ヌ
おじさん事件はあったけれど、なんだかんだ、無事におままごとがスタートする。
のだが、鬼山家は、かなり独特スタイルでのおままごとが主流となっているようであった。どうしよう。
①合わせる ②戸惑う ③俺流で
ーここでもちろん①を選ぶのですよー
郷に入っては郷に従えとでもいうのだろうか。
そんな感じの言葉もあったと思うから、鬼山家でおままごとをやるからには、そのルールに合わせるのが当然というものだろう。
本当に理解に苦しい設定な上、説明もないのだからいまいち理解は追い付かないが、所詮は近所の優しいおじさんだから、大丈夫に決まっている。それよりも心配なのは、謎の配役を与えられた、コノちゃんの方である。
なぜだか、彼女自身は余裕の笑みを浮かべているものだから、こちらとしては何も言いようがないんだけれどね。
もしかしたら、彼女は鬼山家スタイルの設定を、瞬時に理解することが出来たのかもしれないし。
「ねえねえ、大丈夫ですか? 優しいおじさんが死ぬときですよ」
喋ろうとする度に、おじさんは黙っていて、と春香ちゃんに怒られてしまっていた。そんな状態なものだから、メンタル的にやられ始めていた頃のこと。
遂に冬華ちゃんから役割を与えられたのだ。
近所の優しいおじさん、最初の出番、と思ったらいきなりなぜだか死ぬらしい。
話はきちんと聞いていたつもりだけれど、全く会話が繋がらなくて、いつの間にか近所の優しいおじさんは死を迎えるのだ。
ちなみに雪乃さんどころか、コノちゃんまでがわかった様子でこちらを見ている。
早く死ね、みたいな目でこちらを見ている。どうしよう。
①合わせる ②戸惑う ③運命を変える
ーここでも①を選択してしまいますー
どういう流れか不明だが、そういう空気になってしまっているのだから、合わせる他ないのだろう。
「お疲れ様」
そこで本当に近所の優しいおじさんは死んでしまって、更なる超展開へと発展していき、そうして物語が終焉を迎えると、笑顔でコノちゃんがそう言ってくれた。
役になり切り過ぎていて、完全に終わるまで、全く笑顔を向けてくれないんだから怖かったよ。
「楽しかったね。おじさんの演技力がちょっと足りなかったけど」
終わった後に春香ちゃんが満面の笑みで、そう厳しい言葉を零した。
演技力って言われても、ほとんど演技と言うほど、何もしていないと思うんだけれど。出番自体が、ないも同然なのだから。
それ以前に、幼稚園生と小学生を相手にした、おままごとという遊びに演技力は必要となるものだろうか。
……心が折れそうだよ。どうしよう。
①次の遊び ②もう一度 ③諦める
ーここも①を選択致しますー
雪乃さんから頼まれているのだから、ここで逃げてしまうわけにもいかない。
もう一度頼みたいと思ってくれるように、そして春香ちゃんと冬華ちゃんも、もう一度遊びたいと思ってくれるように、逃げ出してはいけない。
でもそれにしても、またおままごとをしようというのは、さすがにこの調子じゃ俺のメンタルが持たないだろう。
設定が変わったとしても、俺の立ち位置はどうせ変わらないのだろうと思うし。
「それでは、次は何をしましょうか。おままごとの他に、やりたい遊びとかないのですか、ほら……幼稚園とか小学校とかではやっているゲームとかさ」
言葉ではなくて、心が彼女の心に届いたのだろうと思う。
おじさんおじさんと言いながら、俺の改善点を上げてばかりだった春香ちゃんが、一旦はそれを止めてくれた。
そう難しいことは言っていないと思うのだけれど、なぜだか質問には答えてくれない。
メンタルが限界を迎えそうだから、悪いところはもうそれくらいにしておいてほしいという、切実な気持ちは届いたようだから、とりあえずそこは良かったかな。
さて、相手は子どもだからと甘く見ていたが、行動の読めなさは大人より上だ。
「疲れたの? 別にだれも気にしちゃいないんだから、おままごとだと思って、はっちゃけて楽しんじゃった方が良いと思うよ。それだと、アナタで遊ぶという、コノの楽しみが奪われちゃうから、そこは残念だんだけど、さすがに可哀想に思えてきたからさ」
一体今度は何を言い出すつもりなのかと、あまりに身構え過ぎていたせいだろう。
それを解してくれるような、優しいコノちゃんの声が隣から聞こえる。
俺と遊んでいたのではなくて、俺で遊んでいたのだというのが、かなりの問題発言ではあるが、気にならないほどの癒し効果だった。どうしよう。
①抱き締める ②グッジョブ ③復活する
ーここは③を選べるのですよー
はっちゃけて遊ぶ自信はないけれど、俺も楽しんで大丈夫だということはなんとなく読めた。
どうもそうは見えないけれど、やはり春香ちゃんは冬華ちゃんのお姉ちゃんなのであり、姉としてしっかりしているところもあるのだ。
子どもの面倒を見るといっても、相手は赤ちゃんじゃない。なのだから、そう大変なはずもなく、一緒に遊ぶのだから俺も楽しむべきだということになる。
それに気付いてしまったのだけれど、子どもだから仕方がないではなく、春香ちゃんは全てわざとだと思うんだよね。
何にしても俺は遊んであげるという上から目線な考えでなく、対等に一緒に遊びたいと思う。
雪乃さんとの距離を縮めるため。そういった下心さえ、完全には覆い隠してしまわないくらいに、ね。




