ニ
一緒に遊ぼうと飛び付いて来る彼女は、本当に楽しみに待っていたのだということを感じさせてくれる。
口には出さないけれど、笑顔でいてくれる冬華ちゃんも、楽しみにしてくれていたのだろう。どうしよう。
①遊ぶ ②遊んであげる ③任せる
ーここは①を選ぶのですー
何をして遊ぶのが、これくらいの子たちは、楽しいのだろう。
わからなくて首を傾げていると、可愛らしく冬華ちゃんが俺の手を握った。
「おままごと、一緒にしようよ」
「はるちゃんもおままごとしたーい!」
小さく俺の手を引く冬華ちゃんと、元気に手を挙げる春香ちゃん。
どうやら二人とも、おままごとをしたい、ということで意見は一致しているらしい。
やはり女の子と言ったら、おままごとをしたいものなのだろうか。
残念ながら幼い頃から俺はぼっちだったので、女の子と一緒に遊んだ経験なんて、認識し記憶している限りはない。
おままごとなんて、参加したことがあるわけがない。どうしよう。
①同意 ②拒否 ③挑戦
ーここは③になってしまうのですねー
しかし二人がやりたいと言っているのだから、やるしかないのだろう。
何事も挑戦あるのみだ。
それに相手は幼稚園生と小学生。対する俺は高校生であり、コノちゃんだって着いている。雪乃さんも着いている、と信じている。
ちょっと待って。遊び相手になるという話だったけれど、それは二人の、ってことで良いんだよね?
雪乃さんのことだから、私の遊び相手にもなりなさいよ、くらいのことを言い出しそうで怖い。
「じゃあ、はるちゃんはママやるね」
「えー、ずるい。ママがいい」
「ずるくないもん。はるちゃんの方がお姉ちゃんだから、はるちゃんがママやるんだもん」
「うぅ、したら、ネコさんやる」
「わかった。ネコさんね」
喧嘩になりそうだったので、仲裁に入ろうとしたのだが、二人の間できちんと解決したらしかった。
役決めであろうと思われるのだが、ネコさんというのは、猫のことで良いのだろうか?
よくわからないけれど、春香ちゃんはママ、冬華ちゃんはネコさんになったらしい。
お姉ちゃんじゃなくて、妹である冬華ちゃんが譲るところが、らしいと言えばらしいところだ。
本当に、四歳とは思えないほどしっかりしている。
ひょっとしたら、下手したら、雪乃さんよりしっかりしているかもしれない、そう思えるほどだ。
「おじさんは何やるの? って、おじさんなんだから、近所におじさんに決まってるか。あはは」
今度は俺の役を決めに来てくれた。
と思ったら、なぜだか一人でノリツッコミのようなものを展開し、春香ちゃんは俺のもとを去ってしまった。
このままだと、強制的に近所のおじさん役で確定してしまう。どうしよう。
①仕方がない ②反対 ③楽しそう
ーここは②を選択致しますよー
何役だって別に構わないが、近所のおじさんはさすがにちょっと……。
「待って。近所のおじさんじゃなくて、もう少しほかに、何かありませんかね?」
そう判断をした俺は、通らないだろうとは思いつつも、春香ちゃんに異議を申し立てる。
案の定、意味がわからない、というような顔をされる。
「あるわけないじゃん。だっておじさんだもん」
「おじさんじゃないよ、お兄ちゃんだよ。だって雪乃お姉ちゃんのおともだちだもん」
春香ちゃんの説得は不可能なのか。あまりに当然のように言うので、そう思い諦め掛けていたそのとき、天使が舞い降りたのだった。
ナイス! さすがは冬華ちゃんである。
最初から彼女は、俺のことをお兄ちゃんと呼んでくれているし、春香ちゃんに対してもそう言ってくれるなんて。
これで春香ちゃんも納得して、俺のことをお兄ちゃんと読んでくれるようになったら良いな。
いや、妹属性が好きで、幼女にお兄ちゃんと呼ばせたい人だとか、そういうのじゃないよ?
そうじゃなくて、おじさんをお兄ちゃんに直してもらいたい、それだけのこと。
このままだと、ロリコン認定されかねなそうだったからね。危ない危ない。
「おじさんはおじさんなんだけどなぁ」
ロリコンと思われるのは免れても、おじさんと呼ばれるのは辛い。
冬華ちゃんに言われても、俺が若いとは認めたくないらしい。どうしよう。
①仕方がない ②説得する ③応援する
ーここは③を選びましょうー
しかし俺が説得に入っても、それはそれで、もう逆効果なんじゃないかと思える。
つまりは俺の運命は、冬華ちゃんに託されたということである。
「そうですよね、俺はおじさんじゃなくて、お兄ちゃんですよね」
「うん、そうだよ。春香お姉ちゃん、ごめんなさいしないと駄目なの。お兄ちゃんのことおじさんって言ったら、ほんとにおじさんになっちゃって、春香お姉ちゃん食べられちゃうよっ!」
謝って、お兄ちゃんに訂正しろと、そう言うところまでは良かったと思う。
その先は少し残念だったかな。
冬華ちゃんが持っている、おじさんのイメージが謎なんだけど。
「お兄ちゃんは優しいもん! おじさんじゃないんだよ!」
うん、おじさんを否定してくれるのは、そりゃ嬉しいしありがたい。
だけど別に、おじさんだからと言って、食べられはしないと思うし、優しいおじさんもいると思うよ?
小さな女の子にとって、おじさんってそんなように映っているのかな。
だとしたら、気を付けないといけないんだろうな。
とにかくロリコンと思われることは、ないようにしていかないとだ。
「優しいけど、おじさんはおじさんだもん。ねえ、おじさん」
嬉しいことに春香ちゃんは、俺のことを優しいと思ってくれているようだ。
頑なにおじさんだと言い張って、そこを変えてくれる気は微塵もないようだけどさ。どうしよう。
①諦める ②諦めない ③進めよう
ーここで遂に①を選んでしまいますー
どう頑張ってもこの子は無理そうなので、やはり諦めるしかないようだった。
話が進まないし、おままごともこれじゃあ始まらないし、そう思って二人を止めようとすると、さすが雪乃さんは二人の姉である。
彼女が二人の頭を撫でたら、二人とも嬉しそうな笑顔になって、静かになったのである。
あの手には魔法が掛かっているとしか思えないレベルだ。
「優しいおじさんってことで良いでしょ? だから近所のおじさんじゃなくて、近所の優しいおじさんにしてあげよう。春香も冬華もそれで良いわよね?」
「「うん」」
雪乃さんの言葉に、二人とも素直に元気に返事をし、俺は近所の優しいおじさん役に決定してしまった。
フォローしているようで、フォローしてくれていないのだよね。
あの人は、俺が同級生だということを、わかっていておじさんだとか言っているのだろうか?
傷付くなぁ、もう。
「隣で笑っているコノちゃんも、同罪だからね」
おかしそうに腹を抱えている彼女に、そう言ってやれば、コノちゃんはペロッと可愛く舌を出す。
そんな可愛いところ見せてくれても、許さないんだから。




