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何をどう頑張っても、たった数分での状況の改善は見込めないな。どうしよう。
①諦めない ②部屋に戻る ③諦める
ーここは②を選びましょうー
だとしたら、時間に遅れてしまわないためにも、今は部屋に戻るべきなのではないだろうか。
この時間が続くのも辛いし、三人で仲良く先生に叱られるなんて、間違えなくコノちゃんの機嫌が悪化する。
せめてそれだけは避けるために、今この場では諦めようじゃないか。
しかし誤解は解かなければならない。それにおいては、諦めるつもりもない。
「雪乃さん、もう時間ですから、部屋に戻りますよ。コノちゃんも、部屋に戻ってから、ゆっくり説明をすると致しましょう」
時計を見せれば、二人とも仕方がないと立ち上がる。
移動中も睨み合ったままだったのだから、エレベーターという狭い密室はかなり気まずかった。
一組ということで、雪乃さんが先に降りたのだが、コノちゃんと俺だけでも気まずさは変わらない。
楽しい修学旅行。初のリア充学校行事。
そのはずだったのに、どうしてこうなってしまったのだろう。どうしよう。
①俺のせい ②コノちゃんのせい ③雪乃さんのせい
ーここで①を選ばずにどうしますー
呼び出されているのを、無視するのはあまりにひどいだろう。
名前は書いていなかったのだし、明らかに怪しかったけれど、雪乃さんには少しの悪意があったわけでもない。
その場で声を掛けなかったのは、彼女なりの遠慮。
手紙に名前がなかったのは、きっと書き忘れただけ。
文字の汚さと説明の下手さは、ああ見えて彼女の頭が悪いから。
時間に少し遅れたのは、部屋を出てから指定された場所までに掛かる時間を、考えていなかったのだろう。
結果として、コノちゃんを怒らせる原因になってしまった。
とはいえ雪乃さんは、春香ちゃんが遊びに来てほしいと言っているから、それを俺に頼んだだけ。
それじゃあ、そんなことで怒っているコノちゃんが悪いとでも?
早とちりで勘違いして不機嫌になっている、コノちゃんが?
悪いように言ってしまったけれど、そう思っているとか、絶対にそういうわけじゃない。
彼女は自分に自信が持てないから、すぐに不安になってしまうんだ。
そして俺は、そんな彼女が好きなんだ。
ここまで来たら間違えないだろう。
コノちゃんを不安にさせてしまって、雪乃さんにもきちんと説明をしなかった、全ては俺の責任だ。
多くの友だちと大切な恋人と一緒に、リア充ライフを満喫するなら、周りを気遣うくらいのことは出来なければいけないね。
それこそ、人を惹き付けるものなのだろうから。どうしよう。
①謝る ②話し合う ③誤魔化す
ーここは②を選んでいきましょうー
周りを気遣いながらも、従うばかりでない存在。
願わくば、人気者とまで言われるくらいの存在に。
「二人で話し合おうか。まずは、説明をしたいから、話を聞いてよ。コノちゃんの質問にもちゃんと答える」
部屋に戻ると、迷わず窓際まで歩いて行った。
窓へ向けられていた椅子の向きを直し、最初に部屋に入ったときに、コノちゃんが絵を描いていたあの席で、二人は向かい合っている。
もう落ち着いてくれているようで、俺の言葉にコノちゃんは頷く。
「雪乃さんが美人だとは思うけれど、彼女とはそういったことは少しもなくて、俺の恋人はコノちゃんだ。一緒にテスト勉強をしたり、妹の面倒を見たり、本当にそれだけだから」
「それだけじゃないじゃん!」
真実を言ったのだから、何を言われているのかわからなかった。
どうしてコノちゃんが大声で、俺の言葉を否定したのか理解が出来なかった。
本当に他に何もしていないのに、それだけじゃないとは、コノちゃんは何を指して言っているのだろうか。
もしかして、今日のこと? どうしよう。
①説明する ②言葉を待つ ③諦める
ーここも②を選ぶとしますー
何を持ってそれだけではないと言うのか、彼女の方から教えてくれるかと思い、俺は言葉を待った。
すると不機嫌そうにしながらも、コノちゃんは続けてくれる。
「一緒にテスト勉強をするということも、コノにとってみれば結構なことなんだけど、リア充からしてみれば普通のことなのでしょうね。友人として流してあげる。だけど、妹の面倒を見るだなんて、それは流せないわ。親密な関係じゃないと、そこまでは行かないでしょうよ」
他にも何かがあるのではないかと、疑ったわけではなかったらしい。
なるほど、そう言われてみれば、コノちゃんが思う気持ちもわからないでもない。
異性と家でテスト勉強をするだなんて、去年までの俺が聞いたら、驚くことだろうからね。友だちのいない俺からしたら、同級生の妹と面識があるだなんて、信じられないことだろうし。
そうだね。そうだよね。
よく考えてみたら、それだけで流せるような内容じゃないや。どうしよう。
①動揺 ②大丈夫 ③驚く
ーここは③を選びますー
驚いてしまっていけなかった。
俺は雪乃さんとそんなことをしていたのか……。
それを俺には感じさせず、コノちゃんに感じさせたのは、雪乃さんの外見と性格のギャップのせいだろう。
彼女は見るからに全くもって俺を異性とは感じていない。
だから俺だってそうは考えずに、彼女との時間と楽しもうとしているんだ。
とても素直な人で、俺を頼ってくれているのだと、妹や弟のために頑張っているのだと、伝わってくるから。
そんな彼女を変な目でなんか見られるものか。




