたしもあんたと同じ学校の生徒だもん」

「――は?」

「あんたね……あたしの格好見てなにも思わなかったの?」


 呆れるように腕を組むルーテシア。

 初対面のときは紙袋とはいてないのショックでそれどころじゃなかったが、よくよく見れば特徴的な意匠のブレザーに、短いプリーツスカートの組み合わせには見覚えがあった。

 そう、月宮学園の女子の制服だ。


「ちょ、ちょっと待て、じゃあ……」

「感謝しなさいよ。主人自ら奴隷の行く学校に通ってあげるんだから」

「はああ!? なんでだよ、おかしいだろ!?」

「なによ、ずっと家で奉仕したいわけ?」

「その二択がそもそもおかしい!」

「おかしくない。奴隷が常に主人のそばにいるのは当たり前でしょ」

「――――」


 おかしい。

 どこがおかしいというか、どこもかしこもおかしい。

 

 けれどそれは説明したところでどうにもならない気がして、俺は天を仰いだ。

 どうしてこうなった……。

 

 頭を抱えて三日ほどヘコみたくなったが、嘆いていてもはじまらない。

 そして、なにもはじまらなくても俺の世界は続いていくのだ。


「……わかったよ。明日はお前も俺と同じ学校に行くわけだな」

「一緒にね」


 泣きたくなってきた。

 なんにせよ、明日の学校の準備はしなければならない。


 立ち上がって玄関に向かおうとしたら、いきなり服の裾を掴まれた。

 つんのめりながら振り返ると、ルーテシアがはっとしたような表情で手をはなし、そっぽを向く。


「……? なんだよ」

「…………ど、どこに行く気よ」

「家に帰るだけだけど」


 もう遅いし。

 理由なく夕飯をすっぽかすと、うちの妹さまの説教が大変めんどうなことになる。


「主人の許可なく勝手に帰っていいと思ってるの?」


 こっちもめんどくせえ……。


「あー……ご主人様、夜もふけてまいりましたのでそろそろ帰らせていただいてもよろしいでしょーか」


 投げやりにそう言うと、ルーテシアは顔をうつむかせて小声でつぶやいた。


「……だめ」

「あ?」

「ま、まだやることが残ってるでしょ」

「これ以上なにをやれっつーんだよ……」

「従者の……一番大事な仕事よ」

「一番大事な仕事?」

「アストリッドも、言ってたじゃない。その…………しろって」


 よく聞こえなかった。

 アストリッドも言っていたことで、従者として一番大事な仕事?

 そんなの、俺に思いつくのは男女で行うアレくらいで――



 …………え?



 まさか。


「マジで?」


 視線で問いかけると、ルーテシアは恥ずかしそうにきゅっと唇を噛んだ。


「な、なによ……文句、あるの?」


 上目づかいにもじもじとこちらを見てくるルーテシアが、急にかわいく思えてきた。

 いや、元々見た目はとんでもなくかわいいが、今は妙に艶というか色気のようなものを感じる。


 一度意識してしまえば、綺麗な桜色の唇とか、あんまり膨らんでないけどすごく柔らかかった胸とか、スカートからのぞく細い太ももとかが嫌でも目に入ってくる。

 そんな俺の視線に気づいてか、ルーテシアは顔を赤くして言った。


「あんたにしか、頼めないんだから……」

「……ルーテシア」

「ちゃんとしなさいよね――――警護」

「……………………警、護?」


 ガードマン?


「あ、べ、別にいつもアストリッドと寝てるから一人が怖いとかじゃないわよ? ただその、こっちの世界で夜一人になるのは危険だと思うだけで……そう、あくまで用心のため」

「……………………」


 そういえば言ってたかも。警護してくれって。

 ………………なんだ。


「なによ、急に黙りこんで。念のため言っておくけど、変なことしようとしたら容赦なく命言使うからね」

「あー大丈夫だ。今のですっかり冷めたから」

「む、どういう意味よ」

「別に」

「言いなさい」

「嫌だ」

「命言使われたいの?」

「アストリッドの言ってたことって二人でするえっちなことだと思ってました」

「な、な……!」


 瞬時に顔を真っ赤にしたルーテシアは、それはもう容赦なく命令してきた。


「《一晩外で警護》!!」



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