勇者の受難は続く
「……アリスティア姫」
「む」
「ア、アリス」
「はい」
満足そうにうなずくアリスに、俺は頬が引きつりそうになるのを我慢しながら訊く。
「また盗聴器……?」
「いえ、今回はこちらの声も伝えられる通信機のようなものです。このヘッドセットと一緒に利用しますの」
「……」
どうやら新しいのを仕掛けられていたらしい。
「ちなみに先ほど使用しましたのはこちらの世界で言うところの閃光音響弾ですわ」
「そんな危険物を街中で!?」
「ご安心ください。指向性がありますし、ちゃんと範囲は絞りましたから。周辺に被害は出ていないはずですわ」
さらりと答えるアリスの後ろで、伸びているルーテシアの姿が見えた。
きっとあれは被害に入っていないんだろうな……。
「菊花は?」
「強制的に移動していただいたうえで、親衛隊十人がお相手しています」
「大丈夫か……?」
「もちろん魔導具の使用は禁止していますし、手加減するよう言いつけてありますわ」
いや親衛隊のほうが。とは言えない。
なんにせよ助かったのは事実だ。
「ありがとうございますアリスティ……アリス」
「おやすい御用ですわ。――デート、していただけるんですよね」
「な……なんのことでしたっけ?」
ご褒美を待つ犬のように目を輝かせたアリスから、俺は顔をそらす。
すると、アリスは笑顔のままヘッドセットっぽい魔導具の側面についたスイッチを押した。
『わかった、デートでもなんでもするから助けてくれ!』
「…………」
「実は録音機能もついているんです」
「……よくあの短い時間に」
「普段から光祐さまの声はすべて保存するようにしていますから」
「なんで!?」
「光祐さまの声を聞かないと夜眠れないんですの」
「こわい!!」
……え?
冗談だよな?
本気だったらどうしよう……。
真剣に悩み出した俺を見て、アリスが悲しそうに眉を寄せる。
「デート、していただけないんですの……?」
瞳をうるませ、上目づかいに見つめられると、きりきりと胸が痛んだ。
「す……する、します! させてください! だからそれやめて!」
まあ録音云々はともかく、約束したのは確かだし。
アリスは胸の前で両手を組み合わせて、心の底からほっとしたような表情を浮かべる。
「よかったです。もう一つ、とっておきのおど――お願いするための材料があったのですけれど、これは次の機会にとっておけますね」
「おいいい!? ちょっと待て!!」
「光祐さまとのデート、楽しみにしていますわ」
都合の良いときだけ完全シャットアウトの姫耳に、俺は心の底から訴えた。
「頼むから俺の話を聞いてください!」
「それではまた学校で」
願いは届かず、アリスはひらひらと手を振って去っていった。




