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最強妹は思春期?

 その後、ルーテシアはいくら呼んでも揺すっても目を覚まさなかった。


 さすがに心配になり、2LDKの魔王城までおぶって行って、帰って来たアストリッドに見せたら。


「爆睡してますね」


 思わず寝顔を殴りそうになったが、待ち合わせのために早起きしていたことを思い出してぎりぎりでこらえた。


「昨晩はまったく眠れなかったみたいですからね~シアさま。今日のことをいろいろ考えちゃったんでしょう」


 うふふふ~と口元に手を当てて笑うアストリッド。


「そっか……そんなに真剣に人見知りを直そうとしてたんだな」

「……たぶん違いますけど~」

「え?」

「まあいいです。とりあえず今日はおつかれさまでした~」


 あまり女の子の寝顔を見せるのもアレだからという、いまさらすぎる理由で魔王城を追い出され、釈然としない気持ちで家に帰ると。



「おかえりなさい兄さん」



 恐怖の妹さまが玄関で仁王立ちしていた。


「ひっ」


「どうしました? 道でばったりヒグマに遭遇したような顔をして」


 今の菊花に比べたらヒグマのほうがマシかもしれない。


「お前……親衛隊、は?」

「親衛隊? もしかして、いきなり襲いかかってきたあの不届きな人間たちのことですか」


 震えながらうなずく俺に、菊花はふっと鼻で笑ってみせる。


「もちろん全員返り討ちにしましたよ。二度と刃向かおうと思えないくらい徹底的に痛めつけて。……今ごろは太平洋辺りを漂っているんじゃないでしょうか」


 ――ひいいいい!


 でたらめにもほどがある!


「そんなことより」

「は、はい!」

「今日のこと、話してくれるんですよね」


 一歩進んで、笑顔。


「に・い・さ・ん?」


 ――ちびりそう。


 恐怖からくる尿意を懸命にこらえ、俺は菊花にミスコンのことを話した。ルーテシアの人見知りや、絶対に勝たなければいけないことまで含めて、正直に。


 それは決して脅されたからではなく(いやその理由もあるけど)、この件に関してはしっかりと話せばわかってくれると思ったからだ。


 菊花はべらぼうに強くて、信じられないくらい兄に厳しくて、ストーカーみたいに粘着質な妹だが、とてつもなく優秀で真面目なやつだ。


 もちろん異世界関係のことは伏せてあるので、そこまで俺たちが必死になる理由は伝わらないかもしれない。


 けれど、真剣に取り組んでいるということはわかってくれるはず。


「……じゃあ、兄さんはあの女ぎつ――ルーテシアさんのことを……好き、だからとか、そういう理由で一緒にいるわけじゃないんですね?」

「ああ」


 好きとか嫌いだからとかじゃなく、契約を解くためだ。


「…………よかった」

「え?」

「――なんでもないです」


 一瞬ゆるんだ表情をすぐに引き締め、菊花は腕を組んで冷徹に続ける。


「そういう事情があるのなら、最初に言っておいてください。おひとよしすぎる兄さんが困っている人を助けなければ一日も生きられない病気にかかってしまっていることくらい、よく理解しています」

「……そんな人間いねーだろ」


 病気とかいうレベルじゃねーから。


「わたしだって鬼じゃありません。事情があるのなら外泊の許可だってだします。……でも、なんの連絡もなかったら……心配するじゃないですか」

「…………悪い」


 そうだよな……。

 今は二人きりで生活してるんだ。


 俺だって菊花が無断で知らない男と外泊したりしたら心配する。

 相手のほうを。


「今なにか失礼なこと考えませんでした?」

「――いいえ?」


 真の魔王は心も読めるのか……!


 ガクブルする俺にため息をつき、菊花はこほんと咳払いする。


「と――ところで。兄さんは、その……公園でわたしが言ったことについて、なにかないんですか」

「公園?」


 考え込む俺の前で、菊花はそわそわと落ち着かなげに指を重ね合わせ、ちらちらと上目づかいにこちらを見てくる。


「……なんか言ってたっけ?」


 正直そのあとの菊花本気モードの印象が強すぎて覚えてない。

 ルーテシアにやたらと噛みついていたような気はするけど。


「……………………そう、ですか」


 う、地雷を踏んだっぽい。

 菊花の眼差しの温度が急速に下がった。 


 触れればわかる冷たさから、見るだけで痛みを感じるレベルにまで。

 なんかどす黒いオーラが立ちのぼってるようにも見えるけど……気のせいだよな。


「そうですよね……兄さんはそういう人ですよね……ふふ……だからこそ……」


 ぶつぶつとつぶやく菊花を見て、俺の中の危険察知センサーがやかましく警鐘を鳴らす。


「じゃ、じゃあそういうことでな」


 内なる怪物が目覚めそうになっているマジキチ妹の脇を抜け、俺はそそくさと自分の部屋に逃げ込んだ。


 真の魔王マジこええ……。


 だが、本当に怖いのは明日から始まる学校だ。

 今日の散策でルーテシアの人見知りはどれくらい解消されただろうか。


 学校で積極的に生徒と触れあい、アリス以上の人気を獲得する。

 それができなければ、冗談でもなんでもなくルーテシアは死ぬ。


 その最悪を回避するためにやれることはなんでもしなければ。



 ミスコンまでは、もうほとんど時間がない。


評価感謝です。

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