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「おじさん連れてきたよーっ!」
どうしてもおじさんであることに、傷付きながらも春香ちゃんと鬼山家へやってくると、彼女はスキップで家に入って行った。
「二人とも、いらっしゃい。大変だと思うけど、頼むわね」
春香ちゃんの元気な声を聞いてか、雪乃さんが迎えてくれる。どうしよう。
①任せて下さい ②……頑張ります
ーここできちんと①を選べるのですー
そうして、美しくて可愛らしい、完璧な笑顔を見せてくれた。
「任せて下さい」
自分が苦しくなるとわかっているのに、彼女の笑顔の前には、自信を持ってそう言ってしまっていた。
彼女の持つ魔力にやられたのではないかとすら思えるくらいである。
「コノも頑張りますので、お任せ下さい。それでところで、残りの美少女と美少年は、どこにいらっしゃるのでしょうかっ」
多少は人見知りが残っているようであるが、興奮気味にコノちゃんは雪乃さんに訊ねる。
どうやら家については何を思うところもなかったらしく、変わらずに彼女の瞳は輝いているようだから、とりあえずは一安心だ。
それにしてもコノちゃん、本当に嬉しそうにしているな。どうしよう。
①嫉妬 ②可愛い ③頑張ろう
ーここは②を選ぶんだそうですー
雪乃さんの笑顔は、確かに欠けることがなく正に完璧である。
だけどやっぱりコノちゃんのこの笑顔が、俺にとっては堪らなく可愛いんだよなぁ。
ロリショタを求める怪しい人状態ではあるけれど、それでも、コノちゃんが可愛くて仕方がない。
そんなところも含めて、コノちゃんはコノちゃんなんだしさ。
「家の中にいるわよ。あっでも、親と兄と、あと一番下の子は一緒にお出掛けしているの。海夏は部活もあるから、まだ学校から帰ってきていないわ。だから残りのとは言っても、もう冬華しかいないけどね」
美少女と美少年を、全く否定しないどころか、完全に受け入れているところが雪乃さんである。
事実なのだから、否定されてもそれはそれで困るけどさ。
一人残らず本気で全員が物凄く美人なんだからね。両親はどうなってんだという話だ。
「美少女と美少年に囲まれる、ということを期待していたんだけど、そういうことはないみたいだね。ただ、少なくとも三人の美少女と一緒に、コノなんかが遊べちゃうんだよ。嬉しいったらありゃしない、嬉しいったらありゃしない」
たぶん、冬華ちゃんが待っているのであろうと思われる場所へ、笑顔で雪乃さんが案内をしてくれる。
その後ろに続きながら、踊りながらスキップしているかのような、外から見てもわかるほどに嬉しそうな歩き方で、コノちゃんは俺に話し掛けて来る。
二度も嬉しいったらありゃしないを繰り返してくれなくても、嬉しいのだろうということは伝わるから大丈夫なのに。どうしよう。
①はしゃぐ ②見守る ③制する
ーここのイメージとしても②が良いでしょうー
せっかく彼女が喜んでいるのだから、それに何か言うこともないだろう。
手を出したりお持ち帰りしようとしたり、犯罪の匂いがするレベルのことをし出さない限り、黙って彼女が楽しむ姿を俺は楽しんでいようかな。
それだけ彼女がはしゃいでいると、俺もはしゃいでしまいそうになるけれど、手伝いに来たのだから雪乃さんに迷惑を掛けるようなことは、くれぐれもないようにしないといけない。
隣で跳び回っている春香ちゃんの、この元気さを考えたなら、はしゃぐ余裕もなくなるだろうとも思うし。
「こんにちは。鬼山冬華です。四歳です」
雪乃さんに連れて来られた部屋は、勉強道具やおもちゃ、お菓子などいろいろなものが散らかっていて、綺麗とは言えない部屋であった。
広さも含めて、ほとんど俺の部屋状態である。
男子高校生が一人暮らしをしている部屋レベル、両親はどんな人なのか不思議でならない。
いつも家にはいないようだし、子どもたちはこんなにも美人揃いだし、かといって飾り立てるような様子は少しもないし、もうどこを取っても魅力でしかない。
部屋に入ると、そこで待っていたらしい冬華ちゃんが、お辞儀までして礼儀正しく挨拶をしてくれる。
その手には可愛らしいうさぎのぬいぐるみが握られていて、それまで一人で遊んでいたのだろうと思う。
「あっ、……こんにちは。その、堂本木葉っ、です……。えっと、冬華……ちゃん?」
思いの外しっかりしていたことにより、驚きも入っているからなのだろうか。人見知り全開で、コノちゃんはかなり緊張している様子に見える。
けれども人見知り特有の、目を合わせられないということはなく、それどころかむしろ、冬華ちゃんの可愛さのためか視線を逸らせずにいるようであった。
子どもながらも、子どもならだれもが持つ可愛さだけではなくて、女の子としての可愛さを持っているのだから将来はどうなるのか怖いものだ。
きっと雪乃さんが完璧な美少女であるように、春香ちゃんも冬華ちゃんもそうなっていくのだろうな。どうしよう。
①大好き ②もらいたい ③可愛いな
ーここは③を選びますー
どこから見ても可愛いのだから、だれを見ても綺麗なのだから、この家族というものは恐ろしい。
「おじさん、お姉ちゃん、一緒に遊ぼうっ」
三人もの美少女に囲まれるというのは、喜びも大きいのだけれど精神が磨り減ることでもあり、俺とコノちゃんは満喫しながらも秘かに疲れを感じ始めていた。
まだ何もしていないのだけれど、美少女を鑑賞していると、無意識のうちに、全神経を集中させてしまうじゃないか。それにより、疲れが出始めてしまうのは、ギャルゲープレイヤーとして当然のことなのである。
見惚れてしまっていたせいで、話すことなど出来ず沈黙となる。
時間が止まってしまったように固まっていて、その様もまた、芸術作品のように思えるものだから、気まずさというものも少しも感じない。
そんな不思議な時間が流れていくのを、元気な声で止めたのは春香ちゃんだった。




