再会、ふたたび
人間必死になると思いもよらない力が出る。どうやらそれは魔族でも同じことらしい。
走り出したルーテシアはあっという間に俺の視界からフレームアウトし、角を曲がったところで完全に見失ってしまった。
「必死すぎるだろ……」
冷静に考えれば朝練中だってわかるし、ルーテシアを追いかけてきたわけでもないのに。
まあ焦ったのは俺も一緒だけど。
……しかしどこまで行ったんだあいつ。
周辺を歩きまわって探してみるものの、まったく見つからない。
完全に迷子。
「いっそあいつ置いて先に教室行っちまうか……」
闇雲に探しても見つかるとは思えないし、すれ違う可能性だって高い。
あいつも男は慣れるものだとか言ってたから心の準備をする時間が必要だろうし、俺は俺でそのあいだに普通の友達を作れば念願の素敵高校生活に近づくし――
あれ。
さすがに薄情かなとか思ってたけど、むしろ最高の選択なんじゃね?
そうと決まれば即行動。
俺は魔王さまの捜索を早々に打ち切ると、あらかじめ調べておいた自分のクラス、一年A組へと急ぐ。
階段をのぼり、廊下を早足で歩いていると、自然と異世界のことが脳裏をよぎった。
ただただ退屈だったダンジョン攻略。
ひたすらしんどかった魔族との戦い。
長い、道のりだった。
異世界に喚ばれて、勇者になって。
魔王を倒して、姫を助け出して、ようやく手にした平穏。
さらば、かつての非日常。
そして今日からよろしく、素晴らしき日常――!
教室に辿り着いた俺は、勢いよく教室のドアを開き、愛すべきクラスメイトたちに爽やかな挨拶をしようと
「――光祐さま?」
俺のすぐ目の前、廊下側一番前の席に尋常じゃない人だかりができている。
男女問わず、クラスメイトのほとんどが集まるその中心に、とんでもない美少女がいた。
小さなティアラの形をした髪留めと、首に巻かれた複雑な細工が施されたチョーカー。
腰まで伸びる絹糸のような髪に、人形のように整った顔。
制服から伸びる手足はすらりと細いのに、女性らしさはまったく失われていない完璧なプロポーション。
大きな瞳を穏やかに細め、洗練された仕草と憂いを含んだ微笑みで見る者すべてを虜にする彼女に。
俺は面識があった。
「……アリスティア、姫?」
魔王討伐の原因にして目的。
ほんのひと月前に救い出した『黄昏姫』、アリスティア・ディ・パーラが、感極まった表情で俺を見ていた。




