持っていることに意味がある
「マイペースすぎるだろ……」
つかみどころがないというか、つかんでもすり抜けるというか。
主人以上に自由な使用人ってどうなんだ……?
「なあ、アストリッドって」
「な――なななによ!?」
「……いやお前がなんだよ」
ただ声をかけただけなのに、座ったまま後退るって。
「ふ、二人きりになったからって調子に乗らないでよっ、あたしは絶対にしないんだからね!」
「しない? なにを?」
「だからあたしとあんたの二人でえっちな――うぅぅ、なにを言わせるのよ!!」
「はあ? ――あ、もしかしてアストリッドの言ってたことか?」
俺とルーテシアが……そのアレをしてしまえば、命の危険はなくなるという。
「落ち着けよ。これからアストリッドが調べに行くんだから、慌てる必要はないだろ」
「……そのアストリッドがなんの成果も持ち帰れなかったら?」
「…………それはまあ……そのときに考えれば」
「そうやって時間を稼いであたしが死ねのを待つ気ね!」
「ち、ちげーよ、そりゃ契約は解けたほうがいいけど、そのせいでお前が死ぬのも困る」
「え……」
「お前に限らず、誰かが死ぬとかいうのは絶対にごめんだ。当たり前だろ」
「……ふん、結局自分の都合なんじゃない」
「無理矢理契約結んで困ってるお前には言われたくないからな」
「そんなの元はと言えばあんたが母さまを倒したから――」
「あーもう、その話はやめようぜ」
きりがない。
「確かに俺は元勇者でお前は次の魔王だよ。でも今はこの状況を解決しようとしてる仲間……ってのは言いすぎにしても、とりあえず過去のことはいったん脇にどけて、同じ目標のために協力してもいいんじゃねえか?」
「む」
口をへの字にして、不満げに腕を組むルーテシア。
不満なのは俺も同じだ。
なんでこんな目に、と思うことはなはだしい。
だが。
「……いいわ。過去のことはいったん保留にしてあげる」
妥協は大事。
「ただし」
「ただし?」
「あんたとあたしは対等じゃないわ」
ルーテシアは颯爽と立ち上がり、びしっと俺に人差し指を突きつけてくる。
「あたしはあんたに命令できる。つまり、あんたとあたしは主人と従者――いいえ、ご主人様と奴隷の関係よ」
「いやいや命言使ったらさっきみたいに――」
「ふん、アストリッドの話を聞いてなかったの? 危険なのは命言の連続使用。つまり、適度に使う分には大丈夫だということよ」
「ダメだろ……」
あんまり使うなって言われてたじゃん。
「わかってないわね」
ガーネットの瞳を細めて、ふふんと笑うルーテシア。
いつのまにか自信たっぷりだ。
「こちらの世界で最強の破壊魔法は核兵器とか言うそうじゃない。それって、実際に使うもの?」
「…………」
核は使うことにではなく、持つことに意味がある。
いざとなればぶっぱなすぞという愉快な脅しが力を発揮するのだ。
つまり。
「わかった? ――ううん、わかりましたって言えるわよね」
言わなきゃ命言使うわよ。
そんな脅しをはっきりと読み取って、俺は地の底にまで届きそうな深いため息をついた。