チ
どうやってコノちゃんに伝えたものか。
彼女と実際に接してもらわなければ、言葉で感覚を説明するのは難しい。
「いちゃいちゃとかじゃなくて、本当にただ、勉強をしただけなんだ。ああ見えて彼女、成績が物凄く悪いものだから、俺が教わったのではなくて教えてあげたんだよ」
だから何という話だろう。
俺が教わるのと、俺が教えるのとで、接するところに差があるわけでもない。どうしよう。
①諦める ②諦めない ③秘策
ーここは②を選択致しましょうー
何を言ったなら、コノちゃんは機嫌を直してくれるんだろう?
「そりゃあ当然ながら、俺に勉強を教えてくれようという美女は、何か裏がない限りありえないだろう。だけどほら、俺は他の人に比べて暇だし、使いやすいから、俺に勉強を教わろうということなら、雪乃さんとしても……ね」
冷静にいることが大切だと思うのに、どうしても駄目だった。
心が諦めに侵食されることにより、動揺や焦りが大きくなっていくようである。
ほんの少しも言葉が響いていないようで、全く動く様子のないコノちゃんも、俺に動揺を抱かせる要因となっていることだろう。
だってもう一押しだと思ったら、こっちだって堂々と出来るじゃない。
「アナタに勉強を教わるくらいじゃ、相当に頭が悪いのね。どうやって入学したのかしら? 顔? 顔なの?」
驚くほどに恐ろしい表情で、コノちゃんはそんなことを言ってくる。
どうして受かったのかという謎はあるが、顔が良いからと言って、高校に合格するようなことはないだろう。
どう答えようものか困っていると、急激な笑顔。
「でもそれって、コノでも勉強を教えられるくらいってことだよね。勉強を教えに来たって言ったら、コノも、あの超絶美少女の自宅で勉強会が出来るのかな。妹ちゃんと仲良くなっちゃったり?」
そうか。ゲームの好みからして、コノちゃんは俺と変わらないんだ。
だからこそ、俺に嫉妬してくれたんじゃなくて、反対だったのか。雪乃さんと一緒にいるなんてズルいと、そういうことだったのか。
つまりはコノちゃんも、雪乃さんと友だちになりたいってことで良いんだよね。どうしよう。
①誘う ②笑う ③却下
ーここは①を選びましょうー
彼女に友だちを紹介するという、かなり顔の広い真似を、この俺に出来る日がくるとは……。
そんなことを思いながらも、コノちゃんの笑顔に笑顔を返す。
「今度、雪乃さんの家に行って妹たちと遊ぶことになったんだけど、良かったらコノちゃんも一緒にくる? 雪乃さんには俺から頼んでみるから」
「うん、お願い!」
驚くほどの即答である。
その中には、休日も俺と一緒にいたいという、そういった想いも入っていることを願う。
恋人同士だもんね。
「どうやって知り合ったの? 本当に、本気で」
彼女の興味が完全に雪乃さんへ向いてしまっているが、俺はめげないのさ。
雪乃さんとの間にあったことを、残らず一つ一つ、コノちゃんに説明をした。
そういえば、学校で雪乃さんを見掛けた朝、問い詰めるほどにコノちゃんは興味を示していた。
ストーカーでもするんじゃないか、というくらいにね。
「美少女運がそれだけ良いのに、彼女はコノなんかで良いの? 絶対にあっちの方が可愛いし、隣を歩いているだけで、あれはもう勝ち組だと思う美少女っぷりだと思うよ」
俺から限界まで雪乃さんの情報を聞き出すと、いまいち読みづらい表情で彼女はそう言う。
本気で言っているようにも見えるし、冗談を言っているようにも見える。
コノなんかで良いの、か。どうしよう。どうしよう。
①良い ②駄目 ③が良い
ーこれはわかりやすく③を選べという奴ですねー
外見的なところから行けば、雪乃さんに勝る人などそういないだろう。
しかしだからといって、最高の恋人かと言われたら、必ずしもそうとは限らない。
もちろん、もし希望があるというのなら、雪乃さんと恋人になりたいという気持ちだってないわけじゃない。あれだけの美少女なのだから、望まない人は男じゃないと思う。
コノちゃんという大切な彼女がいながら、こんなことを思う俺は最低だよな。
だけど俺は、どちらか一人を選べと言うのなら、間違えなくコノちゃんを選ぶことだろう。
一応、注意として言っておくよ。
雪乃さんの顔が整い、可愛すぎているというだけの話。
決して雪乃さんは顔だけで、性格が悪いとは言っていない。コノちゃんの顔が可愛くないと、そう言っているわけでもない。
ただ雪乃さんがあまりに可愛いというだけ。
でも、それでも俺は。
「彼女はコノちゃんが良い。コノちゃんが良いんだ」
何が大切かって、自分と合っているかだと思うし。
コノちゃんほどに気が合う、話が合う女の子はいないと思うんだよね。
素直にそう思うんだけど、口にしてから照れくささに襲われる。どうしよう。
①抱き締める ②逃げる ③目を逸らす
ーここでも③を選択しますー
重なる視線が恋人らしかったから、俺はつい逸らしてしまった。
「ありがと。コノはすぐに不安になっちゃって、面倒だと思うけど、だから一カ月に一回は、その言葉を聞かせてね。コノのこと、不安にならないくらい、好きって言ってね」
少し前の不機嫌は何だったのかと言うくらい、ご機嫌な笑顔を向けてくれる。
ここになってから、俺はやっと気が付くんだ。
彼女は、本当は別に、怒ってもいなかったんだということ。
いつまで経っても俺が戻らなかっただけだから、少し意地悪をしたんだって、それだけのことだったんだ。悪戯っぽく弄んだ、それだけなんだ。
意外にもそういうところがあるから、コノちゃんは可愛いんだよ。
もう、本気で惚気だわ……。




