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「はぁー、楽しかった。今度は何して遊ぶ?」
春香ちゃんだけは相変わらず元気だけれど、他は全員がくたくたになっていた。
最初ははしゃいでいた冬華ちゃんやコノちゃんも、もう疲れている様子。どうしよう。
①テンション上げる ②帰る ③二人で遊ぶ
ーここで②を選ぶことになってしまうのですよねー
時間も時間だし、もうそろそろ、帰った方が良いだろ
俺はどうせ一人暮らしだし、別に全く問題はないが、雪乃さんに迷惑が掛かってしまうだろう。それに、コノちゃんのご両親だって、きっと心配してしまうだろうし。
そう提案してみれば、春香ちゃんだけは不満そうにしていたが、他は賛成のようだった。
「今日は本当にありがとうね。春香も、いつまでも拗ねていないで、ちゃんとお礼を言いなさい」
「おじさん、お姉ちゃん、ありがとっ。また遊ぼうね!」
渋々ながらも、お礼を元気に言って、春香ちゃんは手を振ってくれる。
雪乃さんと冬華ちゃんは、手を振ってお礼と別れの挨拶を言うくらいだったけれど、春香ちゃんだけは外へ出て見送りまでしてくれた。
本気で寂しそうにしてくれているのが、嬉しかった。
「可愛いし、とっても良い子なのね。アナタは、他の兄弟たちにもあったことがあるの?」
太陽のほとんどが沈み、薄暗い街は、静けさを強調するようだ。
それが先程までの時間と対照的で、寂しく思えてならない。
「雪乃さんのお兄さんの、秋桜さんって人に会ったことがあるよ。男の俺も見惚れるくらいの美形だから、正直、コノちゃんには会ってほしくないかな」
彼女の質問に、自分でも驚くほど正直な答えを返すと、コノちゃんがクスッと笑みを零した。
寂しげな雰囲気のせいだと流せないような、本当に寂しそうな笑みを。どうしよう。
①微笑む ②戸惑う ③問う
ーここでも②を選ぶことになりますー
俺が求めている、彼女に浮かべていてほしい笑みとは、違う。
こんな表情でいるよりも、もっと楽しそうにしていてほしいと思う。それなのになぜか、俺は今の彼女の姿に、いつも以上に惹かれてしまっているのであった。
儚さが生み出す美しさは、いつもの可愛らしさをも凌駕するようである。
「だったら、アナタには、コノ以外と会ってほしくないよ。だってどの女の子を見たって、コノよりも可愛いもの。お世辞を言ってくれるけれど、それくらいのこと、コノはわかっているもの」
お世辞って、そんなことはないのに。
自信を持って大丈夫なくらい、コノちゃんだって可愛いと思うのに、どうしてそのようなことを言うのだろう。
確かに雪乃さんとは違って、待ちゆく人が振り返るほどの美しさではないかもしれない。
だけれども、傍にいて安心するというか、これは褒め言葉だよ? とにかく、雪乃さんとか天沢さんとかとは違う、コノちゃんにはコノちゃんの魅力がある。
それなのにどうして、彼女はこんなにも悲しそうにしているのだろう。どうしよう。
①褒める ②励ます ③抱き締める
ーなんともここで③を選べるのですよー
どうしたらこの気持ちが彼女に伝わるのか。
俺の気持ちや想いを表す言葉が見つからなくて、ただ、彼女のことを抱き締めてしまっていた。
彼女に自信を持ってもらいたくて、彼女に安心してもらいたくて――。
「なっ、何をするのよ、突然……。驚くじゃないの」
暫くの間、俺に身を委ねてくれていたけれど、耐えかねたのかコノちゃんはそう言って腕を抜け出す。
もしかしたら、俺も限界に近かったことを、察してくれたのかもしれないね。
「わかってよ。コノちゃんが、少なくとも俺にとってはナンバーワンなのだから」
「そういう言葉はいらないんだけど、とりあえず、お世辞を言ってくれてありがとう。コノったら、本当に幸せになっちゃって、困りものだわ」
我ながら随分と気障なことを言ってしまったものだと、恥ずかしくなったところだが、気持ち良いくらいにコノちゃんには響いていないようである。
表現の仕方は嘘くささを生んでいるかもしれないが、それは俺のセンスの問題。内容自体は全く嘘のない、本心も本心なのだ。
それなのに伝わらないというのは、コノちゃんが俺を信じきれていないのだということを思い知らされる。どうしよう。
①別れる ②離れる ③抱き締める
ーここで②を選んでしまうのですー
反対に、彼女と距離を取ってみた方が、わかり合えることもあるだろうか。
ふとそのようなことを考える。
コノちゃんのことが嫌いになっただとか、そういったことは、一切ない。むしろその真逆で、コノちゃんのことが好きなあまり、視界が狭まってしまっているのだろうと思うからこそ、である。
コノちゃんのこれまで負ってきた傷を考えれば、迫るほどに傷付けることだって、わかってしまうのだから。
「お世辞ではなくて、可愛いと思っているのは本心だよ。それじゃあ、またね、気を付けて帰るんだよ」
手を振って俺は自分の部屋に帰る。
高校入学を機に一人暮らしを始めたのだから、もう一年以上が経っているはずなのに、今更になって初めての感情が沸き上がってくる。なんと寂しい空間なのだろう、と。
それは急激に寂しくなったのではなくて、賑やかになったことにより、孤独が目立つようになったのだと考えて良いだろう。
ついさっきまで一緒にいたのに、もうこんなにも苦しいだなんて、俺は相当に重症なようだ。
このイベントにつきましては、とりあえず、ここで終了ということになります。鬼山雪乃の攻略のためもあって、これからもこの家を訪れることはあると思いますが。
ハーレムを目指すにおいて、たった一人を一途に好きになるというのは、完全なる禁忌になります。それはもう、嫌いが存在するのも問題ではありますが、好きが存在するのも問題となってしまうのですから、難しいものです。そして堂本木葉は、このままでは、たった一人の特別へと近付いてしまいましょう。
ですから無事にハーレムへと辿り着けるよう、僕がちょちょいと手助けをしなければなりませんね。くっくっくっく。




