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ハーレムへの選択肢  作者: ひなた
鬼山家にて
92/223

 修学旅行が終わって翌週、昼休みのことだった。

「今日、私の家に来なさい! わかったわね!」

 絶世の美女である雪乃さんが、校内であまり有名になっていないのは、二つの理由があると思う。

 まずは、完璧を演じていないこと。

 本人が疲れてしまうくらい、完璧に完璧を演じ、作られたキャラクターであり続ける。そうしたら、素でいる人たちよりも、際立ってしまうのは必然。

 演じる役が優秀であればあるほどに、本人との差が大きければ大きいほどに。

 疲労は大きくなっていく。その一方で、カリスマ性も上がっていく。

 そうして作られたその人は、美しく語り広まっていくのだろう。

 次に雪乃さんは、あまり明るいタイプではない。

 元気に笑っているイメージはあるが、愛想を振りまいているイメージは、全くと言っていいほどにない。

 クラスの中心に立つリア充となるには、必須条件と思えるそこが抜けているのだ。

 結果として、その美しさは、埋もれることになってしまった。

 ただ、その埋もれていた美少女が、突如として教室にやってきたらどうだろう。

 噂に何も聞いていなくとも、目の前に美少女がいる、その事実は確かなものだ。

 雪乃さんのことを知らない生徒がほとんどだった、我がクラスのリア充男子どもが、ズカズカと教室に入って来る雪乃さんに、そういった視線を向けているのは明らかだった。

 それに対する、女子たちの反応も、見方も、明らかだった……。

 当の本人はそれに気が付いていないのか、俺の目の前にまで歩いて来ると、命令を下すとすぐに戻って行こうとする。

 目立っているなんてレベルではなかった。どうしよう。


 ①止める ②追い出す ③逃げる


 ーここはなんとか①を選びますー


「ねえ雪乃さん、それなんだけどさ、彼女も連れて行って良い? 手伝ってくれるということらしいし、堂本木葉というんだけど、すごく優しい人だから、来てもらったら助かると思うんだけど」

 出来ることなら、早く出て行ってもらいたかった。

 今までに向けられたことのない数の、無数の視線に中てられて、雪乃さんが去ってくれないのなら、こちらが逃げ出そうかというくらいだった。

 それでも”雪乃さんには俺から頼んでみる”と、コノちゃんに言ってしまった以上は、頼むだけでもしないといけないと思った。

 答えを聞いたら、今度はすぐに出て行ってもらおう。

 雪乃さんと一緒にいられるのは嬉しいけれど、教室だと、あまりに注目されてしまうからね。

「わかったわ。人数は多い方が良いに決まってるし、来てもらえるんだったら、是非お願いするわよ。それじゃ、学校が終わったらよろしくね」

 拒む理由もないからだろう。雪乃さんは笑顔で受け入れてくれて、隣でコノちゃんが嬉しそうに笑っている。

 教室内の居心地は、果てしなく悪いのだけれども、それだけで俺はとても幸せに思えるのだった。

 修学旅行の日には、二人の間に少し、ギスギスしたような雰囲気があったような気がした。

 その原因は、俺がコノちゃんを不安にさせてしまったことであり、勘違いからコノちゃんが嫉妬してしまったことだった。しかし誤解も解けたのだし、雪乃さんからコノちゃんを悪く思う要素は少しもないわけで、そう考えたなら、二人がこうして仲良くなってくれたのも、必然といえば必然なのだろう。

 コノちゃんが嫉妬してくれなくなるのは、寂しくもあるんだけどね。

「あ、ありがとうございますっ。あんまり役に立たないと思いますが、コノなりに頑張ります」

 そこは自分で言わないといけないと思ったのか、緊張した様子ででも、雪乃さんの目を見てコノちゃんはそう言った。

 そして、安心したように、嬉しそうに笑ったのだった。どうしよう。


 ①ときめく ②戸惑う ③微笑む


 ーここでは③になってしまうのですよねー


 コノちゃんの笑顔に、雪乃さんも笑顔を見せてくれるかと思ったが、彼女は困ったような顔をしていた。

 その表情を作っている主なところは、照れ、というところだと思う。

 だからこそ二人の姿が微笑ましくて、俺は思わず微笑んでしまうのだった。

 視線を気にしないようにするための、現実逃避も目的に含まれている、そんな微笑みでもあるんだけどね。

「んじゃ、もう教室帰るから、放課後は本当によろしくね。あとついでに言っとくけど、テストが近付いてきたら、また勉強を教えに来て頂戴ね。先生が二人になったら、もっと嬉しいかな、とも思うんだけど?」

 一度ここを去ろうとした雪乃さんは、思い出したように戻って来てそう付け加えると、手を振って今度こそ教室を出て行ってしまった。

 妙に手を振るその仕草が、優雅に見えるところが腹立たしく思えるほどであった。

 とてもじゃないけれど、優雅だとは思えない彼女の言動を知っているからこそ、彼女を友だちとして認識しているからこそだ。意識せざるを得ないほどに美しい、彼女との二人きりの時間には、ときどき辛いところがあるというもの。

 浮気なんて、決してするつもりじゃなかったとしても、だ。

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