け
天沢さんとの運命を信じ、家に帰るともう夕方。時間はぴったり六時だった。どうしよう。
①勉強 ②運動 ③読書 ④ゲーム ⑤寝る ⑥風呂
ーここは①にしておきましょうかー
二年生になったんだから、勉強もしないといけないよね。どうしよう。
①宿題 ②提出物 ③予習復習
ーここも①なんですー
そういえば、宿題が出ていたんだった。
期限に猶予がある提出物や、真面目に予習復習なんてことはヤル気になれない。
親に送られた問題集もあるが、やはり面倒になってしまう。
それでもさ、明日提出するべき宿題くらいは、ちゃんとやらないとだよね。
まあ、それも先延ばしにしてきて、遂に提出前日までやってきてしまった宿題なんだけどね。
だって面倒なんだもん、しょうがないじゃん。
教科書を見ながら、頭を抱えてなんとか宿題を終えると、既に七時を回っていた。
一時間以上集中力が続いていたことを考えると、俺にしては上出来だっただろう。
疲れた。勉強って、新しい運動だよね。どうしよう。
①運動 ②読書 ③ゲーム ④寝る ⑤風呂
ーここは⑤にしますー
時間を考えたら、お風呂に入っておこう。
買っても読めていない本。買ってもプレイ出来ていないゲーム。
手を付けたら、きっともう翌日まで止まらないだろう。
それを考えたら、やることを先に済ませておいた方がいい。
だから俺は、ちょっと早めにお風呂に入るのです。どうしよう。
①部屋の風呂 ②銭湯 ③温泉
ーここでは②を選ぶんだそうですー
一応、部屋にも小さな風呂が付いてはいる。
それでも、風呂掃除をするのが面倒で、ほとんど使ったことがない。近くの銭湯へ行ってしまうのだ。
わざわざ外出して、そこまで行く方が面倒かとも思う。
家で入れば節約にもなると思う。
それはわかっているんだけど、やめられないのよ。
寂しさも紛れるし……。
これ以上考えていると、自分が可哀想になってくるから、そのことについてはもう考えないようにと封印しておく。
宿題を片付けると、いつもの用意を手に取り、銭湯へと出発した。
春の風が妙に冷たくて、その寒さがちょっと寂しく感じられる。どうしよう。
①温もりを ②温かい女の子を ③早く行こう
ー飢えているのですね では③にしましょうー
女の子と腕を組んでいれば、体が暖かかったんだろう。手を繋いでいれば、それだけでも暖かくなったんだろう。
体が、そして心が暖かくなったんだろう。
妄想を繰り広げていると、一時的な暖かさを味わえる。
それでもその後が物凄く寒くなってしまうので、早く温まりたいと走っているくらいの早歩きで行った。
「はぁ」
着いてからも早送りなくらいの速さで、温かい湯船を求めた。
男だらけの空間でも、その暖かさには幸せの吐息が漏れる。
周りが女の子だったらいいのに。そんな痛々しい妄想を繰り広げていると、幸せになれてしまうのだから、人間の想像力は怖いと思う。
想像力? 妄想力? それとも、現実逃避なのかな。
また自分が哀れに思えてきてしまう。
だからゆっくりと立ち上がり、着替えを済ませる。
そういえば、ずっと制服で過ごしていたんだな。早帰りなんだから、着替えてから行けば良かった。
でも制服じゃなかったら、同じ学校だと天沢さんに気付いてもらえなかったのかな。そうしたら、話し掛けてもらえなかったのかな。
そんなことを考えながら、制服を畳んで持ってきた部屋着に着替える。
どうせこんなところだし、帰宅までの間くらい、部屋着でもだれにも会わないさ。
だれに会ったところで、だれも俺のことなんて見ていないだろうし。どうしよう。
①溜め息 ②ポジティブ ③帰ろう
ーここも③ですねー
大人しく帰ろうか。
考えれば考えるほど自分が可哀想だし、そう思えば思うほど現実逃避をしたくなる。
駄目だ! 今年の俺はリア充になるんだって、そう、決めたじゃないか。
「きゃははっ、うわっ!」
トボトボと男湯を出たところで、何か足に当たる感覚があった。
幼稚園生くらいの女の子である。
いやいや、さすがの俺だって、ここまで小さな女の子にはなんとも思わないよ?
俺の妄想だってそんなに酷くない、はず。どうしよう。
①抱き締める ②話し掛ける ③目を擦る
ーここは普通に②でいいでしょうー
きっとこの女の子は、俺の妄想なんかじゃない。妄想ならば、もっと同世代くらいの女の子が出てくるに決まっている。
たしかにこの女の子は、物凄く可愛らしい。
このくらい年齢の子はだれだって可愛らしいものだろうが、そうじゃなくて、純粋に可愛い女の子だと思うんだ。
大きくなったら絶世の美女が生まれる。推測ではなく、はっきりとそう言い切れるほどに可愛い。
でもだからといって、妄想ではないと信じよう。
「どうしたんですか?」
なぜ幼女相手に敬語を使ってしまったのか。
自分の癖を呪いながらも、目線を合わせて彼女に問い掛ける。
「おじさん、一緒に遊ぶ? 今ね、お姉ちゃんとおにごっこしてるんだ」
泣かれたりしたらどうしようとも思ったが、幸いそんなことはなかったらしい。
しかし高校生でおじさんと呼ばれることになろうとは。この無邪気な少女の言葉に若干傷付きながら、保護者を探すのが得策と知る。
そのお姉ちゃん、と呼ばれている人と来ているのかな。
怪しまれる前にこの子を預けてこよう。